5 間違ってごめん(前編)
その依頼が舞いこんできたのは、マオとセバスがのんびりお茶をしている時だった。
「魔王便、というのはこちらでしょうか!」
「ぶふっ!」
勢いよくドアが開いたので、マオはお茶を吹き出す。
セバスは、そんなマオの背中をさすった。
「大丈夫ですか、マオ様!」
「ごほっ、ごほっ、いっ……一体なんの騒ぎだ……」
「お願いです、これを届けてください!」
慌てて入ってきたのは、ガイコツの顔に黒いローブと、背中に巨大なカマを背負った死神だった。
その死神が持っていたのは、小さな小瓶である。
「まぁまぁ、落ち着いてください」
「これが落ち着いていられますか! 私のクビがかかっているんです!」
セバスはなだめようとしたが、慌てている死神は言う事を聞かない。
「早く届けてください。さもなければ、このカマでっ……」
「危険物を振り回すではないわーっ!」
焦った死神は、背中のカマを振り上げる。
危険を察知したマオは、全力の拳で殴った。
「ぐはっ」
殴られた死神はその場に倒れた。
「なっ、なんてことをしているんですか、マオ様!」
「この者が危険と判断したから殴っただけだが?」
「一応、お客様なのですよ? 暴力はいけません」
「むぅー……」
叱られたマオは、機嫌を損ねて部屋の隅でいじけてしまう。
セバスはため息をつき、死神の体をゆすった。
「大丈夫ですか、しっかりしてください」
「はっ、私は一体なにを?」
「やっと落ち着かれたようですね。それで、ご用件は?」
「あぁ、そうだった。これを届けてほしいのです」
死神は持っていた小瓶をセバスに渡す。
「かしこまりました。では、こちらで用件をお聞きします」
セバスに促され、死神は席に着く。
「ではまず、お名前、年齢、職業、種族をお願いします」
「私の名前は四二‐三。年齢は長いので秘密で……職業と種族は死神です」
「はい、ありがとうございます」
いつものように、セバスはチェックシートに記入する。
「それで、この小瓶はどうされたんですか?」
「実は、これには魂が入っているんです」
「はぁ。それでは、これを持ち帰ったらいかがですか?」
「それはダメなんです!」
「なぜですか?」
「これは……死ぬリストに無い人間の魂だからです」
死神は俯いたまま話し続ける。
「私は新人なので、焦りもあり死ぬべきでない魂をかってしまいました」
「それは一大事ですね」
セバスがそう言うと、死神は机を強く叩いた。
「そうなんです! これが上にバレれば、私は消されてしまいます……」
「それは困りますね」
「はい……だから、バレる前にその人間に届けてほしいんです。ここはなんでも届けてくれるのでしょう?」
必死の死神を見て、セバスは営業スマイルをくずさず頷いた。
「もちろんです。あなたの用件はわかりました」
セバスはスマホを取り出し、小瓶を撮影する。
すると、スマホに位置情報が表示された。
「その人物がいる所がわかりました」
「本当ですか!」
「はい。後はこちらでやっておきますので、あなたはどこか身を隠していてください」
「わかりました。では、終わった時の合図はどうしましょう」
「そうですね……あっ、この野球帽を回すので、それを確認してください」
「わかりました。よろしくお願いします」
死神は頭を下げて、店を出ていった。
死神を見送ったセバスは、いじけているマオに呼びかけた。
「マオ様ー、いつまでいじけているんですかー? 仕事ですよー」
「わし、悪くないもん……」
しょんぼりしているマオを見て、セバスはため息をつく。
「そうですね。マオ様は悪くないですよ」
「そうか!」
「でも、これからはちゃんと考えてくださいね」
「うむ、わかった……」
あまり納得していないマオだった。
しかし、これ以上言うと叱られるので、黙っておくことにした。
「それで、今度はどこに配達するのだ?」
マオが聞くと、セバスは小瓶とコピーした地図を持ってきた。
「場所は木下病院です。そこにいる患者に、この魂を戻してください」
「魂を戻す?」
「やり方は調べておきましたので、それも持っていってくださいね」
「わしに出来るのかのぅ……」
不安なマオをよそに、セバスは準備を始める。
「さすがに病院だと、その服装はまずいので、変装してください」
「なに、変装だと?」
「はい、動かないでくださいねー」
テキパキと準備するセバスに、マオはされるがままであった。