#10 追い風の音がする
何者でもない6人が集まって、パラレリウム・フライトを始めた。
最初は歌ってみた、企画動画。音源もMVも、自分たちで手探りだった。
けどある日、1本の投稿がバズって、風向きが変わった。
通知が止まらなくて、YouTubeの登録者数が1万、2万、10万と跳ね上がって――今や50万を超えた。
“好きなことをやって生きていきたい”なんて、夢みたいな言葉だと思ってた。
けど今、その夢の中に立ってる。
もちろんうまくいかないこともある。
俺はわりとなんでも「OKじゃね?」って思ってしまうタイプだけど、メンバーの中には演出や構成に細かくこだわるやつもいる。
歌詞の方向性、照明の色、ダンスの立ち位置、何時間も揉めることもある。
でも、最終的にはちゃんとひとつになる。それが自分たちの強みだと思う。
今日は次のライブの会議。
少し風邪気味だったけど、無理して来た。
みんなの熱量に負けたくなくて。
喉も痛いし、鼻も詰まってる。
会議中、我慢していたくしゃみがついに出て、マスク越しにごまかした。
「れいあさん、大丈夫ですか?」
すぐに隣から声がかかる。
スタッフのAさんだった。毎回この会議に同席してくれて、黙々と資料を取ってる人。
今日もアイロンの効いたシャツに首からスタッフパスを下げてる。
「ありがとう、助かる」と笑って返すと、軽くうなずいてまた書き物に戻った。
俺は本当に恵まれてる。メンバーにも、こうやって支えてくれるスタッフにも。
誰かひとりでも欠けたら、ここまで来られなかった。
夢は、現実になりつつある。
でももっと先に行きたい。でっかい会場でライブしたいし、音楽だけで飯を食いたいし、ずっと仲間と一緒にいたい。
次の収録まであと3日。
この風邪、さっさと治さないと。
終わったらラーメンでも食いに行こう。みんなで他愛のない話をしながら。
俺たちはまだ夢の途中。
だけど、追い風の音がする。
#100日チャレンジ 10日目