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14.GIFT HOLDERS 幹部会議

 鈍色の鉄扉が閉まると同時に、会議室の空気が一段と重くなった。無機質なスチールの壁、無言で鎮座する長机。光源は天井に埋め込まれた白色LEDだけで、そこに集う者たちの表情を均等に照らし出していた。


 GIFT HOLDERS本部にあるこの会議室には、今や組織の中枢が集結していた。


 長机の中央に、澄野総長。だるそうな佇まいで椅子に腰掛け、肘をついて顎を支えている。その両脇には、七つの班を束ねる班長たちが一堂に会していた。


 制圧班の氷川玲次は、静かに姿勢を正す。革の手袋に包まれた手が、机の上で組まれた。


「――では、氷川。報告を」


 澄野の気怠げな声が部屋に満ちる。だが、それを受けた玲次の声音には一切の迷いがなかった。


「はい。先日の事案において接触した二名の能力者――栗原春香と有栖祐希――について報告いたします」


 手元の資料を広げながら、玲次は淡々と説明を始めた。春香については、フルコンタクト空手の大会実績。異能による異常な脚力と筋力。


「彼女の実力は、我が制圧班に迎えることで即戦力となります。命令への従順性にも問題はなく、実戦経験も豊富です」


 そして、祐希。


「有栖祐希――彼女の能力は、未来視です」


 静まり返った会議室に、わずかなざわめきが走る。


「彼女は夢を通じて未来の出来事を視る。偶然ではなく、複数回、的中しています。災害の発生時間と規模、人の死に至るルート、彼女はそれを夢で察知し、回避の行動を取りました」


 玲次の声が一段と力を帯びる。


「情報班が扱う範疇を超えた“未来”という情報です。まだ彼女の能力の全貌は未知数ですが、我々が持ち得なかった視点からの情報取得が可能になる。現場の指揮官として、私は彼女の価値を確信しています」


 視線が集まる。


「彼女を情報班へ推薦します」


 次の瞬間、長机の向こうから、冷ややかな声が響いた。


「未来視、ですか」


 谷澤――情報班班長。整ったスーツに眼鏡をかけ、資料に目を通しながら表情ひとつ変えず口を開いた。


「その能力、証明可能ですか?」


 静かに、確実に、針を刺すような問い。


「未来視というのは、本人しか知覚できず、他者による検証が困難です。記録や再現ができない情報は、情報として扱うには不適切。偶然の連続に過ぎない可能性もある。私は、論理的根拠が乏しいものを、組織の判断材料にするのは反対です」


 その言葉に、玲次の拳が机の下で固く握られる。


 だが、それを遮るように、浮島――諜報班班長が口を挟んだ。


「とはいえ、現場で命を救ったのは事実だ。人命は統計じゃないぜ。現場を見た氷川がここまで推すってことは、相当なものなんだろ?」


 その声に、嵐原が頷く。金髪にオレンジのメッシュ、突撃班の豪傑女。彼女は肩を揺らして笑った。


「ガキが使えるってんなら、使ってみりゃいいじゃねえか。ミスったらそのときクビにすりゃいい。未来視なんて、俺らが持ってないチート能力だろ? ロマンあるじゃん」


 会議室の空気がやや乱れたが、それでも谷澤の態度は変わらなかった。冷たく、厳然とした視線で玲次を見つめている。


「我々は遊びでやっているのではありません。確率と根拠がなければ、人を動かす理由にはならない。情報班は、そういう理念で運営している。情で運用するものではないのです、氷川班長」


 その瞬間、玲次の中で何かが軋んだ。


 冷気が微かに、指先から漏れ出た。抑えていた激情が、胸の奥で泡立っていた。


「……俺たちが信じられなくて、誰が彼女の力を信じるっていうんだ」


 低く、喉奥で震えるような声だった。


「社会に拒絶され、家に閉じこもり、ずっと独りだった少女だ。誰も信じてくれなかった彼女を、俺たちGIFT HOLDERSが疑ってどうする。信じてやらなきゃ、何のための保護だ。何のための仲間だ!」


 机の上に手を叩きつける音が響き、場が凍りついた。


 谷澤が立ち上がりかける。嵐原が苦笑しながら口笛を吹いた。浮島が椅子を揺らしながら「まあまあ」と言う。


 だが――


「おい、おまえら。ちょっと静かにしろや」


 だるそうな声が響いた。澄野だった。あくびを噛み殺すように言いながら、眉をわずかに持ち上げる。


「氷川。お前の気持ちは分かった。谷澤、お前の言うことも正論だ。……が」


 その瞬間、彼の瞳が一瞬だけ鋭くなった。見開かれた瞳孔が、雷光のような説得力を持って全員を見渡す。


「この場で結論は出さねえ。継続審議。引き続き検証と監視対象に置く。――それでいいな」


 谷澤がわずかに口を引き結ぶ。玲次は何も言えなかった。ただ、拳を握ったまま、席に沈黙する。


「……会議、終了」


 澄野がそう言った瞬間、各班長が無言で席を立ち始めた。無数の椅子が引かれる音が、耳に染みた。


 玲次は、重い足取りで廊下へ出る。背中に、冷たい汗が流れていた。


 ――このままじゃ、また彼女は一人だ。


 それだけは、許せなかった。

ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。

いよいよこの物語も、明日の朝と夜の2回の更新で完結となります。


ちょっとでも続きを楽しみにしてもらえたら、ぜひブックマークして明日の更新を待っていてもらえると嬉しいです。

ラストまで見届けてもらえたら、きっと登場人物たちもよろこびます。


それでは、また明日。

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