【第六話】
「ふふ、ありがとう。そういえば、自己紹介がまだだったわよね。私は、久遠鈴花。鈴の花で鈴花よ。それで、さっき言った私の妹が……」
鈴花がそう言った次の瞬間、私の後ろでドアの鈴を鳴らすシャリンという音がした。振り返ってみると、そこには可愛らしくあどけない表情を浮かべた女性が立っている。
「あら、ちょうどよかったわ。おかえりなさい」
「ただいま、鈴花。そっちの人は…お客さんですか?いらっしゃいませ〜!」
「お、おはようございます。」
妹さんの突然の帰宅にまだ驚いている私にお姉さんは軽く会釈をする。
「鈴花さん、この方が鈴花さんの妹さんですか?」
「ええ、そうよ。蘭花、この子はさっき雇ったバイトの子。住み込みで働くから仲良くしてあげて」
鈴花さんが分かりにくい子、と言っていた例のお姉さん。だが、そんな雰囲気はちっともなく、人懐っこくて優しそうな印象だ。どういうことだろうか。そう思った次の瞬間。
「ふーん……お客さんじゃないんだ」
急に蘭花さんの声色が低くなる。彼女の顔を見ると、見るからに表情が強張っていた。なにか怒らせることをしてしまっただろうか。
「あの…家出したところを、鈴花さんに拾っていただきまして……」
蘭花さんにそう説明するが、その表情は緩まない。
「それで、あの……」
少し説明を省きすぎたかもしれない。そう思ったのでなにか言葉を付け足そうとすると、様子を見かねた鈴花さんが私に説明してくれた。
「蘭花はね、別に怒ってるわけじゃないのよ。ただ緊張を解くと、ちょっと無愛想なのよね。よく勘違いされるんだけど、口下手なだけだから分かってあげて」
私はまた驚いて、蘭花さんの顔をまじまじと見つめてしまう。本当だ。よく見ると、蘭花さんの口角が少し上がっているように思えた。
「久遠蘭花。胡蝶蘭の蘭に花って書いて蘭花。これからよろしく」
少しぎこちない笑みで蘭花さんが微笑む。
「君影百合です。これから宜しくお願いします、蘭花さん」
「蘭花でいい。私も鈴花も堅苦しいのは苦手」
「でも……」
___蘭花さんは同い年っぽいけど、鈴花さんはたぶん私より年上だよね……。
そう思って鈴花さんを見ると、こちらを見ながら微笑みながら頷いていた。だが、流石にふたりとも呼び捨てにするわけにはいかないので、
「じゃあ……これから宜しくお願いします。鈴さん、蘭さん」
私はそう言って、軽く頭を下げた。
「いいわね、それ。可愛いじゃないの」
「そ、そうですか?」
「悪くない。ちょっと新鮮」
おっとりしていて笑顔が素敵な鈴さんと口下手だけど実は優しい蘭さん。仲の良い二人の声を聞いて、私は少し表情を緩めた。