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こわいおはなし

作者: 花織
掲載日:2023/04/18

「……それでさあ、[後ろを見ろ]って書いてあんのよ。怖いじゃん普通に。だから何としてでも振り向かねぇ!って思ってそのまま家から出て……って、ああっ!もうクソ駄作確定だわ。脱線しすぎ。やる気なくなった。帰る。」

「まあまあ、時間限られてる訳でもないしゆっくり考えよ?」

「そうそう!今までも沢山書いてきたんだからそのうち書けるって!気分転換でもしよ?」



私たちはオカルト同好会。

オカルト同好会とは言っても怪奇現象などを研究するのではなく怖い話を書くのが目的だ。何故かって言うと元文芸サークルだからという事だろう。詳しい話は私にもわからん。

今も怖い話を練っている訳で、これで何日経ったんだろって考えたら頭が痛くなってくる。てか他の部員のやつらはいつも全然書かないし私が書いたのを読んだりしながらみんなでティータイムしてるだけだからな。私を励ます前にお前らが書け。


「みんな君には期待してるんだからね?最初に書いた怪談の時点で才能があるって思ったもん。」

「いやそんな才能ないですよ。たまたま浮かんだだけで、そんな期待されても……。」

「まあまあ、次の怪談コンクールに向けてみんなも知恵を出し合おうとしてくれてるし一緒に頑張ろ?」


そう言いながら私の手を握る部長。

いや新入りにそんな重要なこと任せんな。お前が書け。と言いたいところだけれど小心者の私は一切口に出さずただただ低姿勢を貫く。これが私の処世術なのだから仕方ない。

そして家に帰ってまた話を考える。


メモ帳にすらすらと話を書いていく。


[会社員のAさんはストーカー被害に悩んでいた。毎日毎日同じところで追いかけられてる気がするのだ。ちょうどその通りには監視カメラもあるし動いてくれないかなと思って勇気を出して警察に行くことにした。警察も調査してくれると言ってくれて少し安心していた。それでも毎日やっぱり追いかけられてる気がするのだ。とうとう堪忍袋の緒が切れたAさんは思いきって着いてこないでと言おうとしたのだが振り返るとそこには誰もいなかった。Aさんは怖くなり急いで帰った。後日警察から聞いた話では防犯カメラに映っていたのは首から下がない幽霊だったとか。]


まあこんなもんでいいでしょ。と適当なところで切りあげる。ありきたりでも面白ければいい。私はそう思ってる。文句があるならお前らが書け。まあ文句を言われたことは無いが。毎回賞賛してこられるのもそれはそれで気味が悪い。とりあえず次持っていく話は書けた訳だし今日は大学の課題だけ済ませたら風呂に入って寝よう。

貧乏学生だから幽霊でも出そうなアパートに住んでいるが出たことは無い。いっそ出てくれれば怪談の題材にしてやるのにといつも思ってるのだが。待っている時には来ないものだとかよく言うけどそういう事なのかただ単にボロいだけでそういった類のものとは縁がないのか。ああ、また怪談のことばかり考えてしまう。メインは勉強なのだとちゃんと自覚しなきゃ。あとバイトも。ただ怪談コンクールでいい賞を取れたらそれなりのお金が入ってくる。だからある程度は気にしてしまうのだ。貧乏学生の性といったところか。もちろんみんなには言わないが。純粋に怪談が好きな人が集まったサークルだからそれに水を差すのも野暮だろう。

色んなことをしていると本当に一日が早い。いっそ一日が30時間くらいあればいいのにといつも思う。テキパキと家事と課題を済ませてももう寝る時間だ。最近趣味楽しめてないなと思いながらも床に就く。せめて夢でいい題材を見させてくれ。おやすみなさい。


その日見た夢はなかなかの悪夢でこれ題材に使えるんじゃないかなんて考えながら目が覚めた。

忘れないようにメモ帳にあらすじを書いていく。この作業も慣れたもので一年目にしては頑張ってるほうじゃないかなんて自分でも思う。

そして支度をして家を出る。今日は休日だからバイトだ。バイト中にまで別のことを考えている余裕は無いので頭を切りかえて仕事モードにする。徒歩5分程度のところにあるコンビニ、それが私の職場だ。田舎から出てきて都会ってこんな時給高いんだと驚いた記憶がある。そこで夕方まで働いたあとは家に帰って自習をする。それがルーティンになっている。オカルト同好会の活動だけで食っていけるわけも卒業できるわけもないので仕方ない。一応理系だから非科学的なことは信じていないのだがなんか面白そうと思って入ったオカルト同好会。実際に入ってみたら調べるとかじゃなくて作る側かよ!って驚いたりもしたのが懐かしい。そこで何作も作らされて今に至るというわけだ。

そういえば、と朝書いたメモを見る。


[私は髪が短いのだけど毎朝起きると枕元に長い髪が落ちていることがよくあるのだ。最初はどこかで付いた知り合いの髪か何かだと思っていたのだがよくよく考えるとおかしいのだ。いつもいつも同じ場所に何本も落ちているなんてことあるわけないのにそれが現実に起きている。そういえば最近よくうなされるのだ。貞子みたいな長髪の女が寝ている私を覗き込んでいる夢。

もしかしてそれと関係があるのだろうかと大家さんに事故物件じゃないかと聞いてみたがそんなことはないの一点張りで取り合って貰えなかった。段々不気味になってきたところで私は念の為に監視カメラを設置して寝ることにした。もしかしたら幽霊が映るかもしれないと思って。

そして朝確認してみたところ私が寝た後に窓から長髪の女が入ってきてじっと私のことを見ていたのだ。そして私が起きる前にクローゼットに隠れてそのまま私が起きて録画を停止していた。

私は怖くなって急いで外に出ていこうとしたものの何故か開かないのだ。そうして焦る私の肩を誰かが叩いた。]


うーん、どうだろうか。そもそもそれ誰が伝えたんだよってなるか、それとも気にしないで怖がってもらえるか。分からないがとりあえず前に書いたものと合わせて2つ持っていこう。1つくらいは良いと言ってもらえれば十分だ。

明日は同好会の活動日でもある。放課後がちょっと気がかりだ。別の話上手い人が入部してくれれば解放されるのだがそれは来年以降の話になるだろうし半ば諦めている。ともかく文句があるならお前らが書けで済む話だ。よし、腹は括った。部室に行こう。


「お!待ってたよー!」

「ねえねえ、良いのできた?どう?どう?」


やかましい。そんなに寄ってたかってお前らは犬かなんかか。私はとりあえず2作品をみんなに見せる。一人一人回し読みしていく時間は静寂に包まれていてなんだか落ち着かない。そして部長まで読み終わったあと堰を切ったように口々に感想が飛び出した。


「どっちも良かったよー!」

「幽霊も怖いけど人も怖いって感じでいいね!」

「私は2つ目の方が好きかなー。」

「まあまあ、とりあえず短期間に2つも書いてくれてありがとね!また楽しみにしてるからね!」


またとはなんだ。だから私以外も書け。こちとらバイトもしてるんだぞ?そうは思っても口に出せない性格が邪魔をする。


「あはは、皆さんありがとうございます……また頑張ります。」


これが私の精一杯だ。孤立している訳では無いから有難いけれどそれでも重圧はかなりのものだ。みんな褒めてくれるけれど、褒められれば褒められるほど本当にいい作品なのか疑問符が浮かんでくる。そういう性なのだから仕方ない。仕方ない。次こそはもっとちゃんと練ろう。いいとは言ってくれてもいいポイントを言ってくれないのなら良くないと言われてるのと同じだ。大して良くも無い作品を褒める時にこそ適当に良かったよなんて言うものだろう?人を褒める時に適当にいい人と言うように。私は高校の時も文芸部でそういう経験を嫌という程してきたので身に染みているのだ。長く書けないし賞なんて取ったことない人間だから自信なんてこれっぽっちもなかった。


家に帰ってベッドに横になる。天井を見上げながらなんかいい話降りてこないかななんて都合のいいことを考える。現実逃避と同じだ。だけれど誰もをあっと言わせる作品が書きたい気持ちは確かにここにある。ここで諦めてたまるかとの思いで机に向かう。書いては消して書いてはまた消して、それで少しずつ前に進んでいく、それが小説の執筆だ。終わりを見据えなければいつまでもその苦悩は続く。ちゃんとした長さでちゃんとした内容で怪談を作らなくてはならない。もちろん被りも考えて。そうしてできた話をみんながサークル活動として稲川淳二のような語り口で話すのだ。そうして成り立っているからこそ新作は必要なのだ。頭を掻き毟る。

だめだ。今日は何も浮かばなかった。


次の日また朝起きてメモ帳にメモを取る。話の種を孵化させる必要があるから種は多い方がいい。

そして登校してバイトに行って帰宅する。

さてと、いい加減少しは書かなければ。


[これは私の友達が体験した話です。いつものようにバイト帰り薄暗い道を歩いて帰っていたら長髪で白無垢の女が薄暗い街灯の下に立っていました。まあ誰かを脅かそうとしている物好きだろうと思い通り過ぎようとしたところ「見えてるの……?」と声をかけられたのです。その日は無視して帰りました。でもその日から常に背後に何かを感じるのです。家で髪をセットしている時も鏡に映り込んでいて、喫茶店に入った時も何故か水がふたつ出てくるのです。恐ろしくなった友人は私に相談してきました。ちょうど私の家系は神社をやっていてお祓いが出来ないかと言うことで呼ばれたのですが親に頼んだところこの霊は特殊で並大抵のお祓いでは効かないとの事でした。そこで親の知り合いのつてで陰陽師にお祓いをお願いしたところ不可解な現象はぱったりと止んだのです。でも友人が言うにはお祓いの最後に「絶対に離れないから」と耳元で囁かれたとのこと。皆さんも不思議な現象にあったら早いうちにお祓いをおすすめします。でないと私の友人のように狂ってしまうかもしれないので。]


こんなところか。今日は書けた方だ。また持っていくとしよう。このなんでもデジタルの時代に私はノートとメモ帳で怪談を作っている。その方が怖さが増すというのもあるが私が単にパソコンが苦手だからというのが一番の理由だ。でもそうだな、次の怪談はパソコン関係にしてみようと思った。昔から携帯でチェーンメールみたいな怪談が後を絶たないからこそ現実味を出せるのではないかと思ったのだ。今日は寝て明日作ろう。寝起きは不思議と筆が進む。


朝起きるとなんだか嫌な夢を見た気がして怪談ばっかり書いてるから霊でも寄ってきたかと思った。勘弁してくれ。私にはお祓いをしてくれる知り合いなんて居ないのだから。昨日書いた話はもちろんフィクションであって実際怖い話なんて周囲で聞いたことは無い。せいぜい痴漢にあって怖かったとかくらいだ。そもそも理系だし現実の人間の方が何倍も怖いと私は思うから霊的な怖さの話は信ぴょう性を出せないでいる。

今日はサークルで話を書こうとメモ帳を持って行った。いつものように前に書いた話を呼んでもらっている間に隅っこでひとり黙々と怪談を書くのだ。


[皆さんはインターネットってよく使う方ですか?

私もよく使う方なのですがそこで会ってしまった怖い話をしたいと思います。

匿名掲示板にはオカルト板というものがあって日々怖い話や相談なんかが書き込まれているのですが私は先日幽霊を家で見てしまいどうしたらいいかとそこの住人に尋ねたんです。今思えばそれが間違いでした。

私が書き込むと早速オカルト板の住人のひとりが丁寧にこうしたらいいよとアドバイスをくれたのです。真似したら絶対にいけないので手順は言いませんが言われた通りの手順で私は神にすがる思いで除霊をこなしていきました。そして最後の手順が書き込まれた時ちょうど他の住人が来たのです。そしてそれを見て一言「これ霊を呼ぶ手順じゃね?やばいって」と。それを聞いて私は踏みとどまれましたが面白半分で霊を呼ぶのはとても恐ろしいことなので皆さんはもし例に取り憑かれたとしても絶対にオカルト板で聞いたりしないで専門家に頼むようにしてください。

私にその手順を教えた人はそれ以降書き込みがありませんでしたがオカルト板のログには残っているので絶対に真似したりしちゃダメですよ。]


うん、今日は書けた方だろう。これも早速回し読みされる。そして口々に感想を言い始めるのだ。いつものやつ。


「これめっちゃ怖かった〜!」

「やはり君には怪談の才能があるようだね。」

「ふたつも短期間に書いてくれてありがとね!」


褒められて悪い気もする訳もなく素直に受け取る。

そういえばそろそろ新歓の時期か。どおりでみんなが怪談の練習をしていたわけだ。そこで読まれるのが大半私の作った話というのが小っ恥ずかしくもあるがそれで書くがわの子が入ってくれれば私の負担も少しは軽くなるというものだ。できることなら入って欲しい。そうすれば納期にうなされる日々も少しはマシになるだろう。なんと言っても文化祭とサークル見学期間くらいしか披露の場がないのだ。コンクールと言っても話す方じゃなくて話を送り付けて終わりだから。ちなみに前回のコンクールでは入選して5万貰った。金賞は100万なのだが作品を見てこれは勝てないなと思ったものである。新しく考えたとは思えないほど緻密で民間伝承に関する怖い話だったのを覚えている。そういうのを見る度に自分の才能のなさが嫌になるけれど期待してくれてるみんなのためにも書き続けなければならない。重圧という程でもないけれどのしかかるものは無い訳もなく、だからこうして短スパンで作品を吐き出し続けているのだけれど。おかげで遊びに取れる時間がほとんどないのは悲しいところだ。そのせいで最初は誘われていたのだが全部断ったせいで友達も部員くらいしかいない。ここまでやったからには次のコンクールではもう少し上の賞を取りたいとは強く思う。コンクールに出す作品はみんなの意見で決めてる。その方が話した時の感触とかの良さで決められるから。ちなみに私は書く専門で話は下手すぎて話にならない。歌が下手だけれど曲は作れる人みたいなものだ。文化祭での収益はみんなの打ち上げでなくなる程度だけれどそれでも自分の作品で楽しんで貰えた証拠だから文句は無い。

なんでこんな話をしてるかと言うとコンクールももうすぐなのだ。怪談は長すぎても冗長になってテンポが良くないから5分以内くらいに話せる内容が評価されやすい。歌も似たようなものだろう?そういうことだ。そうしてサークル勧誘で感触の良かった作品を提出する。ちなみに少しずるいが複数応募するために部員の名前を借りたりもする。もちろん賞をとったら私の功績になるのだが。


そしてそうこうしているうちに今年も勧誘も無事に終わり新歓もなかなか盛況だった。書きたいと言ってくれる人も現れて私としてはかなり助かった。次はコンクールだ。出す作品もみんなで決めた。結果が出るまでに1ヶ月はかかるからそれまではソワソワしながら待つだけだ。

そして結果が届いた。やけに大きな荷物だったからなんなのか分からなかったが毎年私より先にみんなが見てサプライズでお祝いしてくれたりするから今年も中身を見ることなく帰らされた。

バイト中もソワソワして落ち着かなかった。それに寝る時もなかなか寝付けなかった。

次の日同好会の部室に行くと入った途端にクラッカーで驚かされた。部室には入賞おめでとうの文字がでかでかと書かれていた。


「おめでとうー!」

「銀賞だったよー!凄いねー!」

「はい、賞状だよー!」


と賞状と盾を渡される。これがあったからあんなに箱が大きかったのか。金賞はトロフィーなのだがそういや銀賞は盾だったなと思い出す。

今年も成果を出せたのなら良かった。と思っていると更に賞状を渡された。


「もうひとつのやつも入賞してたよー!」

「2冠だよ!おめでとうー!流石エース!」


いや、別の人の名前借りたから賞状にもその子の名前が書いてあるのだが。バレたら取り消しになるかもしれないしそれは持っといていいからと賞金だけ要求しておく。これ生活のためでもあるからね。苦学生だから私。とりあえず賞金は振り込みなので振り込み先を送っておく。それにしても今年は輪をかけて自信がなかったから取れたのが不思議だ。みんなの見る目のおかげだろう。

やはり怪談というのは実際に話してみて肌で実感しているのとしていないのじゃ天地ほどの差があるのだろう。その忌憚のない意見によって選ばれた作品だからみんなで作ったようなものだといつも思う。来年からは新人の子も書いてくれるだろうし私の負担も減るだろうけれどこうなると負けたくない気持ちが芽生えてしまう。それにしても銀賞は50万だぞ。どうしようか。とりあえず貯金と打ち上げ代だななんて思いながら盾を抱きしめる。


その後は賞金が入ったあとに部員みんなで焼肉に行った。全部私持ちで。いや、少しは出せよ。私の賞金だぞ。とは思ったものの決して私だけの力じゃないので心に仕舞っておく。

今後も卒業までめいいっぱい楽しむことにしたいが生真面目な性格だからきっとまた題材探しに悩むことだろう。賞金で廃墟めぐりなんかもいいかもしれない。これからのことを考えると部屋に飾った銀の盾のように輝いて見えるのだった。次こそは金賞をとってみんなを喜ばせたいしなにより[コンクール銀賞]って学校に横断幕が下げられてるのを金賞にしてやりたいって強く思う。

私の物語はまだまだこれからだ。

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