プロローグ
習作。
この世界の全ては魔素によって構成されている。大地も、川も、炎も、嵐も、そして生物も。魔素がその性質を変化させたものである。
そんな世界で生きる人間が、存在を大きく変質してしまうことがある。その者たちは世界の法則から外れた事象を引き起こし、時に人々を守り、時に災いをもたらした。
人々は彼らを、畏怖を込めてこう呼んだ。
魔法使い、と。
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少女は息を切らせながら走っていた。褐色の肌に短く癖のある黒髪。冬だというのに上着もなく鼻を赤くしている。両手には膨らんだ紙袋を二つ抱えている。
少女は家路を急いでいるのだ。なんせ今日は一人前の魔法使いとして認められた記念日。早く帰ってお祝いのパーティーをしなくちゃなのだ!
もうすぐ家に着くというところで、道を塞ぐ者がいた。見慣れぬ男三人組で、三人とも手には小振りなナイフを持っている。どこからどう見ても強盗だ。
その中の一人が少女に話しかける。
「嬢ちゃん、痛い思いしたくなかったら、その手に持ってるもん置いていきな」
強盗にはたまに遭う。少女の住む家は人通りの少ない所にあって、少し治安が悪いのだ。ああ、いつものか。と思いながら路地の端に紙袋を置く。
「いい子だ。ついでにサイフも置いていきな。そしたら嬢ちゃんは見逃してやるよ」
男たちは下卑た笑いを浮かべながら近づいてくる。
だが少女は別に、強盗の言うことに素直に従ったわけではない。パーティーに使う食材の入った紙袋を血で汚したくなかっただけだ。
男たちが一歩前に進む度に、周辺の魔素量が濃くなり、少女の気配が変質する。否、気配だけでなくその外見までもが変化していく。
顔の下半分が大きく突き出し、鋭い牙を覗かせる。全身に硬質な毛を生やし、骨格すら四足歩行に最適化する。爪も生やし、最後には魔物固有の縦に割れた赤い瞳。
変化が止まったその姿はまさに魔物化した狼そのものであった。
「な、なんだよ、それ…」
男たちは足を止めていた。いかにも無害そうな少女が魔獣に変わったのだ。理解が追い付かずただ立ち尽くす。
それに比べ元少女の魔獣は速かった。瞬時に男たちに駆け寄ると、一人の喉に喰らいつき、二人は爪で切り裂いて、悲鳴をあげさせることもなく絶命させた。
狼はその姿を少女のものに戻すと、路地の端に置いていた紙袋を手に取り、強盗の男たちの死体には目もくれず、また家路につくのだった。




