<第一章 Slothの種> 第1部 家族の団欒5話
未確認生命体ってワクワクしますよね
エイビスの森に切羽詰まった声が響く。
「我求めん・小さき祈りに・涙の喝采を<ウラ・アクア>!っはぁはぁ、なんでこんな事になってしまったのかねぇ…この時間帯だとモンスターはそこまで出ないはず、だと聞いていたんだがなぁ」
ウーゴは、ファーボ王国から少し離れた森でモンスターと対峙していた。彼が家を出たのは、太陽が天に昇った頃。そしてこのエイビスの森に着いたのは一刻が少し経った頃である。この森は、下級モンスターが夜になるとほんの少し現れる程度の危険度で、ウーゴの能力であっても窮地に陥ることは殆ど無い。ただ、今日、この日だけを除けば。
「全く。嫌になるね、こういった鳥型のモンスターってやつは」
ーキキキキッ キキキキッー
エイビスの森に生息しているグリーンバードの甲高い鳴き声が、ウーゴの耳に届く。空を飛ぶモンスターに対して彼の持つ二つの短剣はまるで役に立たない。なのでウーゴは最下級水魔法を放ち、地面に落ちたモンスターにとどめを刺す。この繰り返しが数回にも及んでいる。
「今は冬の月だろッ!?繁殖期でもないのになんでこんなに昂ってやがる!?」
グリーンバードは本来大人しいモンスターである。繫殖期である夏の月が来たとしても今起こっているような昂りは見せない。だが、現に今見せている。まるでおぞましいナニカに対し怯えるように。そして、気がささくれだっているグリーンバードのもとにウーゴが現れ、八つ当たり気味になったモンスターとの戦闘が始まり、結果がこの惨状である。
「っすぅ。こっちまで苛立っちゃあ奴らと同じか…殺されてしまえば意味もくそも無いしな。早い処森の外に出るか…ッ我求めん・小さき祈りに・涙の喝采を<ウラ・アクア>!」
魔法に当てられ落ちたグリーンバードを無視して、ウーゴはこの場を離れる。元々体力がないことに加わり、最下級とは言え魔法を何発も発動している。呼吸は乱れ、下あごが痛みを訴え、眩暈まで起きてしまっているウーゴ。
(少しでも休憩できる場所があればいいんだがなぁ)
このままでは森の外までたどり着くことが出来ない、と諦めてしまったウーゴは周りに目をやり休み場を探した。そして、見つけてしまった
「おぉ!この大きな木のウロの中なら少しはやり過ごせそうじゃあないか!俺はツイてる。今なら神様とやらに祈りを捧げてもいいくらいだ」
…偶然見つけ、ウロに入ったウーゴの耳に妙な音が聞こえる。
「■■■、■■■■!」
「ん?なんだ?あぁ、もしかして先客でもいたのか?安心してくれ、ただ少し休みたいだけなんだ」
「ウー■、■■ゴよ!■の■しい■■よ!」
その音がウーゴの耳に届いた瞬間、寒気が走った。何を発しているのかまるで分らないが関わってはいけない。それだけの畏怖を本能的に感じたウーゴはゆっくりと後退った。そして見つけてしまう。
「偉く面倒な事に巻き込まれそうじゃあないか。あぁ?なんだこの妙な蝸牛は」
今すぐこの場から離れたい。その考えは上書きされてしまう。この場に留まりソレを見ろ、という思惑に誘導されたウーゴは緑色のした蝸牛をしっかりと視界に入れてしまう。そして⋯
「あぁ、美味しそうだな。そういえば腹が空いていたことを忘れてしまっていたな。やはり俺はツイている!空腹時にこんなにも美味しそうな食料があるだなんて!!」
緑色の蝸牛に手を伸ばしゆっくりと口に運ぶ。ほんのりと甘い味に舌鼓をうつウーゴ。何故そこに蝸牛がいるのか、何故緑色なのか、何故美味しそうに見えたのか、等といった疑問は一切上がらずソレを嚥下してしまった。
「ッ!なんで俺は気色の悪いアレを食べた!?どうして!ッあぁクソッタレ、回復する所か気分が悪く⋯なって⋯?」
胃袋に収まった瞬間ウーゴは目が覚め、驚愕した。
遂にウーゴと出会うことが出来たソレは彼の全身を素早く、そして隈無く巡る。土壌は完璧だ。後は芽吹くだけ。
「?ん、体力が戻っ⋯た?いや、そんな事より今は家に帰ろう。早く惰眠を貪りたい」
ソレは彼の求めるものを与えてくれる。疲れているのであればそれを感じさせなければ良い。
そんな異物の思惑など勿論ウーゴには伝わる訳もなく、無事に帰宅することだけを考え始めた。周りの草木が枯れ、グリーンバードは現れない。それに気が付かないままウロを出て森の外へ向かうウーゴであった。
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「あぁ、やっぱり。ウーゴ、君ってやつは最高だよ。早く私を咲かせてはくれないだろうか」
種は歓喜に震える。その瞬間を今か今かと待ちわびながら。
エイビスの森
・ファーボ王国の少し西にある 下級モンスターや薬草などが生息している
グリーンバード
・体長10㎝ほどの鳥型モンスター 風魔法に強く、火魔法に弱い