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婚約破棄された令嬢は、彼を忘れました

作者: cfmoka
掲載日:2026/10/31

「エレノア・ベルフォード!お前との婚約を、今日この場をもって破棄する!」


王立学園の卒業記念舞踏会。

大広間は王宮の祝宴にも匹敵する荘厳さだった。

天井高く吊り下げられたシャンデリアが幾重もの光を放ち、白大理石の床に輝きを散らしている。

中央には卒業生のための広い舞踏フロアがあり、その周囲には貴族たちが談笑する円卓が整然と並んでいた。



その大勢の卒業生や在校生、貴族が見守る中、王太子であるレオンハルト殿下は、私に向かってそう宣言した。

隣には、淡い桃色のドレスをまとった可憐な令嬢が寄り添っている。

確か、殿下のお気に入りだと噂の子爵家のご令嬢だ。


「お前のような冷酷な女を、未来の王妃にするわけにはいかない!」


殿下の声が会場に響き渡る。

私は身体の奥から感じる何かを静かに受け止め、ゆっくりと頭を下げた。


「──承知いたしました」

「……は?」

「婚約破棄、謹んでお受けいたします」


殿下の全身から怒気が立ち上っている。

どうやら、私が泣いて縋るとでも思っていたらしい。


けれど、十年間。


私はこの方の婚約者として、十分すぎるほど努力してきた。

朝から晩まで続く王妃教育。

殿下の代わりに処理した膨大な書類に、何度も引き受けた外交上の失態の後始末。


(今までの努力が無駄になる……?もったいない?)


いいえ。

知識もやり遂げた経験も私には残る。

それに──


(うんざりだったのだ。もう)


不思議なほど、今私の心は落ち着いていた。


「では、失礼いたします」


私は緩やかに微笑むと一礼し、その場を辞そうとした。


「待て!」


激怒した殿下が私の腕を掴む。


「まだ話は終わっていない!」


その瞬間だった。

視界が、ふっと揺れた。

ビシッ──!

目の前の人物の顔が、まるでガラスにひびが入ったかのように突如歪んでしまった。


驚いた私は瞬きをした。

けれど、何も変わらない。

そこに人がいることは分かる。(今も腕をつかまれているので)


ただ。

どうしても認識できなかった。


「あの……」

「何だ!」


私は困惑しながら尋ねた。


「失礼ですが、どちら様でしょうか?」


会場が、静まり返った。




「……もう一度言ってみろ」


目の前の男性が、低い声で言った。


「申し訳ございません。どなたなのか、分からなくなってしまって」

「ふざけるな!」


男性が怒鳴った。


「私を愚弄するつもりか!」

「そのようなつもりはございません」


本当に困っていた。

記憶の中を必死で探るが、一つの顔として結びつかない。


「レオンハルト様、きっと婚約破棄されたことが悔しいのですわ」


隣にいた令嬢が、男性の腕に縋りついた。


「こんな芝居をなさるなんて……」

「芝居ではございません」

「では、わたくしの顔は分かりますの?」


私は令嬢を見た。


「はい。リリアナ・コール子爵令嬢ですね」

「……え?」

「先月、王宮の庭園でお茶を召し上がっていらしたでしょう?」


令嬢の顔が引きつった。

私は再び目の前の男性を見る。

やはり、顔が分からない。


「ほかの方のお顔は分かるのですが……」


そのとき、背後から声がした。


「エレノア嬢」


振り返ると、夜の帳を思わせる漆黒の髪をした青年が立っていた。

こちらを探るように見つめる紫色の瞳。宮廷魔導師の制服を着ている。


「……セドリック様?」

「私の顔は分かりますか?」

「はい。セドリック・アシュフォード様です」


彼は私の様子を確かめるように、ゆっくりとうなずいた。


「少し失礼します」


そう言って、私の額に手をかざす。

淡い光が指先から広がった。


「……なるほど」


セドリック様の表情が険しくなる。


「エレノア嬢。今夜はこれ以上、無理をなさらない方がよろしいでしょう」

「何を勝手なことを!」


殿下が声を荒らげた。


「セドリック!お前には関係ない!」

「彼女に魔力異常が起きています。宮廷魔導師として、見過ごすわけにはまいりません」

「私の命令に逆らうつもりか!」

「診察を中止せよとのご命令でしたら、正式な命令書をお願いいたします」


セドリック様は静かに答えた。


「詳しくは検査が必要ですが、少なくとも芝居ではありません」


セドリック様は私に向き直り、そっと手を差し出した。


「歩けますか?」

「はい」

「では、参りましょう」


私は、その手をそっと取った。

不思議だった。

十年間、誰かの隣に立っていたときよりも。

今、セドリック様の隣を歩いている方が、ずっと安心できた。




***




翌朝。

私はベルフォード侯爵家の応接室で、セドリック様から診察結果を聞いていた。


「結論から申し上げますと、エレノア嬢には認識阻害の魔法が作用しています」

「認識阻害、ですか?」

「はい。ただし、外部からかけられた呪いではありません」


セドリック様は机の上に一枚の書類を置いた。

見覚えのない羊皮紙だった。

十年前に、私とレオンハルト殿下が婚約した際に交わした、魔法契約書だと言う。


「この契約には、王家の古い誓約術式が組み込まれています」

「誓約術式……」

「互いに相手の魔力の乱れを感じ取り、精神的な負担を軽減する働きがあります」


そこでセドリック様の表情が険しくなった。


「ですが、この術式には問題があります」


セドリック様は契約書の一節を指さした。


「本来、互いの負担を分かち合うための術式なのですが、殿下側の術式が機能せず、あなたの側に負担が集中する状態になっていたのです」

「……え?」

「その状態が、十年間も続いていたのです」


私は言葉を失った。


「術式の影響は相当なものだったはずです」


セドリック様は静かに続けた。


「昨日、殿下が婚約破棄を宣言したことで、契約が急激に解除されました」

「それで、あの方が分からなくなったのですか?」

「正確には、術式の残滓が、殿下に関する記憶や認識を妨げている状態です」

「治るのでしょうか?」

「はい。魔力が落ち着けば、自然に回復する可能性が高いでしょう」


私はほっと息を吐いた。

けれど、セドリック様は少しだけ眉を寄せた。


「ただし、もう一度同じ契約を結ぶことはお勧めできません」

「……そうですか」

「あなたの魔力は、限界に近いところまで消耗しています」

「どうして……」


思わず、言葉がこぼれた。


「どうして、誰も気づかなかったのでしょう」


セドリック様はすぐには答えなかった。

しばらくして、静かに口を開く。


「……私も、もっと早く気づくべきでした」

「セドリック様?」

「三年前、あなたが王宮の廊下で倒れたことを覚えていますか?」


私は記憶を探る。

あれは王家主催の夜会が終わった翌朝だった。

書類を届けに向かう途中で、意識を失ったことがあった。


「私が医務室までお運びしました」


思い出した。

目を覚ましたとき、枕元に水差しと花が置かれていた。


「あれは、セドリック様が?」

「はい」


彼は少し困ったように笑った。


「あなたは目を覚ますなり、殿下の書類を心配していました」

「……申し訳ございません」

「いいえ」


セドリック様は首を横に振った。


「私は、あなたがご自身のことを、少しも大切になさっていないように見えて……心配だったのです」


そんなふうに言われたのは、初めてだった。




***




婚約破棄から一週間。

王宮は、少々困ったことになっているらしい。


原因は、レオンハルト殿下だった。

殿下はこれまで、重要な会議や外交行事の前になると、私に相談していたらしい。

私が作成した資料を読み、私が考えた返答を口にしていた。


けれど、婚約破棄によって誓約術式が解除され、認識阻害が発生している私は、体調を心配した両親から王宮への出入りを禁じられていた。

当然、資料を作ることもなくなった。


その結果。


「エレノア!なぜ会議の資料が用意されていない!」


一人の男性が侯爵家に押しかけてきていた。

私は応接室でお茶を飲みながら、困惑する。


「資料の作成は、王宮の文官にお申しつけくださいませ」

「お前がいつも作っていただろう!」

「そうなのですか?」

「だから、今までどおりにしろと言っている!」

「無理でございます。婚約は破棄されました」


私は首を傾げた。


「私は殿下……だと思うのですが、殿下に関する過去の記憶をほとんど失っております。何もお役には立てません」


目の前の男性は言葉に詰まった。

私はその顔を見上げる。

やはり、ヒビが入ったガラスのように認識できない。

不思議なものだ。


「……まだ、その芝居を続けているのか」


吐き捨てるように言った。


「芝居ではございません」

「私の事を忘れるなど、あり得るものか!」

「申し訳ございません」


謝る必要などないのかもしれない。

それでも、長年の習慣で口から出てしまう。

殿下は苛立たしげに立ち上がった。


「いいか。私はお前を許してやってもいいと思っている」

「……はい?」

「リリアナを側妃に迎えることを認めるなら、お前を再び正妃候補として考えてやろう」


私は思わず瞬きをした。

何を言われているのか、理解できなかった。


「つまり、再び婚約しろということでしょうか?」

「そうだ。ありがたく思え」


「お断りいたします」


彼が固まった──ように見えた。


「……何?」

「婚約をお受けするつもりはございません」

「なぜだ!」

「理由が必要でしょうか?」


私は静かに答えた。


「殿下自ら私との婚約を破棄なさいました。私はそれを受け入れました。それだけのことです」

「お前は私を愛していたのではないのか!」


「……記憶にございません」


私は答えた。


「殿下との過去については、何も」

「エレノア!」


殿下が私に手を伸ばした。

そのとき。


「そこまでになさってください」


低い声が響いた。

扉の前に、セドリック様が立っていた。


「セドリック!またお前か!」

「彼女は療養中です。これ以上、負担をかけることはお控えください」

「お前には関係ない!」

「いいえ」


セドリック様は、私の前に立った。


「関係があります」


その声は、普段の穏やかなものとは違っていた。


「私は、彼女を大切に思っていますから」


セドリック様は、私を庇うように一歩前へ出た。


「あなたが手放した方を、私は二度と傷つけさせるつもりはありません」




***




殿下が帰った後。

私はセドリック様と向かい合っていた。


「先ほどは、ありがとうございました」

「いいえ。出過ぎたことをいたしました」


セドリック様は少し気まずそうに視線を逸らした。


「それより、体調はいかがですか?」

「随分よくなりました。最近は、朝もすっきり目が覚めるんです」

「それはよかった」


彼は心から嬉しそうに笑った。

私は、その笑顔を見つめた。


漆黒の髪。

紫色の瞳。


優しく細められた目元。


そのすべてが、はっきりと見える。


「……不思議ですね」

「何がですか?」

「殿下のことは、何も思い出せないのに、セドリック様のお顔は、こんなにもよく分かるんです」


セドリック様は目を見開いた。

それから、頬をわずかに赤くした。


「……それは、光栄です」


「それに、セドリック様といると、安心します」


言ってから、少し恥ずかしくなった。

けれど、嘘ではなかった。


私が疲れているときは、休むように言ってくれる。

そんな当たり前のことが、今の私には何よりも嬉しかった。


「エレノア嬢」


セドリック様が、静かに口を開いた。


「一つ、お願いをしてもよろしいでしょうか」

「はい」

「これからは、ご自身のために時間を使っていただけませんか」

「……私のために?」

「はい。読みたい本を読んで、好きな花を育てて、行きたい場所へ行く。そんな時間を、もっと大切にしていただきたいのです」


私は思わず笑ってしまった。


「随分と贅沢なお願いですね」

「そうでしょうか?」

「ええ。殿下に関する記憶がない今、はっきりと分かりました。私、これまで自分の好きなことを考える暇もありませんでした」


──そう。

殿下に関する記憶を失って初めて、私はこれまで、どれほどあの方のために生きてきたのかを思い知らされた。


「では、これから考えましょう」


セドリック様も笑った。




***




それから一か月が過ぎ、私の体調は、驚くほど回復していた。

朝起きても頭が痛くない。

食事がおいしい。

庭園を散歩しても、疲れて座り込むことがなくなった。

何より、毎日が楽しかった。


セドリック様は、仕事の合間を縫って侯爵家を訪ねてくれた。


ある日は珍しい本を。

ある日は小さな花束を。

またある日は、王都で評判のお菓子を持って。


私たちは庭園でお茶を飲み、たわいもない話をした。


そんなある日のこと。


「エレノア嬢」


セドリック様が、いつになく真剣な表情で私を見つめた。


「実は、以前からお伝えしたいことがありました」

「何でしょう?」


「私は、あなたが好きです」


一瞬、時間が止まったように感じた。


「……え?」

「三年以上前から」


セドリック様は照れたように笑った。


「あなたが殿下の婚約者だった頃は、何も申し上げるつもりはありませんでした。ですが……」


セドリック様は、少し困ったように笑った。


「私は、思っていた以上に欲深い人間だったようです」

「……欲深い?」

「ええ。あなたが笑ってくださるだけで十分だと思っていたのに、今は、その笑顔を一番近くで見ていたいと願ってしまうのです」


彼は私の手を取った。


「もし、あなたがよろしければ、私と婚約していただけませんか?」


誰かに求められることが、こんなにも嬉しいなんて。

けれど、私はすぐには答えられなかった。


「……セドリック様」

「はい」

「私、まだ自分の気持ちがよく分からないのです」


彼は静かにうなずいた。


「急いで答えを出す必要はありません」

「ですが……」

「私は、あなたがご自身の意思で選んでくださることが、何よりも嬉しいのです」


私は彼を見つめた。

その言葉は、胸の奥にすっと染み込んだ。


「……ありがとうございます」


私は微笑んだ。


「少しだけ、お時間をいただけますか?」

「もちろんです」


セドリック様は笑った。


「何年でも、お待ちしますよ」




***




さらに二週間が過ぎた頃。

私は両親を伴って王宮へ呼び出された。

国王陛下から、婚約破棄に関する正式な謝罪を受けるためだった。

応接室には、国王陛下と王妃陛下、一人の男性がいた。


「エレノア嬢。このたびは、愚息が大変な迷惑をかけた」


国王陛下が深々と頭を下げた。

私は慌てて礼を返す。


「どうか、お顔をお上げくださいませ」

「婚約契約の術式についても調査した。王家の管理に重大な不備があったことが判明している。本当に申し訳なかった」


王妃陛下も、申し訳なさそうに私を見つめた。


「十年間、あなたにどれほどの負担をかけていたのか……。気づいてあげられなくて、ごめんなさいね」


私は静かに頭を下げた。


「それから、もう一つ伝えておかねばならぬことがある」


国王陛下の声が低くなった。


「今回の件を受け、レオンハルトの公務についても調査を行った。その結果、これまでの政務の大半を、そなたが肩代わりしていたことが判明した」


私は驚いて顔を上げた。


「本来、王太子が果たすべき責務を婚約者に押しつけ、あまつさえ公衆の面前で一方的に婚約を破棄するとは。到底、次代の王にふさわしい振る舞いとは言えぬ」


国王陛下は、隣に立つ男性へ厳しい視線を向けた。


「よって、レオンハルトを王太子の地位から解任することが、正式に決定した」

「父上!」


男性が声を上げた。


「私は認めません!それでは、これまでの私の努力はどうなるのです!」

「努力?」


国王陛下の声が、一段と冷たくなった。


「そなたが己の功績として報告していた仕事の大半は、エレノア嬢が成し遂げたものではないか」


男性は言葉を失った。

私は、ただ静かにそのやり取りを聞いていた。


十年間の努力が、ようやく認められた。

けれど、不思議なほど心は穏やかだった。


もう、私には関係のないことなのだ。


そのとき。


「エレノア」


両陛下の脇にいた男性が、一歩前へ出て私を呼んだ。


私は顔を上げた。

そして、気づいた。


「あ……」


見える。

顔が。

金色の髪。青い瞳。

十年間、何度も見つめてきた顔。


「……殿下?」

「私の顔が、分かるのか?」

「はい」


殿下は、ほっとしたように笑った。


「そうか。ようやく元に戻ったのだな!」


そして、当然のように手を差し出した。


「エレノア。お前が戻ってくれれば、父上も考え直してくださるはずだ。だから、もう一度やり直そう」

「レオンハルト、何を──」


国王陛下が声を上げかけた。

けれど、殿下は構わず私に手を差し出した。


私は、その手を見つめた。

その瞬間、堰を切ったように記憶が溢れ出した。


十年前。

転んで泣いていた私に、手を差し伸べてくれた少年。

初めて名前を呼んでもらった日のこと。

婚約が決まり、嬉しくて眠れなかった夜のこと。


──ああ、そうだった。


私は、この方が大好きだったのだ。

けれど、蘇ったのは幸せな記憶だけではなかった。


いつしか減っていった二人で過ごす時間。

約束を忘れられた日のこと。

どれほど努力しても、当然だと言わんばかりに受け流された日々。

私が必死に公務を肩代わりする一方で、あの子爵令嬢と親しげに過ごしていた姿。


それでも、私は信じていた。

いつか、あの頃のように笑い合える日が来るのだと。


(……そうだったわ)


かつての私なら、迷わずその手を取っただろう。

十年間、ずっと待ち望んでいた手だったのだから。


でも、今は違う。


目の前にいるのは、あの日の優しい少年ではない。

私を傷つけたことも、私が苦しんでいたことも、理解しようとしなかった人だ。


そして私も、もう、あの頃の少女ではなかった。


「……申し訳ございません」


私は静かに頭を下げた。


「私は、もう殿下の婚約者には戻れません」

「なぜだ!顔も分かるようになったのだろう!」

「はい」


私は微笑んだ。


「ですが、分かったのはお顔だけです」


殿下が息を呑んだ。


「以前のように、殿下をお支えすることはできません」

「エレノア!!」

「どうか、お幸せに」


私は深く一礼した。

それが、十年間の恋の終わりだった。



***




王宮を出ると、門の前に少しだけ緊張気味なセドリック様が立っていた。


「お迎えに上がりました」

「セドリック様!」


私は思わず駆け寄った。


「お話は終わりましたか?」

「はい」

「……大丈夫でしたか?」


私はうなずいた。一緒に来てくれていた両親を振り返る。

二人とも優しい目をしてこちらを見つめていた。


「ええ。もう、大丈夫です!」


セドリック様は安心したように微笑んだ。

その顔を見た瞬間──


私は、この方の笑顔が好きだ。


すごく優しい声も、ふとした仕草も。ちょっとした癖も、きれいで細い指先も。

いつの間にか、私はこの方のことを、こんなにも知っていた。


「セドリック様」

「はい?」

「以前のお返事を、してもよろしいでしょうか?」


彼が目を見開いた。

私はそっと、彼の手を取った。


「私、セドリック様と一緒にいたいです」

「……エレノア嬢」

「まだ知らないことも、やってみたいことも、たくさんあります。ですが……」


私は彼を見上げた。


「そのすべてを、あなたと一緒に」


セドリック様は、しばらく何も言わなかった。

それから、私の手を優しく握り返した。


「……ありがとうございます」


その声が、少し震えていた。


「必ず、幸せにします」


私は首を横に振った。


「いいえ」

「……え?」


「一緒に、幸せになりましょう」


セドリック様は驚いたように瞬きをした。

そして、今まで見たことがないほど嬉しそうに笑った。


「……はい」


私も笑った。


もう大丈夫。

私は今、私自身の意思で、この人の手を取っている。


そして、この笑顔だけは。


きっと、一生忘れない。



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― 新着の感想 ―
AI臭消せきれてませんよ
性根が完全に腐った更生の余地がない王子は税金の無駄を省くため即日病死するのがいいと思います。
仕事させてたの忘れて婚約破棄した後もこきつかう気だった王子は王どころか臣籍降下でも部下に押し付けそうだから、領地無しの宮廷のペットみたく生きてくのが人に1番迷惑掛けない生き方かな。
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