<第一章 Slothの種> 第1部 家族の団欒15話 兄
主人公が頑張ってる!?
四体で形成されているゴブリンの群れをじっくりと観察するウーゴ。真正面から向かうのは愚の骨頂。油断しているか、一番弱そうな個体を探す。慣れない緊張感に汗がにじむ。どのゴブリンからにするか、いつ仕掛けるか考えるウーゴを感じているソレはじれったく思い
(せっかくの機会なんだ。私を使って欲しいなぁ。なぁに簡単だよ、もう君は使えるだろう?)
怪しい助言がウーゴを唆す。早く、早く堕ちて欲しいと言わんばかりに。
「あぁどうしようもない位に面倒くさい。いっそのこと纏めて倒してしまえれば楽なのになぁ」
先程まで持っていた昂りはなりを潜めてしまった。
(纏めて、だなんて今の君ならできる。さぁ!昏くて歪んだ感情を解き放つ時が来たよ!)
「我求めん・極上の祈りを彼のもとへ・望むべきは平等を・天から地へとの失墜を・人々の原典その一つを今ここに<ファティーグ・チルクム>」
知らないはずの詠唱を無意識に唱えるウーゴ。魔法の発動と共にウーゴの体は疲れを訴え始め、ゴブリン達に異変が起こった。
「あぁ怠い。集中でもしすぎたか…ん?あいつら、動きが鈍くなったような…」
ゴブリン達は苦し気に息を荒げ、足を引きずり始めた。その様子を見たウーゴは
「よく分からんが今なら倒せそうだ。我求めん・小さき祈りに・涙の喝采を<ウラ・アクア>!」
絶好の機会だと思い水魔法ウラ・アクアを四つ発動させゴブリン達の顔にぶつける。彼を襲った謎の疲労が少し邪魔をするが今ならいける、という思いが背中を押した。はぐれの時に魔法だけでは仕留めきれない事を知ったのですかさず追撃をかける。
「悪いがお仲間を呼ぶ時間なんて与えてやらんよ!」
水の弾で溺れかけている間一体ずつに勢いの乗った短剣をゴブリンの胸に突き立てては抜き、次を狙っていった。はぐれとの戦闘経験のおかげで今回は叫び声を上げさせる事無く群れを倒せたウーゴ。倒れている四体のゴブリンを見つめ息を吐く。
「俺でも倒せた…。しかも無傷でだなんて!」
確かな達成感を得て浸る彼。それを感じたソレは満足げに微笑み
(言っただろう!?君ならできるんだよ!あぁその調子で私を使い喜ばせてくれよ!)
もっと自身を使って欲しいと懇願する。そうとは知らないウーゴは余韻に浸る。
「なんて心地いい解放感なんだ。森に来たかいがあったなぁ。」
目的の気分転換を果たせたウーゴ。大きく息を吸って森の清涼感溢れる空気を味わう。
「疲れたしもう帰ってもいいが、あと少しだけ。そう少しだけ森にいよう」
彼は自身が放った謎の魔法に気づかない。そして一度得た達成感をもう一度味わうべく森の奥へ進むことを決意した。
「一休憩したら先にでもいくか。今の俺なら問題ないだろうさ」
ウーゴは木の根元に腰を掛け水分補給をとり、自信に満ち溢れた顔を浮かべていた。
一度使えば抜け出せない。楽を覚えてはいけない。