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メイドは見た 今回は私ではありません!!

作者: 国先 昂


 絶対絶命の大ピンチ


 私は流れ落ちる冷や汗をどうすることもできなかった。


 人生最大の危機に私は今直面している。


 私の名前はスフィア=メルシエ。メルシエ男爵家長女で、難関の王宮メイド試験を突破し、晴れてこの春から第3王子殿下カイン様のメイドとして働いている。


 メイドと言えども、新入り、そして年も一番若いことからカイン様の遊び相手として指名され、今日も今日とて朝から殿下のお相手をしていた。ちなみにカイン様のお年は御年6歳。遊び盛り、やんちゃ盛りである。


 先刻、どうして私はカイン様が提案された「離宮かくれんぼ」に賛成してしまったのか。あの時に戻れるなら、どんなにしんどくても「中庭の虫取り」にしたのに。いや隠れる場所を王宮の離宮ではなく、中庭にしていたら……。


 そう、私が今いるのは普段カイン様が過ごされている本宮ではなく、中庭の奥に建てられた離宮である。今の王は王妃ラブな方で、側妃は持たれていない。お子様も三人の王子様と二人の王女様がおり、第一王子の皇太子殿下は文武両道、次代も安泰だと言われている。そのため、離宮は現在誰も使用しておらず、定期的に掃除だけが行われ、綺麗な状態が保たれていた。


 ちなみにカイン様は五人兄弟の末っ子。皆から可愛がられ、勉強も運動もあまりうるさく言われず、自由にのびのびとお育ちである。 


 話が脱線してしまったが、今、私は離宮の1室のベッドの下に隠れている。カイン様とのジャンケンに勝ち、隠れる役を仰せつかっだからだ。


 ただ、かくれんぼを始めようとしたその時、ちょうどおやつの時間となってしまった。おやつー!と思っていると、「スフィは先に隠れていて」とのカイン様の一言により、泣く泣く皆より一足先に離宮に隠れることになったのだ。


 普段はカイン様と一緒に食べている料理長特製のおやつを食べられず、しょんぼりしながら一人悲しく離宮に入った。どの部屋に隠れるかと迷うことなく一番手前の殿下に見つけられやすい部屋を選ぶ。そして王道のベッドの下に隠れた。


 待つこと体感二十分あまり。


 ガチャ


 という音がして、誰かが部屋に入って来た。いよいよだぞと、ドキドキしていると思いもよらぬ声が聞こえてきた。

 

「……もう……」

「……誰もいない……いいだろ……」

 

 ……これは……。

 

 明らかに殿下の声ではなく、男女の睦み声である。


 別の意味でドキドキしながら(先客がいますとも言えず)ちょっと好奇心に負けて、ベッドの下から覗いた。(きゃっ。だってお年頃だもの)


 下から覗いているので、(残念ながら)足元しか見えず、足元の靴を見ると私たちと同じメイドの靴と、おそらく高位貴族の靴が見えた。


 そして高位貴族の靴がベッドの方へどんどん近づいくる。


 (いよいよね)

 

 緊張が高まりピークに達した時


「ぎゃあ……」


 思いもよらぬ叫び声がした。  


「あなたが悪いのよ……」


 バタン


 ベッドに誰かが倒れる音がする。


 ザクッ ザクッ


 カラン カラン


 目の前に血のついたナイフが落ちてきた。


 私は叫び出したいのを必死でこらえ、ぶるぶる震えながら何とか時が過ぎるように神に祈った。


 バタン


 ドアが閉じる音と共に、静寂が訪れる。


 念の為もうしばらく、と思い少し長めにベッドの下に隠れていたが、ずっとここにいるわけにもいかず、周りを見渡しながらゆっくりベッドの下から這い出た。


 誰もいない。


 いや、お一人ベッドの上にいますが。


 怖いもの見たさで、ベッドを見ると背中を何ヶ所も刺された男性の姿が見えた。ピクリとも動かないので残念ながらもうお亡くなりになっているようである。


 人間自分の許容量を超えると意外と冷静になるもので、まじまじ見つめると男性が第二王女の婚約者で、宰相補佐のビルド様であることに気づく。


 麗しい顔立ちと誠実な人柄、仕事もできる若手のホープで先日第二王女様の婚約者に決まり、お二人の仲睦まじい姿を昨日も拝見したばかりだった。


 ……人は見かけによらない。


 これは男女のもつれの末の犯行かな……などと考えているとドタドタと走って来る音がした。


 とっさにまたベッドの下に隠れる。


 ガチャ


「……キャー、宰相補佐のビルド様がナイフで刺されて倒れています。誰か、誰か来て――!!」


 運悪く(運良く?)メイドが掃除に来て、発見したようだ。


 これは出ても良いかも。ついでにナイフも分かりやすいところに置いておいてあげようと、ハンカチ(素手で持たないのが鉄則ですよね)で拾いあげる。


 と、同時に近衛兵が数人入ってくる。


「ナイフを捨てろ!!」


 えっ?


 もしかして、私が犯人と疑われています?


 いやいや、私はかくれんぼをしていただけで……


 えっ、ナイフを持っているだろうって?


 いや……これは……


 という訳で冒頭の場面に移ります。


 私は今、数人の近衛兵に取り囲まれていた。


「……誰かと思えばまたあなたですか」


 と、新しい人物が部屋に入って来る。 


 一際目を引く艶やかな金髪。どこまでも吸い込まれそうな紺碧の瞳。百人中百人が美しいと認めるその美貌。仕事に関しては一切の妥協を許さず、にこりともしないことで有名な第三王子付近衛兵筆頭リベロン様である。


「いや、今回は私は無実です……」


 前回の中庭の木、蜂蜜だらけ事件の犯人は私ですが。(殿下がカブトムシをねだったのでやった。カブトムシ以外にもいろいろな虫が集まりすぎて皆から非難ごうごうだった……)


「……この者の身柄は私が預かる。部屋の状況を確認しろ」

 

「「「はっ」」」


 鶴の一声で私への拘束がとけた。


 さすが第三王子付近衛兵筆頭リベロン様!!


 普段から陰で陰険ネチネチ野郎などと悪口を言ってすみませんでした。次からは神と崇めさせていただきます。


「それで、何があったのか手短に事情を説明しろ。そして早くかくれんぼに戻れ。第三王子がお前を見つけられなくて泣いている」


 いやいや、殺人事件解決が先じゃないの?

 

 相変わらず、第三王子殿下第一主義でぶっ飛んでいる。


「実は……」


 私はかくれんぼを始めてから、近衛兵が入ってくるまでをできるだけ詳しく伝えた。ちなみに拾ったナイフは室内を探している近衛兵に預けている。


「さすが地雷を踏みまくるメイドだな。なぜそこでナイフを持つ?……まあ、犯人は分かったが」


「分かったんですか!?」


 私の話を聞くとすぐに犯人が分かったようである。


 さすが、神!さす神!!


「とりあえず殿下に見つかれ。そこの柱に隠れろ。殿下を誘導する」


 私は指示された通り、エントランスの柱の後ろに隠れた。


「……スフィ、どこ?」

 

 半分泣きべそをかきながらカイン様がやって来られた。(一番奥から探されたらしい……しまった)


「殿下に見つからないとはメイドの風上にも置けませんね」


 リベロン様が私をけなしながらカイン様を誘導する。


「スフィ、見つけた!!」


「……見つかってしまいましたか」


 カイン様は満面の笑顔を浮かべる。


「カイン様、王妃様がお呼びです。一度本宮に戻られてください」


 リベロン様はそう言うと、別の近衛兵にカイン様の護衛を指示される。


「お母様が?分かった」


 カイン様はお母様と聞くと、そのまま本宮の方へ走っていかれた。


 残されたのは私とリベロン様。


「第一発見者に話を聞きに行くぞ」


 顎で指示される。


 正直ちょっとムカついた。

(いや、彼は神、彼は神)


 別室には、1人のメイドが待機していた。黒髪を耳元で切り揃えた、クールビューティーなメイドさんである。


「第一発見者はあなたですね。名前と発見時の状況を教えてください」


「はい、私はルリア=バレントと申します。バレント子爵家の娘です。離宮の掃除のため部屋を訪れると、ナイフで背中を刺されたビルド様が見えました。お恥ずかしながら、思わず大声を上げてしまい、それに気付いた近衛兵の方に来ていただけました」


「……なるほど、ちなみにビルドとの関係は?」


「特にはありませんけど……」


 黒髪メイドさんはリベロン様の質問に困惑気味である。


「ちなみに、こいつを見たことがありますか?」


 私を指差す。本当にこの人私の扱い雑だな。


「……確か第三王子殿下のメイドでしょうか?お見かけしたことはありますけど」


 さすが王宮メイド。私のことも知ってくれていた。私は知らなくてごめんなさい。


「……実は、こいつ今日あの部屋のベッドの下にいたんです。第三王子殿下とかくれんぼしていて。そこであなたの犯行を見たらしいんですよね……。という訳で、ルリア=バレント、ビルド殺害容疑でご同行願います」 


 私は呆気にとられた表情でリベロン様を見た。


 いや、いや、いや。見てない見てない。


 下手なことを言うと、リベロン様に絞められそうなので賢明な私は黙っていますが。


 ……でも、言われてみたら声は似てるかも……?


「……何で、何で私ばかり。子爵家令嬢だからいけないの?私の方がずっと長く付き合っていたのに……。姫様から婚約の打診が来たから私とは結婚できないって。でも私のことも愛してるから隠れてこれからも付き合おうって。愛したのに……裏切ったあいつが悪いのよ」


 先程とは別人のように暗い瞳で淡々と語る。


「ねぇ、あなたも分かるでしょ?」


 私を睨みつけながら同意を求めてくる。

 

 いや、さっぱり分かりません。正直色恋には自信がなく……。


「残念ながらこいつはお子ちゃまなので、あなたのその感情は理解できませんよ」

 

 ムカッ。いや、言い方よ。

(いや、この人は神、この人は神) 


「あんたさえ、あんたさえいなければバレなかったのに……」


「いや、それはどうでしょう。我々近衛は優秀ですので調べたらそう大差なく、捕まえていたと思いますが」


 リベロン様は話しながら、黒髪メイドさんに拘束具をつけた。


「じゃあ、行きましょう。……お前は適当に第三王子殿下のところへ戻れ……犯人が見つかったから、部屋を片付けろ」


 私への指示と部下への指示を行うと、リベロン様は黒髪メイドを引き連れてその場を後にした。かに見えた。


 リベロン様はくるりとこちらを振り向き私を見て一言


「……これ以上いらんことをするなよ」


 言い捨てて去って行った。


 ムカつく――!!


 やっぱり神じゃなくて、陰険ネチネチ野郎ね。 


 でもま、私の無実も証明されたし、姫様も浮気野郎と婚約しなくて良くなったし、終わりよければ全て良しということで。


 一件落着!!



 ◇ ◇ ◇ ◇


 

 リベロンとその部下の会話



「どうして第一発見者のメイドが犯人だと分かったんですか?」


「あいつの証言にドアを開けてすぐに叫んだとあっただろ。すぐのわりに後ろ向きで倒れているのがビルドと気付いたこと、ナイフもあいつが持ってたから分からないはずなのに、凶器がナイフと知っていたこと。この二点からだな」


「ですが、スフィア様が見たと言われたのは機転がきいていますね。さすが筆頭お見事です」


「言っていないと言い逃れられたら厄介だからな……ま、解決して良かった」


「ですが、スフィア様がナイフを持っていたのに、よく犯人では無いと分かりましたね」


「いや、無い無い。あいつに人を殺す度胸なんか1ミリも無い」


(筆頭、スフィア様のことになると地がでるよな。他の女性には隙を見せないように、スマートな対応をされるのに……はっ、これがツンデレ。筆頭、陰ながら応援します)


 その日、近衛兵の中で筆頭とスフィア様を陰から見守る会が結成された。


 


 

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