20 やってきた男の言い分(後編)
「うぅ……」
やがて、ダイナマイト男が目を覚ました。
「あれ、俺はどうしてここに……」
「おっ、目を覚ましたぞ」
ダイナマイト男が顔を上げると、覗きこんだマオと目が合う。
すると、ダイナマイト男の顔が、どんどん青ざめていく。
「うわぁっ、いかついおっさん!」
「無礼な奴だな。もう一度眠るか?」
「すっ、すみません!」
「はっはっは、『いかついおっさん』とは、よく言ったものだな!」
「ローズ様、笑っている場合ではないですよ」
高笑いをするローズに、セバスは呆れてため息をつく。
マオも咳払いをして、ダイナマイト男に話しかけた。
「しかし、なぜお主は、このような馬鹿げたことをしたのだ?」
「そっ、それは……」
ダイナマイト男が言いよどんでいると、つぐみが男を指さす。
「この人、指名手配されている人なんです」
「テレビで言っていたもの!」
「なんだと?」
つぐみとリリーの言葉に、マオは顔をしかめた。
「ニュースで流れていたんです。近くで強盗があったって」
「犯人は四人いて、二人は捕まったらしいわよ」
「でも、一人だけ顔がわかったみたいで、映っていたのがその人なんです」
つぐみとリリーの話が終わり、全員の視線が、男に向けられる。
男は俯いていたが、ぽつりと呟いた。
「俺は、はめられたんだ……」
「はめられただと?」
「ちょっと用事があるから、車を運転してほしいと言われて……」
「そうしたら、相手は強盗犯だったわけだな」
マオの言葉に、男は力なく頷いた。
そして、外されていたダイナマイトを指さす。
「そこに、証拠のドライブレコーダーが……あれ?」
男が指さした方には、ダイナマイトしかなかった。
すると、セバスは「あぁ」と言い、机の上にあった物を取った。
「もしかして、これのことですか?」
「あぁっ、それです!」
セバスが見せた物に、男は喜びの声を上げる。
それを受け取り、安堵の表情になった。
「よかった……これが無事で……」
「しかし、お主がダイナマイトで吹っ飛ばしていたら、その証拠も無くなっていたのだぞ」
「それは、犯人に指示されたんです」
「指示?」
「これをつけて、どこでもいいから店を吹き飛ばせ、と……」
「そいつ、とんでもない奴だな」
「本当ですね。それで、あなたは、どうしたいんですか?」
セバスに問われ、男はドライブレコーダーを握りしめる。
そして、マオたちを見上げた。
「これを、警察に届けてほしい!」
「マオが行かなくても、そなたが行けばよかろう」
「僕は顔がバレているから、行ったら捕まります!」
「それも、そうだわね」
「魔王便さん、持っていってあげましょうよ!」
「魔王便?」
つぐみの発言に、男は首を傾げる。
すると、セバスは微笑み、男の前にしゃがんだ。
「ここは『魔王便』。魔王であるマオ様がやっている、お店なのですよ」
「まっ、魔王?!」
「驚きすぎです。そして、ここはなんでも配達いたします」
「なっ、なんでも……ですか?」
「えぇ。では、こちらにどうぞ」
セバスに促され、男は恐る恐る椅子に腰かけた。
「では、名前と年齢、職業、種族をお願いします」
「大生だい、四十歳。会社員で、人間です」
「はい、ありがとうございます」
ダイナマイト男改め、大生は質問の内容に疑問をもつ。
しかし、魔王が隣にいるため、聞くことをやめた。
大生から聞いた内容を、セバスはどんどん記入していく。
そして、スマホを取り出し、ドライブレコーダーを撮影する。
すると、画面に茶髪で耳にピアスをした男が映る。
「あぁ、この男が主犯ですね」
セバスが全員に見せていると、カランコロンとドアが開いた。
「すみませーん、ここに知り合いが来ませんでしたか?」
なんと、入ってきたのは、スマホに映し出された男だった。
「あっ、主犯の強盗犯!」
「なっ、なんで、顔はバレていないのに!」
つぐみに指さされ、ピアス男は慌てだす。
その光景を見て、マオはため息をついた。
「わしらを欺こうなど、百年早いわ」
「ちっ、こうなったら、全員の口封じを……」
「この者たちに、手を出すな!」
焦ったピアス男は、懐からナイフを取り出した。
しかし、マオの覇気にあてられ、その場に膝をつき倒れた。
「マオ様、さすがです!」
「セバスよ、この者をただちに、警察とやらに届けるぞ」
「承知しました。すぐご用意しますね」
★★★
警察内は、とても慌ただしかった。
「くそっ、まだ見つからんのか!」
刑事の高倉は、焦りを露わにしていた。
すると、大きい段ボールを台車に乗せた、マオがやってくる。
「すまんが、ここに至急の届け物だ」
「あの、どちらの宅急便の方で?」
「わしは、『魔王便』だ。いいか、すぐ中身を確認するのだぞ」
マオはそれだけ言うと、大股で帰っていった。
それと入れ違いに、高倉がやってきた。
「おい、ここに荷物を置いてるのは誰だ!」
「あっ、たった今、魔王便という方が持ってきたんですが……」
「なんだと?」
「すぐ、中身を確認してほしいとのことです」
受付の女性に言われ、高倉は恐る恐る、段ボールを開けた。
「なっ、なんだこれは!」
高倉が驚くのも、無理はなかった。
中には、気を失っているピアス男と、ドライブレコーダーが入っていたのだ。
しかも、ピアス男の首には、『私が強盗犯の主犯です』のプラカードが下げられていた。
「まさか、犯人を届けてくるとはな……『魔王便』とは、一体何者なんだ?」
★★★
配達が終わったマオは、店に戻っていた。
店では、セバスたちがのんびりお茶をしていた。
「あっ、店長さん!」
呆れているマオに気づき、大生が近づいてくる。
「彼を配達してくれて、ありがとうございます!」
「警察内はまだバタついているだろうから、明日でも無実を証明してこい」
「そうですか、わかりました」
「では、お代をいただきましょうか」
「あっ、そうでした。あの……おいくらになるんでしょうか」
「いえ、お金ではなく、そちらのダイナマイトをもらいましょうか」
「えっ、これでいいんですか?!」
「セバスが、それと言っているんだ。納得しろ」
マオは腕組みをしたまま、机に歩いていく。
それに大生は、深々と頭を下げる。
そして、つぐみとリリーに近づいた。
「君たちには、怖い思いをさせてしまったね」
「平気よ。だって、マオちゃんたちが来てくれたんだもの!」
「そうですよ。気にしないでください」
「二人とも、ありがとう……」
そして、大生は店を出ていった。
「ふぅ……なんとか依頼完了じゃな」
「マオ様、お疲れ様です」
「なんじゃ、これで配達は終わりなのか」
「また依頼がありましたら、今度はローズ様と行ってもらいましょうか」
「おぉっ、それはいいな!」
セバスの提案に、ローズは上機嫌である。
「じゃぁ、マオちゃんのお茶、持ってくるわね!」
「あっ、リリーちゃん、私も手伝うよ!」
つぐみとリリーが席を立つと、マオは静かに目で追った。
すると、セバスが耳打ちをしてきた。
「だいぶ賑やかになりましたね」
「まぁ……こういうのも、悪くないな」
とある路地裏には、魔王が働いている店がある。
店の名前は、『魔王便』である。
ここでは、なんでも配達してくれるのだ。
そう、『なんでも』である。
そしてまた、魔王便に配達を依頼するため、客がやってくるのだった。
‐完‐
今回で、魔王便の連載は完結となります。
短い間でしたが、お付き合いいただき、感謝でいっぱいです!
これからは、短編でシリーズとして、マオたちの話を書いていくつもりです。
また機会がありましたら、読んでいただけると幸いです。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!




