6 間違ってごめん(後編)
マオは一応変装して、配達する人物がいる木下病院に来ていた。
中を歩いていると、通り過ぎるナースや患者たちが、マオを不審な目で見ていく。
「セバスよ……やはりこの姿も、目立つのではないか?」
目線が気になったマオは、周りを睨みつける。
そうすると、周りの人たちは、慌てて目線をそらし去っていった。
さすがにマオも、もう一度自分の姿を確認する。
「わし、どう見ても浮いとるよな……」
今のマオの変装は、頭にターバン、アロハシャツに短パンなのだ。
しかもいかつい顔なので、さらに注目を集めてしまっている。
「ここは居心地が悪い。さっさと終わらせて帰ろう」
マオは、コピーしてもらった用紙に目を通す。
「えっと、配達する人物は、青野ゆうじ。この病室にいるんだな」
そして、目的の部屋に着いたマオは、中から女性のすすり泣く声を聞いた。
「なんで、ゆうじがこんな目にあわないといけないの……私よりも先にいかないでちょうだい……」
泣いていたのは、ゆうじの母親だった。
マオは黙って聞いていたが、ドアの方に足音が聞こえた。
慌てたマオは、急いで近くの曲がり角に隠れる。
母親が出ていったのを確認すると、マオは病室に入った。
そこには、ゆうじが眠るように横になっていた。
「さっきの者が戻ってくるかもしれないから、急ごう」
マオは、渡してもらった『魂の戻し方』を、もう一度確認する。
「確か、瓶の先を相手の口に当てるのだな」
読みながら、ゆうじの口を開かせ、小瓶を口に当てた。
すると、魂がゆっくりとゆうじの中に戻っていく。
「うぅ……」
ゆうじが意識を取り戻した時、マオはドアの方に気配を感じた。
「あなた、そこでなにをしているんですか!」
入ってきたナースに驚き、マオは慌てて逃げだした。
するとマオから、1枚の紙が落ちる。
「ちょっと待ちなさい! あら?」
ナースは、マオが落とした紙を拾いあげる。
「……魔王便?」
「あら、どうされたんですか?」
少しして、ゆうじの母親が戻ってきた。
「あぁ、お母様。今怪しい男がゆうじさんに……」
「あれ、母さんどうしたの? ここはどこ?」
「ゆうじ、目を覚ましたんだね! よかったーっ!」
目を覚ましたゆうじに、母親は喜び抱きしめた。
ナースは微笑ましそうに見ていたが、ふとマオが逃げていった方に目をやるのだった。
★★★
マオはただいま、階段で屋上を目指していた。
あの部屋からは、階段が近かったのだ。
「しかし……屋上でなくてもよかったかのー……」
そして屋上に出たマオは、空に向かい持っていた野球帽をくるりと回した。
「魔王便さーんっ!」
少しして、あの死神が現れる。
「よかった。無事に配達できたんですね!」
「あぁ……」
「しかし、どうされたんですか、そのお姿は」
「気にするな。そしてお代なんだが、そのカマをもらおうか」
「えぇっ?! こっ、これはダメですよ!」
「なぜだ。わしはこんな姿で恥ずかしい目にあったんだぞ」
「知りませんよ、そんなこと!」
「それくらいもらわんと、割に合わん」
「そう言ってもダメです! これは私の命と同じくらい大切なんです」
「むぅー……」
「あきらめましょう、マオ様」
言い合いをしている二人が振り向くと、セバスが立っていた。
「セバス、お主どうやってここまで来たのだ?」
「それは飛んで、ですよ。私、魔物ですから」
「あぁ、そうだったな」
「あのー……それでお代は……」
カマを握りしめた死神は、不安そうに尋ねた。
「あぁ、それでしたら、マオ様が今持っているこの小瓶をいただきましょう」
「本当ですか、よかったーっ!」
「ですが、今回だけですよ。次はありませんからね」
「わ、わかりました……」
セバスの笑顔に、恐怖を覚えた死神だった。
「そ、それでは、またお会いしましょうねー!」
「もう来るでないわーっ!」
手を振って帰る死神に、怒り爆発のマオであった。
「そういえば、セバス。お主、タイミングよく現れたな」
「あぁ、ちょっと依頼人から呼び出されまして。マオ様は先に帰っててもらえませんか?」
「おぅ、わかった」
そう言ってマオは、羽を広げて飛び立った。
しかし、しばらくしてもセバスは戻ってこなかった。
「遅いのー、セバスの奴……」
ちらりと時計を見ると、もう夜九時をまわっている。
「さすがに、もう閉めるかのぅ」
マオが閉店の準備をしていると、カランコロンとベルが鳴った。
「魔王便という店は、ここで合っていますか?」
「あぁ、そうだが。もう店じまいだぞ?」
「では、これをお受け取りください」
入ってきた黒いスーツの男は、机にぶあつい封筒を置いた。
「……なんのつもりだ」
「これは、ある依頼を受けられたので、前金です。十万入っています」
「前金だと?」
「セバス様が受けられたんですよ」
「あぁ、なんか依頼人に呼び出されたと言っておったな」
「そのセバス様についてお話があります」
男の話に、マオは明らかに嫌な顔をする。
「……それは明日でも駄目か?」
「いいですが、セバス様の命に関わりますよ」
「それを早く言わんか!」
慌てたマオは、男の話を聞くことにした。