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#100 はじまりの空

緊張した空気が、やしろの部屋を覆っていた。

 PCの前に並んだ六人の姿勢は硬い。誰もが膝の上でぎゅっと台本を握りしめ、心臓の鼓動が耳に届くほど早くなっているのを感じていた。


「顔出しするわけじゃないのに、めっちゃ緊張するね」

「声、ちゃんと出るかな……」


 シヲの小さな声に、やしろが笑って言う。

「大丈夫、今できる精一杯でやろう。これがはじまりなんだから」


 その言葉に頷きながら、六人は視線を合わせる。結成は勢いだった。けれど、このメンバーなら絶対に羽ばたける。そう信じている。


 SNSで小出しにしてきたビジュアルや自己紹介動画。まだ何者でもない彼らを、それでも楽しみに待ってくれる少数のフォロワー。配信を告知したときに「楽しみ!」とコメントをくれた人の名前とアイコンを覚えている。


 机の上にはびっしりと書き込まれた台本。誰がどこで話し、どんな相槌を打ち、どこで笑い合うかまで、全てを繰り返し練習してきた。準備は万全だ。けれど、不安と期待は消せない。


 時計の針が、20時を指す。

「……時間だな」

 芹香が深く息を吸い込み、声を落ち着かせて言った。


 全員が姿勢を正す。瞬間、胸の奥で同じ音が鳴った。

 緊張と高揚、恐怖と希望。すべてを抱えて飛び立つ瞬間。


「さて、行こう」


 やしろの合図に、六人は一斉にマイクへと身を寄せる。


「初めまして! パラレリウム・フライトです!」


 明るく、弾むような声が部屋いっぱいに響いた。

 その瞬間、六人の前に広がったのはただの小さな画面ではなかった。

 果てしない空だ。まだ誰も知らない空の彼方へ、これから飛び立っていく。


 不安もある。失敗するかもしれない。だけど、それ以上に胸を膨らませるものがあった。

 未来。夢。仲間。

 この翼で届く限りの世界へ。


 小さな部屋に笑い声が広がる。最初の一歩は思ったよりも軽やかで、楽しい。

 きっと大丈夫。六人でなら、どこまでも行ける。


 それは空のように高く遠く澄みきった、希望に満ちたフライトの始まりだった。

#100日チャレンジ 100日目

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