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15 勝負のクリスマス(前編)

 寒さが増す十二月下旬。今日はクリスマス・イブである。

 だが、ここ『魔王便』は、いつも通り通常営業であった。

 店内では、マオとリリーがのんびりお茶をしていた。

 しかし、いつもそばにいるセバスの姿はなかった。

「今日も暇じゃのぅ」

「そうねぇ。ねぇ、マオちゃん」

「なんじゃい」

「なんで、今日はセバスちゃんいないの?」

「あぁ、確か魔界に、用事があるとか言っていたな」

「用事?」

「詳しくは話さなかったが、すぐ戻るだろう」

 マオは、リリーが用意した湯のみを口に当てる。

「しかし、口うるさい奴がいなくて、のびのびできるわい」

「セバスちゃんが聞いたら、怒りそうよね」

「その時は、ワシの拳で黙らせてやるわ」

「わぁーっ、こわーいっ!」

 リリーはふざけて怖がってみせた。

 しかし、マオは鼻で笑い、お茶を飲み始める。

 すると、勢いよくドアが開いた。

「『魔王便』という、ふざけた名前の店はここかしら!」

 あまりに突然だったため、マオはお茶を吹き出す。

「ごほっ、ごほっ!」

「マオちゃん、大丈夫?!」

 咳きこむマオの背中を、リリーが慌ててさすった。

 落ち着いたマオは、入ってきた人物を睨みつける。

「何事だ、騒がしい……」

「マオ・ウビン、やっと見つけたわよ!」

 入ってきた人物は、白い羽が生えており、頭には黄色の輪っかがあった。

 つまり、天使である。

 天使に指さされたマオは、首を傾げる。

「はて……お主は誰だ?」

「覚えていないの?!」

「ワシは、不要なことは忘れるようにしているからな」

「あんなに戦ったじゃない!」

「うーむ……」

 マオは腕組みをして考えるが、なかなか思いだせないでいる。

 それを見ていたリリーは、ちらっと天使を見てマオに話しかける。

「マオちゃん、本当に覚えていないの?」

「うむ、どうしても思いだせん」

「私よ、天使のレイチェルよ!」

「あっ、思いだしたわい」

「本当!」

「ワシに変な勝負ばかりしてきた、変わり者の天使だな」

「変わり者は余計よ!」

「」へぇー、そんな人いたんだ

「いつもワシにちょっかい出してきてな、うっとうしかったわい」

「そこまで言わなくていいでしょ!?」

「ということは、マオちゃんのお友達ってことね」

「……なぜ、そうなる?」

「そうよ、こんな魔王と友達なんて……」

 レイチェルは、慌てて手を振り、否定する。

 それにマオはムッとしたが、咳払いをして問いかけた。

「それで、その天使がなんの用じゃ」

「あなたが店を始めたと聞いたからやってきたのよ」

「おぉっ、もうそんなに広まっておるのか!」

「マオちゃん、うれしそう!」

 リリーにそう言われ、マオは必死ににやける顔を我慢した。

 だが、次のレイチェルの言葉に、顔を引きつらせる。

「でも、変な名前よね。『魔王便』って」

「なんだと?」

「あたしは、わかりやすくていいと思うけど」

 マオは怒ろうとしたが、笑顔のリリーを見て、それを抑える。

「うむ、ワシもけっこう気に入っておるぞ」

「まぁ、それはおいといて」

「おいとくんかい!」

「今から勝負よ、マオ!」

 マオを指さしたレイチェルは、とてもいきいきしていた。

 しかし、言われたマオは、嫌な顔をしてため息をついた。

「ワシはせんぞ、今は忙しいのだから」

「その割には、お客がいないじゃない」

「うっ、それは……」

 図星をつかれたマオは、目を泳がせる。

 それを見逃さなかったレイチェルは、近づいて机に手を置く。

「それに、暇だって言っていたじゃない」

「……地獄耳め」

「それで、勝負の内容なんだけど……」

「おい、勝手に話を進めるでないわ!」

 反論するマオを無視して、レイチェルは外を指さした。

「今日はクリスマス・イブで、男女がいちゃいちゃしたりするじゃない」

「まぁ、否定はせんが、天使がそれを言っていいものなのか?」

「問題ないわ」

「すごい自信だわね」

 レイチェルがウインクすると、リリーは呆れてお茶を飲んだ。

「その中の男女を、見事カップル成立できた方が勝ちでどう?」

「別に構わんが……」

「それと、場所はぁ……」

 いたずらっぽく笑うレイチェルに、マオは首を傾げる。

 そして、レイチェルがテレビをつけると、『トロピカルアイランド』という遊園地の特集が流れていた。

「この『トロピカルアイランド』が、勝負の場よ!」

「また、賑やかな場所を選んだのぅ」

「じゃぁ、私は先に行っているからねーっ!」

 そう言うと、レイチェルはまた勢いよく外に出ていった。

「本当、騒がしい人だったわね」

「うーむ……しかし、困ったことになったわい」

「どうして?」

「天使のレイチェルといえば、恋のキューピットという肩書きがあったような、なかったような……」

「それって、大丈夫なの?」

「うむ、まぁただの遊びだから大丈夫じゃろう」

「あっ、言い忘れていたけど」

 二人が話していると、レイチェルが少しドアを開けて顔を覗かせる。

「私が勝ったら、この店もらうわね」

 そして手を振り、静かにドアを閉めた。

 言われたマオは、ずっと固まったままである。

「こっ、これは、まずいことになった……」

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