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その瞳の色  作者: 梅花
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エピローグ

エピローグ:守る者・破壊する者


破壊する者…そもそもその者は生れ落ちた時よりの破壊者だったのだろうか?それとも時間と共に破壊者に成るのか…。


 時はアラン国王の時代、国は長かった戦いの日々を乗り越えようやく手に入れたつかの間の平和な日々を過ごしていた。

長い冬が過ぎ人々の心躍る春を迎えた頃であった…王国では宝石のような緑が芽吹きアラン国王の御子が御生れになり人々は喜びの陽春の祝祭を迎えていた。国は、人々はやっと手に入れた平和・長い戦乱の世を越え冬が終わり初春を心から喜んでいたのである。




…平和…しかし…




しかし、それは突然何の前触れもなく崩れていったのである…


黒き影は…影は静かに誰に知られることもなく肥大し、破壊者へと変貌を遂げて行ったのだ…


王国を再び暗黒の時代に戻すかのごとく


生まれたばかりの赤子を手に抱き、輝ける将来を誓うアラン国王…その背後に近づいてくる黒き影、それは心の闇なのか?





コンコン


「誰だ?」

「王、私です。お呼びになられましたか?」

「ああ、お前か…入れ。」

国王に招かれ影はそっとオークの扉を引き静かに…心の嵐など全く無いかのごとく顔には微笑みという仮面を被りにこやかに王の私室にゆっくりと入室する…

闇を払う力のあるオークで出来た重厚な扉もその心の闇を払うことは出来なかった…


「失礼いたします。国王お呼びになられましたか?」

国王は笑顔でその者を迎え入れた。

「ああ!待っていたぞ。早く見てくれ!我が子だ。」

産まれたばかりの我が子を剣を握り続けた武骨な手は不器用に抱き上げよく顔を見せようとしながら国王はその者に赤子を手渡す。


「レイラに似て美しい顔をしているだろう?」

赤子を見つめるその顔は幸せに満ち輝く様であった。

まるで羽毛に包まれた宝物を危なっかしげに受け取り抱き寄せ顔を覗き込む。


「確かにレイラ様に似て美しい顔立ちと陶器の様に滑らかな肌をされていらっしゃる…。」

「王はもう既に姫君に夢中でいらっしゃるのですよ…フフッ…今からこの調子では将来が思いやられますな?」

「ハハハ…確かにそうだな…お名前は?もうお決まりになられたのですか?」

「ああ…もう決めておる…ローズだ…」

「そうですか…ローズ愛らしい名ですね…」

「瞳の色は何色だろうなぁ…?レイラに似ているから同じ色に成るであろうか?それとも私に似るであろうか?」ローズを覗き込みその愛らしい顔に満面の笑みを向ける国王。


「そして…」話を続けようとする国王を遮り影は話し出す。

「そうですね…成長が楽しみだ…しかし国王、残念ながらあなたがその美しい瞳や楽しい成長を見ることは出来ないでしょう…」


「???」


…一瞬の空白…その場に居た者たちはその意味が飲み込めず問いかける顔をその者に向ける…


「それはどういう意味だ??」

国王は意味が分らず微笑みながらその意味を尋ねた。


「そうですね…分るはずもない…」影はうっすらと微笑みながらローズをそっとベットに寝かせると振り向き王の前まで行くとゆっくり囁くようにと唇を動かす…


「・・・・・・・・・・」


…国王は尋ねるように今だ微笑みを浮かべるその者の顔を見つめる。



…影は静かに剣を抜きその様を見つめ思案する国王に剣を向ける。


小さなささやくような声で再度ささやく


「・・・・・・・・・・・」


ゆっくりと国王に向かって一歩二歩微笑を浮かべ近づく、そして最後の間合を一気に走り、驚愕している国王の胸の中に飛び込む…胸に剣を付き立てて…


「な・なぜ??」

国王は胸の中に居る影の肩を抱き、突然襲ってきた痛みで呻く。


「・・・・・・・・・・・・」


影は再度その声が確実に聞こえるように国王の耳元でささやく。

そしてその瞳に力を込め一気に剣を引き抜く。


「ア、アラン様!な・何故!?血迷ったか!!」


国王を護らんとする者と命を奪おうとする者との激しい戦いが始まった…



影は自分にもたれ掛る国王を容赦なく突き飛ばし素早く剣を振り向かってくる守護者に対峙する!


「ガキィィン!」

剣と剣が激しくぶつかり石で出来た室内に木霊する。


影に致命傷を負わされ浅い息をしながら国王は窓枠に凭れ傍のカーテンを頼りに縋ると刺された胸に恐る恐る手を当てその場に力なく崩れ落ちる…自分の手のひらを赤く染める血をじっと見つめ呟く…


「なぜ…」


「王!今の内にお逃げ下さい!!」


守護者は影との戦いの中目を反らさずに国王へ向かって叫ぶ。


「早く!」

守護者は影の予想以上の力に驚き影の目を見ながら叫ぶ。国王は胸を押さえ浅い息をし、我が子の元へと近づき子の手を握る…


「クソッ」

ギリリと歯ぎしりをしながら影をにらむ。

影は無表情に守護者を見やり更に押し返す剣に力を込める…


「ガキィィン」


激しくぶつかりあいお互いを押しやる。

二人は間合いを取り、互いを睨み剣を握る手に力を込める。

守護者はチラリと国王を見やり時間を稼ごうと影に話しかける。

「何故!何故この様な事を!!」

影は剣の構えを下ろしニヤリと笑う…その一瞬の隙を突いて国王が力を振り絞って影に走り寄りその剣を握る腕を掴む…

そして背後に回りその剣を影の咽元に当てながら叫ぶ!


「早く我が子を連れて逃げよ!我はもうもたぬ!!」

「し、しかし!」

「頼む…早く我が子だけでも連れて逃げるのだ!」

影はそれを予測していた様にニヤリと笑い自分を掴む国王の腕を力一杯握り国王の胸に肘を食い込ませる…


「グァァァ……」

力なく国王は崩れ落ちる…しかし王は崩れ落ちたが影の剣を握る腕を離さなかった

国王を見やり薄く微笑む影…


「ご安心を…あなたが死んでもローズには手を出しませんよ…」


優しいとも取れる眼差しをローズに向け微笑む。


「この子にはまだ別の大きな役目があるのだから…」

「なに?おのれ!!」

王は最後の力を振り絞りブーツの靴底に潜ませた短剣を振り抜き影に斬りつけた!!


「クッ」


影は踏鞴を踏み王を突き放そうとするが王は鬼神の如き力で影を羽交い絞めにして叫ぶ!


「早く…我が子を頼む!連れて逃げるのだ!」


「しかし…」

守護者は王と赤子を見やり戸惑いを見せる…


「離せ!!死に損ないめ!クソッ!!」

影は王を突き飛ばすと守護者に向かってニヤリと笑いかけた。


「ハハハッそんな事をしても結果は変わらんぞ?」影は狂ったように笑いだした…


「…クソ!」

国王と赤子を見やり駆け出す守護者


「逃げられると思うのか?」

「!!!!!」

「グァァー!!!」

「!!!」

「ガシャーーン!!!」

「な!何事だ!?」叫び声と何かの割れる音に塔の護衛兵達が叫ぶ!


「誰か!!誰か居ないのか!!」 


何かが壊れる大きな物音と悲痛に満ちた叫び声が暗闇の中木霊した。


「南の塔だ!早くしろ!!」


叫ぶ声と大勢の人が階段を駆け上がってくる音が城に響く…


「バターン!」

激しく扉が開く。

「な、何事ですか?!」


「ダ・ダーニス様!」


「・・・」


呼ばれた者は兵士の姿を目にするとその場に膝をつき震える指でベット傍の真紅の布の塊を指差す。


布の塊からは生々しい鮮血がゆっくりと石の床に広がっていく…


「ま、まさか…」


衛兵はそっと布の塊に近づき驚きの声を上げる。


「アラン様!!」

兵士はとっさに駆け寄り抱き起こそうとする。

「やめろ!誰も兄上に触れるな!!」

その様子を生気のない瞳で見つめていたダーニスはハッとして叫ぶ。

衛兵はハッとして国王に伸ばしていた手を止め蒼白な顔をダーニスに向ける…


「ダーニス様!しかし早く手当をしないと!」

「一体、一体何事が??」

ダーニスは悲しみに顔を歪め吐き捨てた。

「もう手遅れだ…」

「騎士団長だ…奴が、奴が兄上を!!窓から逃げた!!早く追うんだ!!」

斬られた肩をかばい、吐き出すように叫ぶ。

「はっ、直にっ!」

いっせいに部屋から駆け出していく兵士達…


「騎士団長だ!!!」

「騎士団長様を探し出せー!!」

「まだ遠くには行けまい!」

「南の塔の真下だ探しだせ!!」

「城門を閉めろ!!」


多くの指示が矢継ぎ早に出され静かだった城中は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。

兵士が出て行った後の静かな部屋でしゃがみこみ血の付いた両の手で顔を覆いブツブツとうなるダーニス…


「ダーニス様…」

駆けつけた従者がそっと触れようとする。

「あッ!!ダーニス様血が…」

ダーニスの肩から胸にかけて斜めに斬られ見る見るうちに血が滲み出てきていた。

ダーニスは気が狂ったのか何事かを呟き顔を両の手で覆っていた…


「ダーニス様…血が…早く止血されなくてはお手当てを…」

ダーニスにそっと召使が触れるとダーニスはハッとし我に返ったように叫んだ。


「子供は!?兄上のお子は何処だ!!ローズは!?」

辺りを見回し傷の痛みなど無いようにベットに転げる様に駆け寄り手荒くブランケットをめくり上げ叫ぶ。


「何処だ!」

狂ったように辺りを見回し更に声を荒げた。


「畜生!!攫われた!あいつに攫われたんだ!!」

絶叫し、力が抜け膝を付く。


「で、殿下、姫君はご無事です!こちらに…」召使が別の天蓋の掛かるベットより抱き上げダーニスの元に駆け寄り手渡す。


「ダーニス様こちらに…」

びっくと驚き血に濡れた顔を上げ恐る恐る従者よりローズを受け抱き上げる。


「あ、ああご無事であったか…ああ…神よ…良かった…」

安堵の顔を見せ赤子を抱き締めその顔をじっと見つめる…しかしホッとして痛みに気が付いたのか肩を押さえうっと呻く。

「ウッツ!」

「殿下、お早く傷のお手当てを!!」

「ああ…この子を、ローズを頼む。乳母を呼び厳重に警備を付けるんだ。」

再度ローズをベットに寝かしつけ召使に命令しダーニスは俯く…


「畏まりました!ローズ様…しかし殿下、傷の手当は?」

「構うな!此れしきの傷!それよりも兄上を!!」

「…畏まりました。」


従者が部屋から慌てて出て行き室内は静寂に包まれた…



ダーニスは溜め息を吐き俯く…そっと血溜り中に横たわる今や何も語らなくなってしまった兄の元に屈み込み痛む肩を抑えて兄を支えベットに横たえると力尽きた様にがっくりとベット脇に膝を付き呻く


「兄上…」


…すると彼の背後よりそっと忍び寄るものの気配を感じ、振り返る。

「スキアーお前か?」

「此処に…」

「彼に報告を頼む。」

「全てをお話しても?」

「構わん。私からも後ほど報告すると伝えてくれ。」

「御意。」

その者は煙のようにドアの暗闇に消えていった…



ダーニスは溜め息をつきフラフラと入り口に向かい兵士を呼びつけた。


「誰ぞいるか?」

「は!ダーニス様ここに!!」

足元に片膝を付く兵士に力なく命令する。


「元老院を召集し、すぐに王座の間に来るように申し付けよ。」

そう言いつけ手近のソファに崩れ落ちるように倒れこむ。彼の心は千々に乱れ一つの事を考える事が出来そうになかった…

王を失ったこの国、騎士団長の謀反、今日は喜びに満ち溢れる日となったのに何故…ダーニスはそっと呟く…



「ローズ…哀れな子だ自分の誕生日が父親の命日となるとは…」






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