#83 スペースで話しましょ
私は基本的に推しと同じ空間で同じ空気吸えてることが幸せだからさ、良席祈願ってしないんだよね」
そう言ったのは、いつもどこか落ち着いてる子。
「心広すぎ。推しの視界に入りたいから私は良席、神席祈願しちゃうな」
すかさず別の子が笑い混じりに返す。
「私は家族と参加する時は前の座席があると子供が埋もれちゃうなって思うから席は気になるよね」
「それわかる。連番がいると『変な席じゃありませんようにー』って祈っちゃうかも」
「祈るよねえ。私の責任かーって思うとライブも楽しめるか不安になるし」
「いや、わかるそれ!同じお金払ってるならやっぱり近い方がいいし、近ければファンサもらえるかもって期待しちゃう」
「結局運だって分かってるんだけどね」
「だよね。広い会場でアリーナの一桁列だった人とか、ましてや最前とか、どんな徳積んでんのって思う」
「一回でいいから最前で推し見てみたいなあ」
「一生分の運使っちゃいそうじゃない?」
「でも使ってもいい!」
笑い声が重なり、スマホ越しの空気がふわっと和む。
話題は席から双眼鏡のおすすめ機種、持ち込みたいペンライトの長さ、MCでの推しのクセへとぽんぽん移っていく。
「ほんと尽きないね、この話」
「ライブって一瞬だけど、待ってる時間もこうやって楽しいんだよな」
ふと窓の外を見ると、夜空に丸い月が浮かんでいた。
満ちた光に照らされながら、それぞれの願いと祈りを抱いて、会話はまだまだ続いていく。
#100日チャレンジ 83日目




