#13 誰よりも強くいなきゃ
最初は、ただ応援したい一心だった。
パラレリウム・フライトの音楽が毎日を生きる理由だった。イヤホンで聴いて、部屋でそっと歌って、一人で泣いて。ただそれで充分だった。
でも、SNSを見てしまった。
誕生日、記念日、ライブ前日。同じ柄の缶バッジ、グッズをずらりと並べて、かわいく着飾った同担たちが、アフタヌーンティーをしている。
祭壇を作ってスタジオで写真を撮っている。
聖地巡礼。コラボカフェ。ぬいで顔を隠して撮る集合写真。
「今日も大好き♡」って、キラキラした文字。
焦った。
このままじゃ、誰の目にも映らない。
推しに届かない。誰かに勝てない。
だから集め始めた。
アクスタ、アクキー、缶バ、ぬい、特典付きCD、コンビニコラボのクリアファイル……
強オタって言われるために。
アピールするために。
自撮りと一緒に並べるために。
親金ってことになってるけど、全部がそうじゃない。
放課後にはコンビニバイトをしている
あとちょっとだけパパ活(これがあるから表立って言えない)。
危ないこともあったけど、なんとか逃げた。
だから、きっと次も大丈夫。
地元のオタクに出会った。タグ画で繋がった、同い年の子。
「近くじゃん、会おうよ!」ってノリで話して、場所は私が決めた。
行ったこともないけど、SNSで見た推し活できて映えるカフェ。
「ここ常連なんだ〜」って嘘をついた。
彼女は小さな痛バをぎゅっと持ってきて、目を輝かせていた。
ああ、私が最初にパラフラを好きになった頃と似てる。
純粋で、ただ“好き”だけで生きてる。
でも、弱い。
缶バッジも少ないし。持ってるグッズもかなり少ないみたい。それに私の方がほんの少し歴が長い。
マウントとれて、気分がよかった。
だけど。
帰って部屋に積み上がったグッズを見ると吐き気がした。
未開封のアクスタ。手つかずのCD。
きれいに並べなきゃ、写真撮らなきゃって思いながら、何ヶ月も経った。
あと数日でツアーグッズが出る。
また買わなきゃ。そのために、お金を手に入れなきゃ。
その夜、スマホに登録された初めての名前。
アプリで知り合った、知らないおじさん。
ホテルの前、他人の顔をした自分が立ってる。
何するんだろ。気持ち悪い。
逃げたい。でも逃げることはできない。
ふと開いたSNS。
今日会った彼女が、写真を加工して投稿してた。
「ご近所f fちゃんとオフ会!幸せ〜♡」
羨ましい? そんなわけない。
私の方が強い。稼いでる。顔だって可愛い。
でも、心のどこかで、何かが崩れてる。
これが本当に、私の“好き”だったんだっけ。
答えなんかきっと出ない。