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#32 せめて夢では

 夢の中の彼らは、最初から最後まで眩しかった。

 華々しい始まり。デビューも鮮烈。6人が空を見上げ、笑顔でステージに立つ。その歌声に、会場中が揺れていた。誰もが幸せそうだった。もちろん私も。仲間たちと手を繋いで涙を流しながら笑い、推しの名前を叫んだ。


 そこから、駆け抜けるような活動の数々。大きな会場も、テレビも、びっくりすることに映画化まで。夢のように飛び続ける6人を、私はずっと見届けてきた。全員で迎えた最終ライブ。銀テープが天井から降り、6人が肩を並べて「ありがとう」と言った。

 最後まで、誰一人欠けることはなかった。

 これ以上ないくらいに幸せなラストだった。

 やっとここまでたどり着いた。本当に、見届けられてよかった。

 心からそう思ったところで夢は終わった。


 目が覚めると、冷たいシーツが肌に張り付いている。現実だ。

 私は20代のOL。結成から3年ほど経った頃にパラフラを知った。推し活が私の生活を彩ってくれた。ライブには何度も行けたし、推し活仲間もできた。今も、楽しい。楽しいはずなのに。


 1人だけ、いない。

 信じたくなくて、こんな夢を見たんだ。理想だけで出来た夢。起きてもまだ涙が止まらない。私の最推しではなかったけれど、あの人のことが好きな友達は何人もいた。彼女たちのことを思うと、胸が締めつけられる。


 SNSを開くのが怖い。タイムラインはきっと、悲しみの声や、お気持ち表明で埋め尽くされているだろう。憶測や怒りや不安。パラフラ公式は今も沈黙を続けている。そのせいで余計に混乱が広がり、リスナー全体が少しパニックを起こしている。


 早く、何か続報があればいい。

 せめて、みんなの気持ちが落ち着くくらいの情報を。私の気持ちも、落ち着かせてほしい。


 この現実が、悪い夢であればいいのに。

目が覚めたらまた、6人揃ったステージに戻れるのなら。そんな叶わない願いを抱えて、私はスマホを見つめたまま、身動きが取れずにいる。


#100日チャレンジ 32日目

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