#6 線を引く。その前に
やっぱり無理かもしれない。
ペンタブを持つ手が、深夜の静けさの中で止まった。
次の配信はリスナー参加型。ファンアート選手権。
テーマは「着てほしい衣装」。
何日も前から考えてた。夢の中でしか飛べない、軽やかで浮遊感のある衣装。
ベースは白。光に透けるような布を幾重にも重ねて、羽みたいなシルエットにした。
胸元から袖にかけて、それぞれのメンバーカラーをさりげなく混ぜる。
風を受けたらなびくように、裾は長く、靴はすこしだけ未来っぽく。
あの6人がこれを着て、空を舞うように歌うところを想像して、何度も線を引いた。
でも、描けば描くほど不安になる。
私の絵はそこそこ上手いけど、SNSにはもっとすごい人たちがいる。
立ち絵のバランスも、装飾の描き込みも、色の深みも、みんな私より上手い。
「いいね欲しさで必死」と思われるのが怖くて、ポストする文にも悩んだ。
それでも描きたかった。
彼らの歌が私を変えてくれた。
初めて聞いた時、救われた気がしたから。
好きになって、絵を描くようになって、気づいたらもう何枚も描いてた。
投稿したのは、締切の3時間前。
「#パラフラファンアート選手権」
手が震えてた。怖かった。見られるのが。
——そして、配信が始まった。
メンバーの声が、スピーカーから流れてくる。
「この衣装、めっちゃ好き…」「これ飛べそうじゃない?」「袖の色、俺のカラーだ!」「着てみたい〜!」
私の絵だった。
スクショされて、紹介されて、褒められて、笑い声までのってた。
心臓が爆発しそうだった。
通知が止まらなくて、初めての「万バズ」ってやつになって、フォロワーも一気に増えた。
嬉しかった。
あのとき描くのを諦めなくて、本当によかったと思った。
たぶん、また嫉妬したり落ち込んだりすることはある。
でも、私は私の線を引く。
大好きな6人が、また私を見つけてくれると信じて。
#100日チャレンジ 6日目