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#16 最推しの言葉

息子は高校卒業と同時に東京へ出た。

そして就職を目前にして、歌い手になると言った。

しかも先日初めて会った人たちとグループを結成すると。


妻は泣いた。

「会社に入って、安定した道を歩んでほしい」

その気持ちはよくわかる。


俺は、好きにやれと言った。聞き分けのいい父親を演じた。

「若いんだし、一度きりの人生だからな」なんて、軽い調子で。


けれど内心は真逆だった。驚きと、戸惑いと、そして…嫉妬があった。

俺はずっと家族のために働いてきた。

やりたいことなんて、とうの昔に封じ込めて。


――やりたいことって、なんだっけ?


久しぶりに、息子の活動名で検索してみた。

パラレリウム・フライト。

顔は出していないけれど、声は間違いなくあの子だ。

雑談配信が始まったばかりだった。


「今日もありがとなー!学校?バイト?おつかれ!」

画面越しの息子は、楽しそうに笑っていた。

コメントを拾い、軽快に返す。

笑いを誘ったかと思えば、真剣な話にもなる。


同時視聴は800人ほど。まだ“バズった”とは言えないかもしれない。

だが、きっともっと多くの人に届くようになる。

この声は、その力を持っている。


「マジで、やりたいこと我慢しないほうがいいよ」

息子が真剣な声でで言った。

「推し活も趣味も。やることはやった上でね。

学生さんだったら、生活面で親にちゃんとしてるってところ見せるようにしてさ。

勉強だってするときはしないと。やるべきことやらないで自由を主張するのはガキだと思うよ」


はっとした。

こんなにしっかりした考えを持っているとは。まだまだ子どもだと思っていたのに、もうとっくに一人の人間になっていた。

周囲の人の影響だろうか。それとも、舞台に立つからこそ変わったのか。


画面の向こうで、息子はふっと笑って続けた。


「全ての人を納得させる方法はないからさ、

自分が信じることやればいいよ」


その瞬間、目の前がすっと明るくなった気がした。

胸に張り付いていたもやが、ゆっくり溶けていく。


――やりたいことって、なんだっけ。

もう一度、自分に問いかける。


俺は父親として、夫として、仕事をこなしてきた。

でもそれは「俺自身の人生」だっただろうか。


息子という最推しに、俺は今、勇気をもらった。

今さら遅いなんてことはない。

俺も、俺の人生を歩こう。




#100日チャレンジ 16日目

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