#15 兄推しの妹(笑)
講義中、ふと目に入った前の席のスマホケース。
挟まれていたチェキに、私は一瞬目を疑った。
パラレリウム・フライト。しかもシヲくんのやつ。
なんだかおもしろくなって、講義終わりに声をかけた。
「ねえ、それ……パラフラ、好きなの?」
その子は一瞬ぽかんとしてから、ぱっと顔を輝かせた。
「えっ!? うん! 好きなの!? 誰推し!?」
たった一言で、爆発的にテンションが上がる感じ。わかる。
一瞬だけ、誰って言うか迷ったけど――
「やしろくんかな」
彼女は「わかる〜!」と叫ぶように言った。
「リーダーでさ、なんか一番メンバーのことちゃんと見てる感じするよね!」
って、それたぶん気のせいだよ……とは口に出さず笑って聞いていた。
だって、そのやしろくん――私の兄なんだもん。
LINE、ブロックされてるけど。
こっちは何も言ってないのに、母には「絶対誰にも言わないでね」って口止めされた。
そもそも言うつもりなかったんだけどな。どっからバレたんだか。
兄は今、家族とは離れて暮らしてる。こっちから連絡しても返事はない。
でも、配信では優しい声で「今日もありがとう」なんて言ってるから、あれはあれで仕事なんだなーって思ってる。
プロのエンタメ屋、ってやつ。
でも彼女の言葉は本物だった。
「6人でパラフラって感じがして、全員が大事なんだよね」
「仲の良さが伝わってきて、見てるだけで元気出る〜」
そのまなざしは本当にあたたかくて、パラフラを、兄を、本当に好きでいてくれるんだとわかった。
そこから一気に仲良くなって、今度ライブに一緒に行こうという話になった。
「グッズつけて行こうね!」
って言われたとき、ちょっと笑いそうになった。
……つけるよ。思いっきり。
兄のメンカラ全開の服と痛バで。
あんたがLINEブロックしても、妹はここで輝いてやるんだからな!
あの人、ステージから観客席までよく見てるんだよね。
じゃあ見つけてよ、私を。
「……あ。いた」
って、気づいて笑えばいい。
そんな顔してるの、こっちはちゃっかり見てるから。
#100日チャレンジ 15日目