#14 引力と重力
収録が終わったあと、スタジオに誰もいなくなった。
なんとなく、出るタイミングを逃したれいあと俺は、そのまま椅子に座り込んだ。
「コーヒー、飲む?」
「うん。ブラックで」
紙コップを片手に、れいあがとなりの椅子に腰を下ろす。
録ったばかりのデビュー曲が、まだ頭の中でぐるぐる回ってる。
明るい展望を歌った曲。未来へ進む力を信じて、というメッセージ。
――でも、思ったより難しかった。
「正直、全然納得いってないんだよね」
れいあがぼそっと言った。
「みんなで歌うのって、思ったより難しい。歌ってみたと違ってさ、自分ひとりじゃ完結できないから、すげー緊張する」
「うん、わかる」
俺もすぐにうなずいた。
「重なり方とか、ハモりとか、合わせるのに神経使うよな。おまけに、まだお互いの癖もつかめてないし」
「うん。でもさ、たぶん――何度も合わせていくうちに、慣れると思う。
きっと俺たち、家族みたいになっていくんじゃないかな」
「……家族?」
れいあが笑う。
「じゃあ誰がお母さん?」
「そういう話じゃねーし!」
吹き出してツッコんだら、れいあもつられて笑った。
少しの沈黙のあと、れいあがカップを見つめながら言う。
「でも、ほんとにそうなれたらいいなって思う。
これから配信やって、ライブやって、歌って、踊って……
たぶん、どんどん忙しくなるよな。俺たち自身も、変わってくんだろうし」
「どんなふうに変わったとしても、信じてやっていこう」
俺は言った。
「あいつが引っ張ってくれたおかげで、ここまで来れたんだし。まだ見えてない景色を、あいつが見せてくれる気がする」
「だな」
静かにカップを置いて、れいあがぽつりとつぶやいた。
「今日録ったこの曲、いつか大きいライブ会場で歌ったら、俺たち泣くかもな」
「そのときは頭ぽんぽんしてやるよ」
「すんなよ! 俺、あんま涙とか見せないタイプなんで」
「はいはい」
そう言って、お互い苦笑する。
でも本当はわかってる。
となりにいるこいつと、一緒にその未来へ行きたい。
今はまだ言葉には出せないけど、そう思ってる。
まだ見ぬ景色が、きっとある。
#100日チャレンジ 14日目