<第一章 Slothの種> 第1部 家族の団欒10話
情けない。しかしその情けなさに愛おしさを覚える変わり者が居る事を認識しなければいけない。
ウーゴは用事を済ませる為、屋敷を出る。彼の目的地は王都グロリアにある仕立て屋だ。
王都グロリアは北側を頂点とした正方形の造りをしており、最北端に王宮が建てられている。そして、そこから半円を描く様に南下して区画分けされている。
上級貴族達が住むアートス区。下級貴族達が住むレニス区。(ウーゴの父は下級貴族であるため、彼らが住んでいるのはこのレニス区だ。)更に南下して、商売が盛んなポーナ区が中央に存在している。そして、この都市の人口六割近くを占める平民達のローワ区がある。
今回向かう仕立て屋があるのはポーナ区である。
(ポーナ区はなぁ…目眩が起きるほどに人が多すぎるからあまり好きではないんだがなぁ。それに加え商人や客の声が騒々しくて堪らない。まぁそれだけこの都市が栄えてい証か)
ウーゴは湧き上がる負の感情を抑え込み、重たい足取りで仕立て屋へと歩み始める。屋敷から店までの距離はさほど無いため、数分で着く。
(貴族御用達にしては煌びやかさや華やかさが無いのは店主の趣味か。アンティークな雰囲気は見ているだけで心地いいなぁ)
若干無礼な考えを持ちつつ看板に書かれている「仕立て屋 ノーリス」を見て緊張するウーゴ。その緊張を少しでもほぐそうと深呼吸をした。
-ッスーハー (入らないと始まらないな…さっさと制服を受け取って帰ろう!)
-コンッコンッコンッ キィー
「お邪魔します。ファーボ王国学園の制服を受け取りに来たウーゴ=ディリジェントです」
余所行きの顔を被り入店するウーゴに答えたのは店主のアルマ婦人であった。
「いらっしゃい。ディリジェント子爵の制服ね、今用意するから少しだけ待っていてね」
顔を綻ばせながら裏へと行くアルマ婦人。ウーゴは、彼女の言う通りに待っていると数分も掛からず戻って来た事に少し驚いた。
「持ってきたわよ。これで間違いないかしら?」
「はい、間違いありません。制服を縫って頂きありがとうございます」
(品を探し終える時間が短すぎるだろ…いや?出来上がり、置いている制服が残り少ないだけか?まぁ早いのはとても助かるな)
「気にしないでちょうだい。貴族御用達だなんて言われてるけど、私はただ裁縫が好きなだけなんだから。学園生活応援してるわ!」
「...ありがとうございます、アルマ婦人。制服も受け取りましたので自分は失礼します」
「えぇ、それじゃあねぇ」
仕立て屋ノーリスを出たウーゴは相変わらずの捻くれた性格でものを考える。
(裁縫が好きなだけ?それだけで貴族御用達になんてなれる訳が無いだろう。あぁ嫌だ。俺は何故何にでも難癖を付けるようになったのか...)
疑念、嫉妬、反省に自己嫌悪。相も変わらず負の感情が彼を襲う。そのことにウーゴは、<自分を構成しているのが負の感情>では無く、<負の感情が依代として自分が選びこんな事になっている>と勘違いをおかしそうになる。
(はぁ…グダグダ考えても仕方がないか。用は済ませたしさっさと帰ろう)
制服を受け取る、という簡単なお使いに疲れ果てた情けない彼は溜め息を吐きながら屋敷へと向かった。
アートス区
・公爵、侯爵、伯爵の位が住んでいる
レニス区
・子爵、男爵の位が住んでいる
ポーナ区
・王都の経済はほとんどがこの区で動く
ローワ区
・貧富の差がそこそこあり、王都の壁面に近づくほど治安が悪い