どうにもならない
地の文を一切書かずに、会話文だけで、情景・状況描写にチャレンジです。
「なんだい、晋ちゃん。まだ宵の口じゃねえか。付き合い悪いな。そんなにカミさんが恐いのか? かーっ、だらしねえ。情けねえなあ。そんなことだからカミさんになめられちまうんだよ」
「でもですね。早く帰るって……10時には帰るって言っちゃったもんですから」
「なんだあ? 新婚のうちから、もう尻に敷かれてんのか? いいか晋ちゃん、最初が肝心なんだ。はじめに、ガツンと、こう……つまり男の付き合いが如何に大切かってのを教えてやるんだ。それが出来ないようなヤツは、男としての見込みが……」
「わ、わかりましたよ。じゃあ、もう一軒行きましょうか。でも、どうせなら【やまんば】じゃなくて駅の向こうの【しらさぎ】のほうが僕としては……あれっ? 源さんの携帯が鳴ってますよ」
「んっ? もしもし……あっ! うん。いや、違うって。俺は帰るって言ってんのに、仲間が離してくれなくてさ。仕方がなかったんだよ。しつっこくって参っちゃうよ、もう」
「げ、源さん……」
「えっ? ももも、もちろんだよ。忘れてないよ。いや、だから……うん、わかった。すぐ帰るよ」
「源さん……」
「いいか晋ちゃん。世の中には努力して何とかなる場合と、どうにもならん場合がある。彼のソクラテスだって……」
「いいんですよ。早い話が、源さんも、やっぱり奥さんが怖いんですね?」
―了―
大哲学者のソクラテスでさえ、奥さんには、やりこめられて頭が上がらなかったというエピソードは有名ですね。
逆に言うと、最大の難物が身近に居た為に、思うに任せぬ人生の悲哀を強く感じて、普通に生きて行くことの至難さを想い、いかに幸せになるか、その方途を追求し、哲学を極めたのかも知れません。
いや、これは冗談です。




