プロローグ 女性の好意は案外こっちの思い込み
「あなたを暗殺します」
黒髪のロり美少女が告げる。
闇討ちだ。
幼女体形、大体8歳くらいの子供の第一声にしては物騒すぎないか。この世界は狂っている。こんな子供でさえ暗殺の手段にしてしまうなんて嘆かわしい。
「もっとかわいく言いなさい。カプリル」
カプリルは俺の愛弟子だ。こいつは見た目こそ幼女だが、中身はとびっきりのサディスト。実年齢は俺と同じか。それ以上。ある日突然、暗殺ギルドに来た。奴隷上がりだとか、何とか。初対面で年齢を訊いて殺されかけたことをよく覚えている。見た目が幼いのは種族がハーフのハーフリングだからだ。種族差だね。五年は一緒にいるが、その間一切外見に変化が無かった。
「残念ですが、フィオ。ギルドに反逆したあなたに命はありません」
「いつも教えていただろう。暗殺対象が男の時は色仕掛けからだって」
上目遣いで「お兄ちゃん。私、心細いな」だろ!
こいつはいったい俺から何を学んでいたのやら。いきなり抱き着いて「死んで、お兄ちゃん」なんて言われてみろ。俺なら疑問も持たずに死んだぞ。
「死ね。ロリコン」
冷酷な黒髪ロリ。目線が痛いです。見ないで! お兄ちゃんをそんな目で見ないで!
「フィオ、あなたは完全に包囲されています」
気配的に五、いや、六人。かなりの手練れだな。魔法使いが二人。暗器使いが四人。カプリルは陽動、兼退路封鎖。カプリルは堅いからな。突破するのは困難だろう。最適の配置だな。俺の教えた通りだ。基本に忠実。セオリー通り。
「俺を連れ帰って、拷問でもするのかな」
この人数が少しめんどくさい。会話は出来てる。適当にタイミングを探りつつ、煙幕の準備をしよう。
「いいえ、この場で殺します。それがギルドの意向です」
黒髪がいつもよりも冷たい。
「拷問か。人間は八歳の女の子に貶されるのが一番苦痛らしいぜ。なあ、隠れてるやつもそう思うだろ」
俺が教えた戦術だ。だけど、君たちは理解していない。人間はいつも真実を教えているとは限らないことを。自分の戦術には自分だけが知ってる抜け道を作る。これだけはカプリルにも教えてなかったな。
適当な戦術を部下に教え込んだって? いいや、そんなのすぐにボロがでる。この配置は文字通り完璧だ。逃げ場なんてない。アリの一匹だって逃げられない。アリ地獄。
だが、完璧な戦術は陳腐な間隙を生む。
「カプリル。お前は俺のことが好きなのかと思っていたんだが」
「ロリコンは嫌いです」
「酷いな。俺の勘違いかよ。誕生日にカーネーションの花束くれたじゃないか。あれの花言葉『あなたを愛します』だろ。結構調べたんだよ」
「あれはラウリルが勝手に準備したものです」
ラウリル。簡単に言えば俺のストーカー。
弟子ではあるが、何というか。愛が重い!
そうか、あの花はラウリルが。てっきり弟子に好かれる良い師匠だと錯覚していた。
「ラウリルは助けには来てくれないのか?」
ラウリルもカプリル同様、相当な手練れ。二対六なら勝ち目はなくとも逃げ道くらいは作れそうだ。
「あの子は既に拘束しておりますので、助けには来ませんよ。残念でしたね」
「妥当な判断だね」
だいぶ時間も稼いだ。
そろそろ頃合いかな。
言っておくが、俺の戦術は完璧だ。一度術中に嵌まったら絶対に抜け出す隙は無い。ゆえに油断する。その包囲網に誘い込んだ時点で勝っているのだから、無理もない。みんな分かったかな。これが落とし穴。
「カプリル。これは俺の作った戦術だ。有用さは君が一番知っているね」
「勿論。この布陣で失敗したことはありません」
自慢気なカプリル。
かわいいよね。彼女は勝ちを確信するとこの顔をするんだよ。
ちょっとふざけてみよう。
「カプリルお姉ちゃん。見逃してくれない?」
俺は必死に上目遣いで懇願する。
「殺せ」
さすがは根からのサディスト。こんなにかわいくお願いしてるのに、ひどいだろ。それにしてもいい顔してる。ここまで歪んだ笑みが美しい人はいないんじゃないか。
俺は煙幕を焚くが、それも遅い。暗器。閃光。一瞬にして体が刃物まみれだ。
いいところを狙うね。即死だよ。
崩れ行く体の角度でカプリルのロリパンツが見える。
シマパンかな? それともくまさん?
黒のレース。
――――は?
「お前は、縞パン、だ、ろ……」
瞬間、俺の体がゴム風船のように爆散した。
「は?」
最後に拍子抜けしたカプリルの顔がおもしろくて仕方ない。
まだまだだな、弟子よ。
勝ちを確信した時ほど気を引き締めろって何度教えたことか。
「ふふふ、はは、はっはっはっは!」
馬車の荷台で笑い転げる。
あれはダミーだ。魔力風船だ。言っただろう。完璧だと油断するって。そもそもお前たちは俺を捕まえれて無いのさ。会話は俺が馬車で逃げる時間を確保するためのものさ。
この辺りは行商の馬車が多い。馬車の一つに隠れてしまったら、追いようがない。もう、俺を捕まえることはできない。
俺の勝ちだ。
向かうは迷宮都市ゴリアテ。
この都市は凄い。迷宮目当てで世界中から冒険者が集まる大都市だ。ならず者の町だ。当然、娯楽もそれなりにある。飲み屋からエッチなお店までなんだってそろっている。ここはいわば巨大なテーマパーク。ダンジョンで日銭を稼いで夜の街に繰り出す。男の夢が詰まった夢の王国だ!
堅っ苦しい暗殺ギルドを追放されて、これからは自由の生活だ!
「おっちゃん! いきなり荷台に飛び乗って悪かったな。金なら払うからさ」
今日の俺は気前がいい。
銀貨一枚でも渡してやろうか。一か月は食っていける金額だ。
「いいえ、いりませんよ。先生」
馬車の馭者からなぜか知っている声が聞こえた。
「マジか!」
完全に油断した。
「先生がどこに行っても私、必ずお供しますって言ったじゃないですか」
全身に悪寒が走る。
「ラウリル。お前、カプリルに拘束されてたはずだろ!」
月明かりに照らされて銀色の髪がたなびいて、淫魔とのハーフの印である悪魔の角が見え隠れしている。
「だって、先生が私の元から離れて、変な女の匂いが付いたら嫌じゃないですか。想像しただけで私、気絶しそうです」
ラウリル。俺のストーカー。
たまたま通りすがった馬車の荷台に飛び乗ったはずだ。
意味が分からない。
「先生。昔、私にだけ教えてくれたじゃないですか。『完璧な戦術は陳腐な間隙を生む』って。お忘れですか? ひどいです。私はこんなにも鮮明に覚えているというのに」
「マジかよ」
こりゃあ、一本取られたな。
カプリルの完璧な作戦を完全に破った俺にも油断があったということだ。
でも、俺は拘束されたわけじゃない。
今すぐにだって抜け出せる!
「フィオ先生。言い忘れていましたが荷台にはで魔法障壁が張ってありますのでお気をつけてください。うかつに触れると死にますよ。死体になった先生も私は大好きですけれど」
「マジですか。ラウリルさん」
ラウリルならやりかねない。
愛が重い!
「先生と二人っきり、ドキドキしてしまいますね。私、はじめは男の子がいいですね」
もうそんな話まで!
「ラウリルさん。大人の階段を二段飛びで駆けあがらないでください。まずは手をつなぐとか。その辺から――」
「十五人は欲しいですね。ランデブーですよ。せんせ」
聞いてない!
フリーダム生活初日にして、監禁生活が始まりそうです。
マジでどうしよう。
基本毎日投稿頑張ります!
毎日12時10頃に投稿!
本当にブックマークが欲しいです!
「お兄ちゃん。お姉ちゃん。ブックマークを恵んでください!」
まじで一年くらい寿命が延びる気がします。