19 やってきた男の言い分(前編)
魔界から人間界に戻るため、マオたちは行きで使用したゲートを歩いていた。
「マオよ、ここはなにもなくてつまらんな」
「わがまま言うな」
「そうですよ、ローズ様。もうすぐ着きますから」
「ふんっ」
セバスに注意され、ローズはそっぽを向いた。
やがてゲートの先に、ドアが現れる。
「ほら、ローズ様、着きましたよ」
「ふぅ、意外と長くて退屈だったわい」
「しかし、なんだか外が騒がしいな」
「本当ですね……なにかあったんでしょうか」
マオとセバスは顔を見合わせ、足早に店内に向かった。
すると、だんだんと声は大きくなってくる。
「ちょっとあなた、落ち着きなさいよ!」
「そうですよ、少しお話をしましょう!」
「うっ、うるさい!」
「この声は、つぐみとリリーか?」
「ですがマオ様、野太い男の声も聞こえましたよ」
「一体、店でなにが起きておるのだ」
少し不安がよぎるマオの耳に、とんでもない言葉が聞こえた。
「まっ、待って、火はダメ!」
「火だと!」
「なんだか、物騒ですね……」
マオとセバスが覗き見ると、二人が思った通り、つぐみとリリーが騒いでいた。
しかし、彼女たちだけではなく、中年の男性もいた。
しかも、男性は腹に、たくさんのダイナマイトを巻きつけていた。
そして、手には火をつけたライターを持っている。
「君たちじゃ、ラチがあかない。店長を出せ!」
「だから、今は出かけてるから、いないって言っているでしょ!」
「なら、君たちは人質だ。大人しくしてくれ!」
「それなら、そのダイナマイト、外してくれませんか?」
「それは無理だ」
「じゃぁ、せめてライターはしまってちょうだい!」
「ダメだ。そうすると、君たちすぐ通報するだろ!」
「そりゃしますよ、不審者なんですから!」
「なんだと!」
『不審者』と言われ、ダイナマイト男の怒りは頂点に達した。
「だったら、この店ごと吹き飛ばしてやる!」
「いやーっ!」
「おい、このままでは店がなくなるぞ!」
「なんとか、あの方を刺激しないようにしなくては……」
焦るマオだが、ふと近くにいたローズの姿がないことに気づく。
「セバス、ローズはどこに行った?」
「えっ、さっきまでそこにいらっしゃったんですが……」
「おいおい、なんだか楽しそうなことをしているのぅ」
突然店の方でローズの声が聞こえ、マオたちはゆっくり確認する。
案の定ローズは、ダイナマイト男の前で仁王立ちしていた。
「なっ、なんだ君は……」
「ちょっと、危ないよ。こっちに……」
危険だと感じたつぐみは、引き寄せようと手を伸ばす。
だが、ローズはお構いなしに、ダイナマイト男に問いかけた。
「そなたに聞くが、この店に恨みでもあるのか?」
「いや、それは無いが……」
「なら、吹き飛ばす理由は無いではないか」
ダイナマイト男の発言に、ローズはため息をつく。
そして、勢いよくダイナマイト男を指さした。
「用がないなら、さっさと帰ってもらおうか」
「きっ、急に出てきて偉そうに……」
ダイナマイト男は怒りのあまり、ライターを持った手を震わせる。
すると、大声でわめきだした。
「本当に、やってやるんだからなーっ!」
「ひぃーっ!」
「ローズめ、余計な真似を!」
マオは焦り、つぐみたちの所に駆けつけようと踏み出した。
しかし、それは必要なかった。
なぜなら、ダイナマイト男が火をつける前に、ローズが動いたからだ。
ローズは、素早くライターを蹴り上げ、ダイナマイト男の首に手刀を食らわせる。
食らったダイナマイト男は、気を失い膝から崩れ落ちた。
対するローズは、ドヤ顔で蹴り上げたライターをキャッチした。
「ふんっ、大したことないのぅ」
「すっ、すごい……」
「やるわね、お嬢ちゃん」
「まったく、魔王である我に敵うと思うたか」
「えっ、あなたも魔王なの?」
「そうじゃ。マオたちもそこにおるぞ」
ローズが指さした先には、複雑な表情のマオとセバスがいた。
マオがいてほっとしたつぐみだったが、すぐ頭を振って怒りだした。
「魔王便さん、いたんなら助けてくださいよ!」
「そうよ、危なかったんだから!」
「いや、行こうとしたんだが、そいつに先を越されてな」
つぐみとリリーに責められ、マオは苦い顔をする。
そして、二人のそばにいて、未だドヤ顔のローズを指さした。
「そういえば、この子も魔王って……」
「我が名はローズ。今日から魔王便の一員だ」
「そうなんだ。よろしくね、ローズちゃん」
「なれなれしく呼ぶでない」
ちゃん付けされ、ローズは眉間にしわを寄せる。
「我はそなたよりもだいぶ年上なのだぞ」
「えっ、そうなの?」
「それより、この男どうする」
「一応、縛っとく?」
「いえ、危険物を外して、そのままにしておきましょう」
セバスは、ダイナマイト男に近づき、しゃがんでダイナマイトを外し始めた。




