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#72 推し方も様々

嫌気は、じわじわと積もっていた。

SNSを開けば、目に飛び込んでくるのは推しのために作り込まれた華やかな祭壇、壁一面を埋め尽くすグッズの数々。羨望と妬みが入り混じり、知らず知らずのうちにため息が漏れる。あの子だってそうだった。少し前に初めて会った推し活仲間。話すと楽しい子だったけど、実際に見せてもらった彼女の痛バや部屋の写真は、想像以上の「強オタ」で――自分の手元にあるわずかなグッズが急に色褪せて見えた。


惨めさが胸に広がった。お小遣いは限られているし、親は推し活そのものを否定はしないけれど、何万円もするまとめ買いなんて到底許されるはずもない。比べたって仕方ないことはわかっている。けれど、モヤモヤは消えてくれない。SNSを閉じても頭の中でぐるぐると渦を巻いて、気づけば心は疲弊していった。


そんなある日の夜、なんとなく流していたYouTubeで、ふと目にとまった動画があった。

「結局、あの頃の私は“周りに見せたい”だけだったのかもしれない。グッズを揃えることが愛だと思い込んでた。でも違った。モノよりコト――ライブに行ったり、推しの歌を聴いたり、そういう時間の方がずっと大切だったんだ」


画面の中で、柔らかい声の女性が笑っていた。彼女もまたかつては大量のグッズに囲まれ、収納に頭を悩ませていたらしい。新しいグッズが出るたび、昨日まで大事にしていたものがなぜか色褪せて見えて、心のどこかで焦りや恐怖を覚えていた、と。だからこそ、ある時思い切って手放す決断をした。モノへの執着をやめたら、気持ちがすっと軽くなり、推し活そのものを前より楽しく感じられるようになった――そう語る彼女の姿は穏やかで、どこか救いのように映った。


気づけば、次の動画、そのまた次の動画と再生を重ねていた。掃除をしながら推し活を語る彼女の姿。笑い混じりに語られる「過去の自分の失敗談」。どれも、今の自分と重なる部分が多くて、胸の奥に静かに沁みていった。


「グッズの数が愛情の証だなんて、そんなの本当はおかしな話だよね」

画面の中の彼女がそう言ったとき、はっとした。自分もずっと、そう思いたかったのだ。推しが喜ぶのはきっと、モノを積み上げた祭壇よりも、ライブに来てくれること、歌を聴いてくれること、日々を楽しんでくれるファンの姿なのではないか。


胸の中にたまっていた澱が、少しだけ溶けていくようだった。

比べなくていい。自分には自分なりの推し方がある。大事なのは数じゃない。気づけば、心は少し軽くなっていた。


あの子みたいに強オタでなくてもいい。

私には私の歩幅で、推しを好きでいられる道がある。そう思えたら、ふと笑みがこぼれた。


#100日チャレンジ 72日目

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