#12 理想と現実と割り切れない心
パラレリウム・フライトに出会ったのは、中3の冬。
受験勉強の合間、息抜きに開いたYouTubeのおすすめに流れてきた企画動画。最初はただの声だけのグループだと思ったのに、気づいたら毎日聴いてた。
合格発表のあと、最初に流したのも彼らの歌だった。
高校に入ったら、絶対に推し活仲間を作ろうって思ってた。
でも、実際はうまくいかなかった。
周りはK-POPとか、アイドルとか、インフルエンサーの話ばっかりで、歌い手の話題を出すタイミングがわからない。
それでも諦めきれなくて、こっそりSNSで繋がった同担さんとのやりとりだけが救いだった。
もうすぐ夏休み。
オフ会のレポを見るたびに胸がざわつく。
「大好きffさんとアフタヌーンティー♡」
「推しが繋いでくれたご縁に感謝!」
そんな言葉の並ぶ写真に、ぬいぐるみやアクスタがずらっと並んでて、どれも私のより大きくて豪華。
私も、あんなふうになりたい。
お小遣いでちまちま集めた缶バッジと、ミニアクスタで組んだ小さな痛バ。
それでも頑張って揃えた。みんなで並べて「かわいいね」って言い合いたい。
そんなとき、タグ画で繋がった子が、同じ県に住んでることがわかった。
しかも、同い年。
「えっ近くじゃん!会おうよ!」ってトントン拍子でオフの約束が決まって、私の心は期待でいっぱいだった。
でも、実際に会ってみたら、現実はちょっと違ってた。
彼女は親金で揃えたグッズが大量で、痛バはA3で組んであって、レートの高い缶バッジがびっしり。
カフェに並べて写真を撮ると、私のミニサイズのぬいは浮いて見えた。
「全然そんなことないよ〜」って言いながら、彼女がグッズを少しずつ自分側に寄せていくのがわかった。
話も合うには合うけど、時々見せる“わかってる風”の笑みが刺さる。
帰り道、カメラロールに残った写真を見返して、思った。
私が欲しかった推し活仲間って、こんなだったっけ?
SNSで見てた「尊い時間♡」は、もっと幸せそうに見えたのに。
グッズの数だけがすべてじゃないって、頭ではわかってる。
でも、じゃあこのモヤモヤはなんなの?
私が足りないから? お金がないから? それともただ、私が寂しいから?
歩きながら、イヤホンでパラフラの新曲を流す。
それでも、気持ちは晴れなかった。
「好き」があるのに、どうしてこんなにむなしいんだろう。
答えは出ないまま、電車の窓に映る夕焼けと私の顔が重なり、オレンジ色に染まっている。