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その瞳の色  作者: 梅花
10/29

2日前

こちらはクロスの誕生日の2日前のお話~


ローズのお話です。


******


・・・ローズは城の中庭に位置する自身の庭で木製の揺り椅子に座ってまどろんでいた・・・



眠っていたのではない、考え事をしていたのだ五月の少し強くなりはじめた日差しに目を開けているのが辛くなり瞼を閉じ暖かい日差しと少し冷たい風を感じていた・・・


すると突然涼しく感じ眼を開けると白いパラソルを持ったフィリオと目が合った・・・


「ローズ様、お昼寝でしたら室内へ行かれては?日焼けしてしまいます。」フィリオは心配そうに覗き込む


ローズはふっと笑って上体を起こし眠っていたわけではないのと言って椅子に座りなおした。


「考え事をしていたの・・・」


「・・・ねぇフィリオ、私ももうすぐ12ね、第2の覚醒を迎えるわ・・・それが恐ろしいようで楽しみなようで・・・」言ってまた考え込むように睫毛を伏せる。


「ローズ様・・・覚醒の件、あまり考えすぎぬほうがいいかと・・・」


「・・・無理よ・・・貴方は男だからきっと分からないわ・・・私は女。女のドラゴンなんて存在しない・・・プラーシノの女のドラゴンなんてどんな書物を読んでも存在しないのよ!」ローズは覚醒してからの悩み事をフィリオにぶつける様に話し始めた。



「何故私だけが・・・何故私がプラーシノの血を受け継がなくてはならないの??普通プラーシノを受け継ぐのは男性だけのはず・・・女性がプラーシノの血を受け継ぐなんて聞いた事も無いわ・・・」



「ローズ様・・・それは・・・きっと神の決めた理由があるのですよ。」



「理由って?お父様がなくなってこの国には正統なるプラーシノを亡くした・・・私には確かにプラーシノの血が流れている普通ならそこまでなのよ。それで終わり。」ローズは自嘲気味に笑う。


「書物で読んだわ、太古の昔ドラゴン族は神との誓約を交わした、今となっては全貌を知る術の無い誓約・・・唯分かっていることはドラゴン族はその古き血を男には継承できるが女には継承されない・・・女はあくまでもドラゴン族ではあるけれどドラゴンの子孫を残す事も出来ない。始の覚醒を迎えても2度目の覚醒はない。逆鱗は存在してもドラゴンの姿を得ることは出来ない・・・」


「・・・間違っているかしら?」


ローズにキツク言われフィリオは目を逸らし“いいえ”と答える・・・


「けれど私はなぜかしら?プラーシノなのよ・・・何故?女はプラーシノはおろか真実の姿にもなれない。魔力は存在するが極めて乏しい・・・。」


「フィリオ、苦しいのよ、神は私に何を求めるの?叔父様がいらっしゃるのに何故私をプラーシノにしたのかしら?・・・」


「・・・ローズ様、おっしゃる通り我が国は正統なるプラーシノを失いました。貴女様が御生まれになったその日の夜です。そして継承されるであろうお方であった貴女様のお兄様も・・・」



「・・・ええ・・・お兄様・・・私の双子のお兄様。生きていらっしゃったら私の瞳の色も違ったのかしら?・・・最近その事ばかり考えて苦しくて・・・何故騎士団長は父も兄上も殺して私は残したの?プラーシノの血を絶やしたかったら私も一緒にやるべきだったのよ!!!」


「ローズ様・・・落ち着いてください、誰かが聞いているやも…レイラ様のお耳に入ったら・・・!」フィリオはローズの前に屈み込み懇願するように声を落とした。


「解ってる。口が裂けてもお母様にはこんな事言わないわ・・・言える訳無いじゃない・・・。」



「フィリオ・・・私ね、生まれるまでの記憶があるの・・・」突然の言葉に驚きフィリオはローズの傍から1歩さがった。



「・・・変よね。解ってる・・・でもきっと私達がドラゴン族では希少な双子だったせいかしら・・・母のお腹の中でいつも兄とは手を繋いでいたの。大丈夫僕が居るよってそんな気持ちが流れてきてた・・・私たちはいつも一緒って・・・・でもあの日、この世に産まれて来る時手を離さなきゃならなくてお兄様の手を離したとたん孤独に押しつぶされそうだった・・・この世に自分は一人だけって・・・」


「お兄様はこの世に産まれる時直ぐに会えるから大丈夫って気持ちを送ってくれたわ・・・でもこの世に産まれてお兄様の存在を感じる事は出来なかった!!どんなに苦しくて辛かったか、それに生まれたとたん身体も心も自由にならなかった・・・お兄様を探す事も忘れ私の中に在ったのは空腹・睡眠への欲求・・・それだけよ。」




「大きくなってお兄様がお父様と一緒に殺されたって聞いたわ、お母様には苦しめないよう生まれたときには既に亡くなって…死産だったって伝えた事も・・・どんなに辛かったでしょうね?お父様もお兄様もなくして・・・」語っているうちにローズの瞳からはぽろぽろと涙が零れていた・・・



「ローズ様・・・その様な話初めて伺いました。」言ってフィリオはそっとハンカチを差し出す。



「ええ・・・お母様に言えないんだもの誰にも話した事なんて無いわ・・・ステラに初めて聞いたとき心がえぐられた様に苦しかった・・・お母様が知ったらそれ以上でしょうね・・・」ローズはハンカチで涙を拭い膝を丸め顔をうずめた。



「私は生を受けた時からプラーシノだったのかしら?それともお兄様が亡くなったから瞳を開けるときにプラーシノになったのかしら??」


「お兄様は亡くなってしまったけれど心の中には生きているの・・・だからいつも何かをするときも何かを言うときもこう考えるのよ・・・お兄様ならどうしたかしらって・・・真のプラーシノならどうするのか。」


「ローズ様・・・」フィリオは小さくうずくまったローズの肩に手を乗せると傘を置きそのままローズを抱き上げた。


「ローズ様・・・お部屋に戻りましょう。本日はエルフ族が起こしになります。ローズ様もご出席せねばなりません・・・」


「・・分かってる。このままつれってってフィリオ・・・早くステラに会いたい。」


フィリオはローズを抱き上げたままローズの私室まで連れて行った・・・まだこんなに小さいのにプラーシノに生まれたばっかりにする必要の無い重責に潰され悲しすぎる出生時の暗殺事件・・・神は何故この子をこんなのにもお苦しめになるのか・・・アラン様・・・



******


ローズの12歳の覚醒を祝うためエルフ一族よりティルニーを使者として6人のエルフが王国に祝いの品を持って訪れていた・・・


その中にほかの5人に比べ少しだけ年若く、少しだけ髪の色が濃く短い者が居た・・・6人は謁見の間に通され国王達が現れるまで床に片膝を付き敬礼の姿勢で頭を垂れて待っていた・・・


半時ほど経った頃慇懃な態度でダーニスがレイラとローズを伴って現れた・・・


「ダーニス様レイラ様ローズ様・・・お久しぶりにございます。ご健勝でいらっしゃいましたでしょうか?」ステラは輝く様な笑顔で顔を上げてローズを見つめた・・・


「・・・ありがとうティルニー・・・今までエルフ族は我らラ・レーヌ・オジェの事など忘れ去られていらっしゃる様だったが・・・・突然ローズの祝をなどと・・・どういう風の吹き回しだ?」ダーニスはローズを見るステラの視線に気づき侮辱を感じ馬鹿にする様に笑いながらステラに言葉をぶつけた・・・


「・・・伝統に則り今までのプラーシノのドラゴンにしてきたようにこの度のローズ様の覚醒に併せまして“ドラゴンアイ”を贈らせて頂きたく思い馳せ参じました。」ステラは顔色一つ変えずに笑顔を向け話し終わると後ろに同じように控えるエルフを呼び黒檀で出来た緻密な細工を施した木箱を取り出した。


その木箱を大切そうに両手で持ち王座に座るダーニスの前に片膝を付くと優雅に一礼し木箱を差し出した。


ダーニスはその木箱を睨む様に一瞥すると隣に静かに佇むローズに中身を確認せずに渡した。


その様子をティルニーは微笑んで見守りローズにどうぞ開けて中をご覧くださいと言った。


「・・・ありがとうございます。ステラ殿。」言ってローズはそっと箱を開ける・・・


その中には深緑で出来たクッションがあり其処には目にも鮮やかに輝く若草色の宝石…それを石を挟み込むように銀色で細工された満開のバラの彫刻が施され其処からとても華奢なチェーンで小さな十字架が下がっていた。


ローズがあまりの美しさに言葉を失ってステラを見るとステラもうれしそうに微笑み身に着けるようにと身振りで示した。


ローズが手にとって見るとそれはネックレスではなく額飾りで頭に載せてみると自身の内から沸きあがってくる喜びに胸が震えた。


「・・・やっぱりそうなのね・・・やっぱり・・・」ローズはつぶやき自分の額の上で揺れる十字架をそっと触った・・・。



「ティルニー殿貴重なものをありがとうございます。娘の覚醒は2日後ですがこの様な美しいものを・・・ローズによく似合っています。国王ご夫妻にもくれぐれもお礼の言葉をお伝えください。」レイラは微笑みローズの髪をそっとなで整えた。



「・・・ご苦労であったな・・・ローズには必要無い物としておったが・・・わざわざ用意して頂くとは・・・ご夫妻に“よろしく”伝えておけ。」言うとダーニスは立ち上がり頭を下げるティルニーを一瞥すると立ち去ろうとした。


??ダーニスは使者の中に若いエルフが居るのに気がつき立ち止まった・・・立ち去ろうとしたが壇上を降り使節団の前にたった。


「ティルニー・・・エルフの若者を連れてくるとは珍しいな?」ダーニスはティルニーを振り返り睨んだ。


「・・・はい、実はこの若者がローズ様の“ドラゴン・アイ”を作った者でございます。」

「無事にローズ様に喜んで頂けるかを心配しておりましたので特別に国外許可を取り使者として参ったのです。」


「この若者が?」ダーニスは怪訝に思った…たとえ優れた匠であろうとこんな若輩者に仮にもドラゴン族の姫への贈り物を作らせるとは・・・間違えば大変な侮辱を与える事になるのに・・・いや、ローズは女なのにプラーシノだ…その事をやはり見下しているのだろう・・・


「フン、そうか・・・そなた、将来が楽しみだな・・・また会おうぞ・・・」ダーニスの言葉に若者は顔も上げることも出来ず“ハッ”とだけ返事をした・・・


ダーニスが謁見の間から退出するとレイラもその後に習い出て行った。


ローズはその場にとどまりステラの元に行くと後で自室に来て欲しいと伝えた。


「・・・あ、あの・・・私の額飾りを作ってくださった方・・・」そっと話しかけて青年の前に立つとその手を取り立ち上がるように促すとローズはその青年の顔を見上げた。


「あの、本当に美しいものをありがとうございます。付けた時に感じたんです渦巻く力を…きっと貴方がこれを作られる時に籠められた思いや力なんだなと思いました。」ローズは嬉しそうに微笑み青年の手を握りありがとうと言うとステラにまた後でといって退室していった・・・。


「よかったね、君・・・」言うとステラは青年の肩をたたき他の使者に声をかけ衛兵に案内されあてがわれた来客の部屋へと向かった・・・



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