5:エピローグ
「なんだ? さっきから同じところをグルグルと回っていないか?」
「そんなはずは……私の魔法を疑っているのですか?」
「だったら早くその魔法でこの森から出してくれよ。もう何時間も彷徨ってるぞ」
「いや、本当に数時間ですか? なんだか時間の感覚もおかしくなっている気が……」
冒険者たちが森を歩いている。
四人とも我慢の限界がピークに達していた。
リーダー格のカオスルーダーが休憩を提案する。
四人は近くの木に体をあずけるように座り込むと荷物の中を確認した。
「おい! 俺の水筒が空になってるぞ! 一体誰だ⁉ 飲んだやつは⁉」
「私の荷物からも飲み物や非常食が無くなっています! 誰が盗んだんですか⁉」
「俺を疑うのかよ! 俺の荷物も空だぞ! そっちの新入りじゃねぇのか⁉」
「待ってくださいよ! なんでそんな事をするんですか⁉ 僕だっていつの間にか水が無くなってるんですよ⁉」
冒険者たちはお互いを疑っている。
四人の間に信頼関係はなかった。
そして、四人とも勇者の加護を宿していなかった。
四人は今にもお互いに襲いかかりそうになっている。
「命が惜しかったら今のうちに名乗り出ろ!」
「脅すとはいい度胸ですね! 私の探知魔法がなかったら一生ここから出ることは出来ませんよ!」
「偉そうな事を言ってるが本当に信用できんのか⁉ お前の魔法に頼るよりも闇雲に前に進んだほうが脱出出来るんじゃないのか⁉」
「何なんですかこのパーティは⁉ 魔王を倒す勇者と聞いたのに仲間割ればかりじゃないですか⁉ こんなだったら加わらない方がマシでしたよ!」
一触即発の冒険者たち。
その様子を隠れて見ている魔物たちがいた。
魔物たちは気づかれないように小声で相談をする。
「どうする? 止めるか?」
「しばらくはそのままで良いんじゃないか? 何日も飲まず食わずで森を彷徨ってちゃ、ロクに戦いなんて出来ないだろう?」
「本人たちは気づいていないけどな。それにしても勇者一行が来るっていうから待ち構えていたのに、全然来ないな」
「ああ。あんな初歩的な認識阻害の結界で足止めされるあたり、アイツラも違うみたいだ。さっきあっさりと通り抜けていった人間は一人だけだったしな。本当に勇者一行は来るのか?」
魔物たちが疑問を口にしていると、騒がしい声が聞こえてきた。
冒険者たちがついにつかみ合いの喧嘩を始めたのだ。
「自分の体の状態も分からずに無茶をするとは、相当な間抜けだな。とりあえず気絶させて近場の人間の集落にでも放り投げてくるか」
「面倒だな。まぁ、逆らったら魔王様からどんな仕打ちを受けるか分かったもんじゃないし、ちゃっちゃと終わらせて帰るか」
魔物たちはため息をつきながら立ち上がると、喧嘩を止めるために冒険者たちの元へと走っていくのだった。
お読み頂きありがとうございました
これにて完結となります
MMOのパーティで初期メンバーが全員いなくなってしまった話を何度か聞いた事があったので、それを参考に何か話を作れないかと思ったのがキッカケでした
追放モノのテイストを混ぜてみたのですが、実は能力を隠していただけで有能とか抜けた後の一行が悲惨な目にあうなどザマァ展開をもう少し加えても良かったのではないかと反省しています
次に書く話は決まっていませんが、企画にも応募したいと思っているのでまた短い話がポツポツと投稿していければと思います