【第四話】
「はい、おまたせ」
少し経つと、コトンという音を立ててテーブルにお皿が置かれた。お皿からはほかほかと湯気が立ち昇り、大根や牛すじ、さつま揚げなどが並んでいた。食欲をそそる良い香りにまたお腹の音が鳴ってしまう。
「いただきます」
早速お箸を手に取り、数回息を吹きかけてから、切り分けた大根を口に運ぶ。私は思わず目を見開いた。琥珀色のお出汁がよく染み込んだ大根は口の中でほろりと崩れ、そのじんわりとした温かさが胸の奥にストンと落ちていく。
柔らかく煮込んだ牛すじは舌の上でとろけ、さつま揚げは魚の風味が優しく、次から次へと箸が伸びるその美味しさに私は瞑目した。
「美味しいです……とっても」
「ふふふ、ありがとう。早めに仕込みをしておいてよかったわ」
「お姉さんは、一人でこのお店を営んでいるんですか?」
「いいえ、妹と一緒にやってるのよ。今は買い出しに行ってるから居ないけど、そろそろ帰ってくるんじゃないかしら」
「素敵なお店ですね。なんだか、ほっとします」
気がつくと、もうお皿の中は空っぽになっていた。とても体が温かく、まるで料理が私を励ましてくれたみたいだ。
「そう言ってくれると嬉しいわ。ところで、聞きたい事がいくつかあるのだけれどいいかしら?」
「はい、なんでしょうか?」
「貴女、いつもあんな時間まで外出してるの?ご飯も食べていなかったなんて…ご家族は?」
そうお姉さんに聞かれた私は、思わず視線を落とす。言いたくない。でも、ご飯も頂いたんだし……ちゃんと話さないと。おでんをご馳走してくれたお姉さんの優しさに向き合わなければと、私は、ぽつりぽつりとこれまでのことを話し始めた。
私に、両親はいない。幼い頃に交通事故で亡くなり、生き残った私は母方の祖父と祖母のもとに引き取られた。祖父も祖母も厳しくはあったが、きちんとすれば褒めてくれる優しい人だった。優しい人だと、思っていた。
____そう、あの日までは。