#81 展示会後、社内で
展示会を終えて会社に戻った俺は、名刺入れが空になっているのを確認して小さく満足した。予定通り、成果は上々だ。
休日出勤のオフィスには俺と後輩だけ。静かな空間で、二人並んでPCに向かい報告書をまとめていた。
ふと、隣から声がする。
「今朝のモノレールの人たち、歌い手グループの握手会だったみたいですよ」
「お前、報告書は終わったのか?」
「はい、大体。ちょっと休んだら見直します」
要領のいいやつだ、と心の中で舌打ちする。俺はまだ半分も終わってないのに。
「いいですよね、推しと直接会えるのって。しかも握手かぁ…嬉しいよなあ」
「…お前、推しとかいたか?」
「いますよ。柏木さんっていう推しが」
俺じゃないか。思わず顔を上げると、後輩はスマホを机に置き、にこにこと笑っている。
「ふざけんな。仕事に戻れ」
「じゃあ、握手しましょ」
そう言って差し出された手を、仕方なく軽く握った。――はずなのに。強く握り返され、指先まで熱が伝わる。妙に長い。
「…おい、なんのつもりだ」
「推しと握手ですよ」
真顔で言って、柔らかく笑う。
イケメンがそんな風に笑えば、そりゃ女は落ちるだろう。実際モテるんだろうな。
俺は心の中で大きなため息をついた。
こいつの冗談は、時々、冗談に聞こえなくなる。
#100日チャレンジ 81日目




