書見
公園の片隅で本を読んでいる君。それは赤く染まった葉が地面を覆う、肌寒い季節。彼の視線は手に持っているその分厚い本は、その幼い見た目から見ると似合わないほど難しそうなもので、中身は文字がびっしりと詰まっていてそれは父が持っている辞書を思い出させる。
春も夏も、秋も冬も。雨が降った水曜日は傘をさして、本は濡れないようにビニールで覆って。水曜日の夕方は必ずそこにいた。何度か持ち歩いている本を読み終わったところを見るが、また一ページ目に戻るしぐさをして。おそらく時間の許す限り読み直しているのだろう。同級生の男子はみんな服がしわしわによれているのに比べ、彼はいつもきれいな服を着ていた。彼は普段どんな学校生活を送っているのだろう。
もたれかかっている木からはふわりと葉が舞い落ちる。小さな頭に落ちた赤い葉に気づかず手元の文字に目を通す姿は…
そんな彼を見かけてから5年がたった。彼はあの後、毎週水曜日の夕方はいつもあの公園の片隅で静かに本を読んでいる。背丈は伸び、当時は小さい男の子だと思っていた彼の身長はいつの間にか私よりも大きくなっていた。それでも変わらず隅に生えている大きな木に背中を預けて床に座り込み、当時は彼の手には大きく見えていた文庫本も今では片手で軽々と持っている。
手にしている本にはブックカバーがかけられているため、中身の本はわからない。しかしずっと見ていると、日に日にブックカバーがボロボロになっているのが目に余る。
伸びきった黒い髪が冷たい風に揺れる。と、その風に乗って彼の本から一枚の栞がひらりと飛んだ。使い古されたのか、少し茶色が買った和紙製の小さな栞。栞を取りに行くために立ち上がった彼の横顔が少し見えた。
彼が気になって、あの日から水曜日の夕方は父の本棚から適当な本をつまみ出しては近くのベンチで本を読んでいた。いつか声をかけられる日は来るだろうか。いつか彼のことを知る日が来るだろうか。ずっと彼のことを考えていた。この時、初めて伸びた前髪に隠れた彼の顔を見ることができた。
トクリ。胸が鳴る。思った通り彼の顔はきれいだった。