鬱々
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サレットは初日以来リスターと話す機会を失い悶々としていた・・・
サレットが調べた所によるとリスターはこの村ではとても人気があるらしく男にも女にも好かれていた。
今はリスターの言った通り父であるカージス教授兼牧師の補佐をしているようで高学年のクラスにたまに顔を出す程度であるようだ。
日曜の礼拝に行けば顔を見ることは出来るが何やら常に忙しそうにしており話をするどころか声をかけるタイミングすら持つことが出来なかった・・・
サレットは何とか話をしようとタイミングを見ているうちに2週間があっという間に過ぎてしまい恋心を胸に秘め鬱々としていた。
・・・「お爺ちゃん、リスはいつも忙しそうね・・・」
「リス?ああ、カージスんとこのリスか、そうじゃね、あの子は父親の手伝いや家の手伝い、弟の世話にといつも忙しそうにしておるなぁ・・・」村長はサレットの気持ちにも気づかずのんびりと新聞を捲っていた・・・
「お家のお世話まで?弟の面倒って言ったてもうあの子もずいぶん大きいじゃない!?」サレットは思ったよりもリスが問題を抱え込んでるように思ってビックリした。
「ああ、クロスもお前とは3っつ違いかな?昔からあの兄弟は本当に仲が良くていつもリスターはクロスの面倒を喜んで見ているんじゃよ、年が離れているせいかまだまだ幼く感じるんじゃないか?」村長は新聞を置くと妻に婆さんや、コーヒーをくれと言ってソファにもたれ窓の外をつまらなそうに見ているサレットを見やった。
「・・・サレット学校ではお友達はできたかね?」
妻の持ってきたコーヒーをすすりながら尋ねた。
「・・・できるわけ無いわ!みんな田舎っ子でドレスの生地も最新の帽子もリボンにだって話が合わないんだから!!」サレットはムッとして両膝を抱きかかえる様にして座ると唇を尖らした。
「この村で一番紳士なのはリスだけだもの。」
「・・・そうか・・・まぁ都のお友達と同じとは言えないじゃろうな・・・この新聞にしたって都の情報なんて1ヶ月近く遅れて届くんだからのぉ」村長は最後には笑って新聞をポンポンと叩いた・・・
「・・・」サレットはそんな祖父の様子を見てあきれていた。
「・・・まあまあ、無理をしなくてもサレットには都に良いお友達がいるようだから良いじゃありませんかおじいさん。」村長夫人はそんな2人を見てニコニコと優しく微笑んだ。
「そうだわ!おじいさん、たまにはリスやクロスを家に招いてみたら?サレットもお世話になっているし、たまにはあの子達ともゆっくりとお話がしたいわ。」
祖母の嬉しい提案にサレットはキラキラと瞳を輝かせ名案だわ!と叫んだ。
村長はサレットの声にビックリしながらもサレットがそう言うなら次の土曜日にも家へ招待しようと笑顔で言った・・・
「じゃあ早速準備しなくちゃ!招待状を書くわ」サレットは突然立ち上がり嬉しそうにいそいそと自分の部屋へと駆け上がって行った・・・
そんな様子を見て村長夫人はサレットの恋心に気がついたのか嬉しそうに微笑みそれならご馳走を作らないとねと言ってキッチンへ向かった・・・
村長はサレットが来て妻まで賑やかになったような気がしてやれやれと呟くと昼寝をしようと揺り椅子に深く腰掛け目を瞑った・・・
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サレットは早速招待状を渡すべく朝早く登校しエントランスにてリスターがやって来るのを待っていた・・・
リスターはいつも通りクロスを伴ってやって来た・・・サレットは他の生徒が沢山いる中で大きな声でリスターを呼び駆け寄った・・・
「リス!…クロス…おはようございます。」
「あの、今週の土曜に祖父母がリスとクロスを夕食に御招きする様に言うものですから・・・これを!」サレットは言い終るか否やのタイミングで招待状をサッとリスターの前に突き出した。
「・・・あ、ハイ。有難うございます。では両親と相談してみますので・・・」リスターは真っ赤になって俯くサレットの手から招待状を受け取り有難うございます。と言って微笑んだ。
サレットはリスの笑顔を見てますます顔を赤くすると良いお返事期待していますわ。と言って走って校舎の中に逃げ込んでしまった・・・
「・・・クロス、私から父さんに話しておくから…」ポンとクロスの肩を叩きちゃんと勉強するんだぞと言ってじゃあと教員室に向かっていった・・・
「・・・クロス~!!」大きな声で呼ばれて振り返るともう直ぐ目の前にセーラが顔を赤くして立っていた。
「クロス!!サレットは一体なんだったのよ!?」凄い形相で睨まれクロスは思わずたじろいだ・・・
「・・・良く分かんないけど村長さんが夕食に招待してくれたらしくて…その…セーラ顔が怖いよ、」クロスは真っ赤になってクロスを睨むように迫ってくるセーラに怖気づいていた。
「・・・ご、ごめん・・・で?行くの?行かないの??」セーラはハッとして恥ずかしそうに一歩引くとそれでも食い下がった
「・・・多分いくと思うよ、予定もないし、村長さんの誘いを断れないし・・・」ドキドキしながらもこれ以上セーラが近づいて来ないように腕を前に出して身を引いた。
「卑怯よ、村長を使うなんて!!」クロスには聞き取りにくい声でセーラはブツブツと怒りの罵りを吐いた・・・
「あー・・・セーラ?ひょっとして兄さんをサレットに取られるんじゃないかって心配してるの?」恐る恐るだが面白そうにセーラの顔を覗き込む。
「ちが!!そうじゃないけど・・・ただ嫌なだけよ!!」セーラは顔を真っ赤にして急いで否定してみるがクロスから見たらその顔にはセーラの気持ちがバレバレだった。
「・・・セーラ兄さんはサレットには興味ないと思うけど・・・?」
「なんで!!??」セーラは勢い込んで聞いてきた。
「!!何でって・・・そもそも兄さんが特別誰かと親しくしてる所なんて見たことないし、誰かの事を家で言うことも無いしね・・・」クロスはセーラの勢いに引きながらも思案顔で思い出すようにした。
「・・・そう、誰の事もね・・・」セーラは自分も除外された事に気付きしょんぼりとしながら有難う。じゃあまたクラスでねと言うとトボトボと校舎に入って行った・・・
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クロスが放課後ジェイと遊んで夕方に帰宅すると既に父と母の了承は得られており特に話題に上ることも無く村長が招待してくださるなんて久しぶりね程度のものだった・・・
クロスは兄の様子が気になりそっと様子を伺ったが特にいつもと違う様子も無くクロスの学校での事や父とのドラゴン教育はその後どんな様子だ?と言った程度のことを聞いてくる程度であった・・・
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土曜日の夕方、招待された時間より少し早い時間に2人は村長の家へと向かう道を歩いていた・・・
クロスは兄の様子がまだ気になっていたためそっとカマをかけてみようと思い話題を変えた・・・
「兄さん、サレットがこの村に居るのも後1ヶ月も無いね?」
「・・・ああ、そうだね…2ヶ月の予定だったから後3週間かな?」
「サレットはなんだかお嬢様風を吹かしていて苦手だな・・・兄さんはそう思わない?」
「何だ?急に、そうだね…私はあまりそうは思わないけれど・・・まぁ都で育った子だからこの村の子達とは違ってもしょうがないんじゃないかな?」リスターはどう思っているのか判らないがYESともNOとも取れる曖昧な返事を返した。
「そう?別に兄さんが何とも思ってないならいいんだ・・・」クロスはリスターの表情からは答えが伺えなかったのでチェっと舌打ちを漏らした・・・
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夕食会は滞りなく進んだ。
村長夫妻は2人を快く迎え入れリスターにはワインも出され村長婦人の手料理もとても美味しくサレットが殊のほか無口なほかは楽しい会となった・・・
食後に皆がリビングで過ごしているとワインを片手にご機嫌な村長はリスターを捕まえ嬉しそうに話しかけた。
「ところでリス、教会のお手伝いは順調かい?」
「…はい、お蔭様で父に付いて色々な事のお手伝いと勉強をさせて頂いています。」
「そうか・・・教会では何か困ったことは無いかい?次の会合の時に提出しても良いのだが・・・」
「・・・有難うございます…特に困ったことも無いのですが・・・来週結婚式が在るのですが準備も当日も人手が足りなくて・・・」言うとリスターは意味ありげにクロスを睨んだ・・・
「クロスが手伝ってくれると良いのですがなにぶん不器用で花の飾り付け等頼めなくて・・・」リスターは困った顔をして村長を見た。
「それなら適任がおるではないか!!サレットじゃよ!」村長は嬉しそうにサレットを振り返った・・・
みんなのお茶の支度をしていたサレットは思わず驚いてお茶を少しこぼしてしまった・・・
「え?私ですか?」サレットは真っ赤になりながらリスターを見てる・・・
「そうじゃよ、サレットなら都で娘さんとしての教育を受けておるからお手のもんじゃろう?」村長は意気揚々と話しそれでは解決とばかりに締めくくった。
「いやー良かった良かった、サレット、リスターの言うことを聞いてちゃんとお手伝いするように。」
「・・・サレット、ご面倒でなければよろしくお願いいたします。」リスターは礼儀正しくお辞儀すると微笑んでサレットを見たものだからサレットはますます顔を赤くすると私でよければとぼそぼそと呟いた・・・
クロスはそんな様子を部屋の隅から考え深げに見つめていた・・・
本当はもっと短く終わらせるはずだったのにサレットのキャラが濃いせいか前に前にと出てきて話が長くなってしまいました・・・
サレット…曲者です。