#8 空白だった日
「本日、検温とサインがなかったため、プールには入れませんでした」
担任から言われたことば。
仕事の休憩中に留守電に気づき折り返した。
ああ、そっか。
今朝、息子が水着を自分でバッグに入れていた。私が昨日干しておいたもの。
タオルはいつものが乾いていなかったから代わりのもの持たせた。
ちゃんと連絡帳にも書いた。
だからてっきり今日はプールには入るものだと思ってた。
検温とサイン。忘れた私が悪い。
はいはい、ごめんなさいね。
そんな小さなミスで、楽しみにしてたプールに入れないんだ。
帰宅後の子どもは落ち込んだ様子で
「ママ、ごめんね…」って。悪いのは私なのに。私が絶望したような顔をしているから気を遣ったのかな。
ごめんねって抱きしめた。
水着を干すのも、提出物をそろえるのも、仕事から帰ってヘトヘトの中でやってる。
学校は「保護者の協力をお願いします」って簡単に言うけど、その“協力”が毎日続くと、こっちのキャパはすぐ限界を超える。
責任が、重い。
全部私のせいになる。この子の生活のすべてを、私が支えている。
仕事では締切、家庭では提出物。
夜は疲れて眠るだけ。
どこか遠くへ行きたいな、って考えることもある。
行けるわけない。私がいなくなったら、この子が困る。
だから、私は毎日ここにいて、また明日も検温表に体温とサインを書く。
パラレリウム・フライトの歌を聴こう。
今日も再生ボタンを押す。
スマホから流れてくる声は、現実を全部包んでくれるわけじゃない。
でもひとときだけ、責任の重さを下ろせる場所になる。
「大丈夫」なんて言葉じゃない。
もっと静かで、あたたかくて、ちゃんと疲れをわかってくれているような音が、そこにある。
明日もやらなきゃいけないことは山ほどある。
でも今は、少しだけ、自分を許してあげようと思う。
だって、私が選んだ“好き”なんだから。
せめて今だけは、私の時間。
誰の母でもない、妻でもない、誰の部下でもない、ただの私でいられる場所。
#100日チャレンジ 8日目