金玉
学校のマラソンでは誰よりも速い。
夢はオリンピックのマラソンで世界新記録。
陸上の名門高校に入学。
高校ではじめて自分より、足が速い人達に会う。
でも僕も負けてられない。
みんな夢を探して手を伸ばしている。
これだけみんなが探しているのにほとんどの人がその欠片すらつかめない。
僕らはみんな、ライバルだけど仲間でもある。
小さな小さなビー玉みたいなピカピカ光る玉、僕らは玉を今日も追い掛ける。
「どうしたの?」
「ちょっと足首がね・・・。
でも大丈夫!。」そう言っていた仲間がいた。
ほどなく、その仲間は陸上部を退部した。
「もう左足首の脱臼がクセになっちゃってね、もうまともに走れないんだ。
壊すのは一瞬。
治すのは大変。
もう元には戻らない事も多いんだ。
僕はもうみんなと一緒に夢は追えない。
僕の分まで頑張って!。」
残った僕らは今日も走る。
夢を追い掛けて。
仲間の一人が今日も電話をしている。
電話中は電話の相手に気を使ってるのか、ムリして笑っているようだけど電話を切ると暗い顔をしている。
ある日、その仲間が、転校するという話を聞いた。
「親の仕事が上手くいってなくてね、もう私立の高校で陸上やらせてもらってる余裕はないんだよ。
ただ走れるって事がこんなに幸せだとは走れなくなるまで気づかなかった。
僕はもうみんなと一緒に夢は追えない。
僕の分まで頑張って!。」
残った僕らは今日も走る。
夢を追い掛けて。
仲間の何人かが監督の部屋に呼ばれる。
呼ばれたメンバーを見て、何となく監督の用件はわかる。
「僕は人の百倍、千倍、努力をした。
でも監督が言うには『君は練習のレベルについていけていない。
全体の足を引張っている。』らしい。
競技じゃ過程より成果が問われる。
努力の過程が生きてくるのは、これからの人生・・・らしい。
僕らはもうみんなと一緒に夢は追えない。
僕らの分まで頑張って!。」
残った僕らは今日も走る。
夢を追い掛けて。
仲間の一人が子供を助けて代わりに車にひかれた。
日常生活を送れるようには戻れる。
でももう二度と競技には戻れないと医者には言われたらしい。
「後悔はない・・・と言ったらウソになる。
でももう一度あの瞬間をやり直せたとしても、僕はもう一度あの子を助ける。
僕はもうみんなと一緒に夢は追えない。
僕の分まで頑張って!。」
残った僕らは今日も走る。
夢を追い掛けて。
高校を卒業する。
大学に進学する。
残った仲間の半分以上が「競技を止める」と言う。
「『もう少し、もしかしたら』と思ってここまで続けたけど、ここら辺で自分の才能に見切りをつけるよ。
自分を客観的に見なきゃいけないのが、こんなに残酷だとはね。
僕らはもうみんなと一緒に夢は追えない。
僕らの分まで頑張って!。」
残った僕らは今日も走る。
夢を追い掛けて。
挫折がなかった訳じゃない。
後輩がレギュラーになって、その鞄持ちをした。
悔しかった。
「今に見ていろ」と思った。
ヒザの故障もあった。
焦りが怪我の治りを遅くした。
大学に入って初めてのチャンスだ。
駅伝のメンバーに選ばれた。
四年生になってもらったチャンスだ。
去年、僕が鞄を持った後輩から襷を受け取る。
『くだりのエキスパート』と言われている後輩からは1位で襷を受けた。
僕は自分の四年間の全てを込めて走った。
会心の走りだった。
トップで受けた襷をトップで次に渡す事が出来た。
だが、それだけだ。
区間記録どころか区間賞ですらない。
ダントツ1位だった順位は2位に差を詰められ、逆転寸前だった。
なのに「よくやった!」と周囲は絶賛だ。
「最初からそこまでは期待されてないのか」
「これが僕の限界か」
僕はずっと走り続けてきた。
僕は足を止めた。
今までどうやっても手が届かなかった玉に一瞬だけ手が届いた。
「アレ、この玉、こんなに大きかったっけ?。」
僕の追い掛けていた玉はビー玉くらいの大きさだったはず。
でも夢破れた人の想いが託されて、ここまで大きくなったのだ。
僕がこの玉に触れるのはこれが最初で最後だ。
僕はこの玉に自分の抱いていた夢を込める。
玉はさらに大きくなる。
夢を捕まえ叶える者が決して見失わないように。




