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魔族には戦いが好きな奴も多い。しかし、それは戦争などという何の面白味もない殺し合いではなく、1対1の真剣勝負だ。
死ぬまでやるわけではないし、拳を交えて仲を深めるという奴も多い。
俺も、その戦いならやってやってもいい。
そういえばこいつも戦場では1人で目立っていたな。戦いが好きならレベルが同じくらいの良さそうな相手を探してやるか。
「戦いは好きか?」
彼女がこちらを向いて目が合った時に聞いてみたが、漆黒の死んだような瞳は何の反応も見せなかった。
「そうか。今度誰かの戦いを見に行こう。」
彼女を執務室に入れるようになってから、この部屋には必要時以外には誰も入れないようにしている。
秘書官や宰相も、別の執務室を用意して移動させた。
念話で部下達に聞いてみる。
「近々誰かバトルする奴はいないか?」
「います。確かリットとフォラスが。明日の午後だったかと。」
部下の一人が教えてくれた。
「分かった。観戦に行くから2席取っておいてくれ。」
俺は自分と彼女の席を確保しておくよう指示を出した。
「御意。」
「明日バトルを見に行くぞ。」
彼女に告げたが、何の反応も無かった。彼女はジッとこちらを見ているだけだった。
次の日の午後、彼女を連れてバトル会場へ向かった。戦いたい奴がいれば不定期で行われ、それを見て楽しむのも娯楽の一つだ。
「魔王様が女の子を連れてるぞ。」
「戦地から持ち帰ったらしい。」
「見たことない種族だと思ったら人間か?」
ざわざわと観戦しにきた魔族どもが俺たちの話をしている。
うるさいな。
「これは俺が庇護下に置いている。手出し無用だ。」
そう怒気を含めて拡声してやると、皆は大人しくなった。
面倒はやめてくれ。
彼女と座ってバトルを眺めていると、彼女がピクリと反応した。
ん?これはどっちだ?
目を逸らしている。
「殺し合いじゃないから大丈夫だ。あいつらは戦いを楽しんでいて、周りの者も見て楽しんでいる。
戦いは趣味であり、娯楽であり、決して悲しいものではない。そう思わんか?」
俺が話すとジッと闘いを見ている。
「あいつらは友だち同士だ。憎くて戦うわけじゃない。少しは痛いけどな。」
ハハハハハ
「戦いたいか?それとも、闘いは嫌いか?」
「私は・・・殺す戦いしか、知らない。」
突然彼女が言葉を発した。
おや?思わず目を見開いてしまった。
喋れるのか。
「じゃあ、見て学べばいい。今度、俺が相手をしてやろうか?教えてやろう。楽しい戦いを。もちろん殺しは無しだ。俺はそう簡単には死なんがな。」
彼女はコクリと頷いた。
そんな彼女を抱き上げて前向きに俺の膝の上に乗せると、彼女の腹に左手を回して支えてやった。
後ろから彼女の頭に口付けをして、空いた右手で、彼女の髪を軽く梳かしてから、右手も彼女の腹に持っていき、両手の指を組んで支えた。
彼女は2人の戦いをジッと見ていた。
しばらくして片方が倒れ、決着がつくと、勝った相手が倒れた相手に手を差し伸べる。
手を引いて起き上がらせると、お互い抱き合い称え合っている。
そんな2人の姿も、彼女はジッと目を離さず見ていた。
これの中では戦いは殺し合いなのか。それは辛かっただろう。
もしや、この光を通さない瞳といい、抜け落ちた表情といい、戦うために育てられたのか?
そう思うと、人間の悍ましさに吐き気を覚えた。
そして、これをそんな鎖から解放してやらねばとも思った。
彼女の脇に手を入れて抱き上げてくるりと反転させ、こちらを向かせる。
抱き締めて髪を撫でてやると、頭をそっと俺の胸に預けてきた。
これは、俺に心を許し始めていると考えていいのか?
俺は彼女を抱き締めたまま、立って部屋へと移動した。
先ほど、喋ってくれたことから、また何か質問したら答えてくれるかも知れないと思い、色々と質問してみたが、漆黒の瞳で見上げてくるだけで何も答えてはくれなかった。
なんだ、釣れないな。
まぁいい。
今日は声を聞けた。それだけで十分だ。
殺す戦いしか知らない、か・・・
彼女を抱き締めてベッドに入り、髪を撫でてやる。額に口付けをして、また髪を撫でてやる。
「俺が、守ってやるからな。」
そう言うと、彼女は漆黒の瞳で俺を見上げた。
「もう、誰かを殺めたりしなくていいからな。」
彼女は俺を見つめたまま、首を傾げる仕草をした。
「いいんだ。今は分からなくても。俺が教えてやるからな。」
彼女は俺から視線を外し、俯いて俺の胸に額を付けた。
「おやすみ。」
彼女の頭に口付けをして、俺は眠りについた。
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