<第一章 Slothの種> 第1部 家族の団欒3話
主人公が主人公するのはまだまだ先です。長い!
ウーゴ達が住む国はファーボ王国と言い、主に魔法に関して力を注いでいる。基本的には魔法使いの雛を育てる事に重きを置いているが、それだけでなく文官の雛も育てており、国内の教育機関として最高峰の国立学園が存在している。
フォーゴ王国では6歳になるとアーズ教会が管理している礼拝堂で<恩恵>ステイタスを授かり、14歳になると6年制の学校に通う事が通例となっている。
(何故、何故寄りにもよってこのタイミングでその話を持ち出すのか…)
「受験の結果ですが…合格はしました」
「?随分と歯切れが悪いな?合格したのだろ、喜ばしいことではないか!」
「そうですわウーゴ兄様!何故悪いことがバレた子のような顔をなさるのですか?」
ファーボ国立学園に入るには狭き門であり合格する事自体とても誇らしい事である。普通であれば満面の笑みを浮かべる所だが、悲しいかなウーゴの性格ではそのような無邪気さを発揮出来ない。出来の良い弟達という存在により合格した事よりも、クラス分けされた結果を報告するのが居た堪れないのだ。
「勿論合格出来たことは嬉しく思います、父上。しかし…その…クラス分けについてなのですが」
「クラス分け?国立学園には身分による差別はないと聞きましたが、あるんですか?ウーゴお兄様?」
「ダビデよ、俺が通うところには確かに差別は無い。ただ…入試の座学や実技結果よって受けられる授業が変わるんだよ」
国立学園のクラス分けは上から順にA.B.C.D.Eと5段階に別れている。Aは特級クラスで王宮に仕えるようにカリキュラムが組まれており、本人の素質に合わせ魔法専門、武術専門、文官専門のコースが設けられている。
Bは無事卒業出来れば就職にはまず困らないだろう。Cは殆どの生徒が振り分けられる言わば平均的なクラスだ。D.Eは卒業する事がかなり困難であり、卒業出来たとしても働き先を見つけるのも困難だ。
ただD.Eクラスを卒業した生徒は実家に戻り家督を継ぐのが殆どであるため悲観するものでもない。
「父上、自分は1-Cに振り分けられました」
(こんな屈辱を味わうだなんて!!わざわざ皆の前で、それも祝いの席で自分は落ちこぼれですと言っているようなものではないか!)
ウーゴの考えは全くの思い違いであり、合格しただけで褒められるもの。ましてや合格者の殆どがCに振り分けられるのだから特段恥じる必要性など全くもって皆無である。
事実
「ウーゴよ、何故苦虫を噛み潰したよう顔をする?これがDやEならば多少考えせねばならんがCであるならば良いことでは無いか!お前は昔から自己肯定感が低いというか、責任感が強いというか...ともかくその考え方はあまりに喜ばしいことでは無いぞ。素直に喜ぼうでは無いか!それにお前もまだまだ成長期だ、学年が上がるにつれ才能が開花するだろうさ!」
あぁアールバーロはなんと出来た父親なのだろう。風貌こそ厳格で威圧感を覚えさせるが子供思いな優れた親だ。欠点は指摘し、しかしそれを追求せず正の感情を持つことをウーゴに促しているではないか。しかしこの一連の会話でウーゴの性格はより捻じ曲がってしまう。
(Cで良い?平均で満足?長男である俺が弟達に今現在で劣っている事に言及しないのは鼻から期待していないからか?あぁそうだ最後の言葉。それはつまりお前は今のままだと出来損ないだと言っているようなものではないか)
「父上の言う通りですね。少し気が楽になりました」
夕食に出されているエスカルゴを口にし、思ってもいない言葉を吐くウーゴ。傍から観れば矛盾に満ち、率直に言えばなんとも面倒臭い性格だ。自己肯定感が低く被害妄想が強いだけでなく、変な所でプライドが出てきてしまう。そんな自分を自覚し、嫌悪感を抱いたウーゴは
「父上、母上。申し訳ありませんが気分が優れないので自室に戻ってもいいでしょうか?」
「あぁそういえば夕食に遅れたのも気分が優れないからだったか。構わないさ、ゆっくりと休みなさい」
「ウーゴ、春の月が近づいているとはいえまだ寒いから暖かくするのよ?」
「ウーゴ兄様…」
両親の優しい言葉と双子の妹であるルナの心配した眼差しに心を僅かばかり痛めながら
「えぇ、それではお先に失礼します。ご馳走様でした。お休みなさい」
ウーゴは食堂を後にした。冬の月に当てられ白い息を吐き呟く
「そういえばこの季節に蝸牛だなんて珍しいものだなぁ」
重たい雨が纏わり着くように降っていた。
ファーボ王国
・人口40万以上 世界の大陸東中央にある 魔法使い>文官>軍人の順に育成の力をいれている
アーズ教
・多神教 人々は神様たちに見られているので自らを律しないといけない、という教え
ファーボ国立学園
・国が資金提供している Aクラスから順に30、60、120、100、90名の定員