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毎晩、ミューレが居ない寂しさと寒さを感じる。
毎朝、ミューレが居ない虚しさと、居ないという現実に心が切り裂かれるように痛い。
この俺の腕の中に、抱き締めていたのに。
自分の両手をジッと見つめる。
この手で、抱き締めていたのに、すり抜けて・・・。
サヨナラも何も言えなかった。
ミューレ、お前はどこかで幸せに生きているのか?
俺は、お前がいないと幸せになれそうにない。幸せどころか息をすることすら、まともにできそうにない。
俺は1人でどうすればいい?
ミューレなき世界で、どうやって生きていけばいい?
「魔王様、ミューレ様を失った悲しみは分かりますが、そろそろ執務を再開して頂かなくては、この国が回りません。」
「分かっている。」
宰相がもう限界だと、俺を催促してきた。
俺だって一国を預かる魔王だ。関係ない民を不幸にしたいわけでは無い。
この国を潰すつもりもない。
仕事をするか。
それから俺は、仕事に没頭した。
暇があればミューレを想ってしまうから、考える暇が無くなるよう、何でもやった。
魔王が行う仕事以外の雑務もやった。
土木や建築、手が足りない家の畑仕事や木こりの真似事もやった。
何かしていないと、もう立っていられそうにない。
そんな生活を何年も続けた。
「魔王様、たまにはお休みを取って下さい。」
「必要ない。」
最近は宰相だけでなく、部下が城内ですれ違う度に言ってくる。
いつまでこんな生活が続くのか。
もう、誰か俺を殺してくれればいいのに・・・。
王国の跡地は隣国が貰いたいと言ってきた。
魔王国と不可侵の条約を結び、王国の土地はそこに渡した。
どうでもいい。あの後、何十年も経つと、森が育ってきたらしい。
あんな魔法を放ったのに不毛の地にはならなかったようだ。精霊達の力が混ざっていたからかもしれない。
森が育ち、動物なども戻ってきたのを知って欲しいと言ってきた。
やはり人間は欲深いな。
ミューレ・・・幸せにしているか?
俺のことなど、もう忘れてしまっただろうか。
執務室のミューレのために買った本棚や、ミューレに買い与えた本は、そのまま残してあるが、月日の経過と共に色褪せていっている。
ミューレと一緒に眠ったベッドは、壊れてしまったからもう無い。
ミューレのためのクローゼットには、ミューレの服がそのまま入っているはずだが、思い出してしまうのが怖くて開けられない。
もしかしたら、もう中身の服は朽ちてしまっているかもしれない。
それほどに時は過ぎた。
俺がこんな状態だから、宰相は妃を勧めてくることは無い。それだけは良かったと思っている。
あと300年か400年も経てば、俺が魔王を退くことも許されるだろう。
そうなったら、もう良いだろう?
ミューレがいない世界で1人で生きていくなんて、出来そうにない。
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