<第一章 Slothの種> 第1部 家族の団欒12話
投稿時間はいつが最適なのか分からない...
ルナを部屋から追い出したウーゴの頭は困惑で埋め尽くされていた。礼儀正しい妹の狂乱した姿を目の当たりにしたのだ、無理もない。
「一体ルナに何が起きてるってんだ...。風邪が原因、とはとても考えられない...。それにあの目...」
ルナを拒絶した際に向けられた、あの虚ろで悲しげな瞳を思い出す。その虚ろな瞳を思い出したウーゴは、妹が誰かに操られているのでは無いかと疑いをかける。
「洗脳されていた?いやしかし、誰が一体何の目的があってルナを洗脳する?」
わざわさ妹を操り、自分と関係を持たせる利点が見つからない。妹を狙った犯行なのか、それとも自分が狙われているのか、それすら分からない。困惑の輪から抜け出せないでいるウーゴ。
「実は本当に恋心を抱いていた...?許されない事だと理解し、我慢してきたが今になって爆発...?ッハ!そんな事有り得るはずがない!」
禁断の恋に堕ちた可能性が一度浮上し、それを否定する。
洗脳でもなく、恋の暴走でもない。妹の行動原理が一つも理解できず、思わず唸り声を上げてしまう。そんな時に妙な声が彼を唆す。
(さっきも言っただろぉ君?人間の女なんてあんなものさ!考えるだけ無駄だよ!)
いつもの彼であればソレの声に驚き、「お前は誰だ」と問いただしていただろう。しかし今の彼にはそんな余裕は無く、ソレの言葉はすんなりとウーゴの心に入り込む。
「あぁ確かに.....。はぁ。考えるだけ時間と体力の無駄でしかないな。女の本性は訳が分からない、分かったのはこの事だけだな」
彼の本質に、少しだけ溶け込んだソレ。土壌は元より完璧。後は栄養のある水を注げば直に芽吹くだろう。今回の一件はきっかけの一つにしか過ぎない。きっかけを何度も造り、与え、あと少しで準備が終わる。
「ともあれ、今度ルナに会った時は普通に接してやらないとなぁ。蒸し返す必要もないし、無視する必要もないからなぁ。...全く面倒な事に巻き込まれたものだ...」
兄として、気まずい空気を出さないように、と心がけるウーゴ。そして最後に彼らしい本音が漏れ出る。
「あぁ、そういやぁ明日は俺とルナの誕生日か...。なんともまぁ間の悪い事この上ない...」
明日の夕食は彼等が十四歳になる祝いの席でもある。去年までであればほんの少し面倒だと感じるだけだが、今回は事情が事情だ。もし仮に、彼が健全な精神を持っていたとしても、晴れやかな気持ちで祝いを受け取る事は出来ないだろう。僅かに不満が溜まる。
「あ゛ぁ゛面倒臭い。...そうだ...明日は気分転換としてエイビスの森にでも行くとしよう。モンスターを数匹倒せばこの気持ちも少しは晴れるだろうしな」
明日の予定を決めたウーゴは、夕食までの時間を潰すためベッドで横になり、瞼を閉じた。
不気味なソレは少しずつ、栄養を蓄える。
二人の誕生日。幸せな一日になるはずだっただろう。