~悪魔と落ちこぼれ夢魔と上級夢魔~
夢魔の卵~悪魔と落ちこぼれ夢魔と上級夢魔~
始まりと終わりの物語…。
~それは、魔族にとって今から遠くない過去…一人の夢魔のお話~
『貴様、夢食いを愛した、だと?』
地を這う様な低く、
重い声が地塗られた魔方陣の部屋に響く。
それは、大きな影……大悪魔の怒れる響き。
「うん。だから夢魔、辞める。」
『…お前、軽すぎる…』
魔方陣の中、あっけらかんとした一人の夢魔と、
溜め息を吐く一人の悪魔が大悪魔を前にして、至って普通に話をしていた。
『コラ!!我の継ぎ目とその連れだとは言え、今は審議中!!言葉を慎みなさい』
おや?
さっきの重い口調はなんだったか?と言わんばかりのお父さん台詞ですね(笑)
「…はい。私は元より夢魔には向いてないし、ランクも一番下だし、穏やかなばくと、寄り添い暮らしたいんだ…。」
『…あのガキはどうするんだ?…あれは貴様が生んだ夢魔だぞ。』
少し前の話。
か弱き夢魔は、ひょんな事からその力を継ぐものを作り出した。
…本当にひょんなことから…
夢魔の力を秘めたその子供を置き去りにすれば、
力の使い方すら解らぬまま暴走するか、はたまた喰われてしまうか……二つに一つ。
「う~ん……どうしよう……ねぇ?」
『我は知らんぞ』
何だか夢魔と言うには軽いその男が、
悪魔と言うには面倒見の良さそうな男ににっこりと微笑む。
『…待てと言うに…。』
大悪魔の呆れた声。
そう。
まだ、『審議中』である。
『夢魔を辞退するには、それなりの代償が必要。…主の片翼は切り取られ、同じく片目は抉られる。…魔力を削る為、だ…。』
大悪魔の低い声が、少しだけ寂しそうに落ちていく。
夢魔と大悪魔…繋がるものは無いにしろ、
少ししんみりするのは、継ぎ目の唯一無二の悪友だからだろうか。
「うん…。覚悟の上、言ってるよ…」
夢魔もまた、少し寂しそうに……。
と、
「コラァァッッ!!てめぇのガキ、俺ん所に置き去りにしやがってッッ!!…喰うぞっ?!」
「あ…そうだったぁ~☆」
『Σ貴様ら、本気でアホだろ?!』
殴り込んで……
否、審議中にも関わらず、扉を開き入って来たのは、
夢魔の中でもTOPクラスの成績を納めるエリート夢魔である。
「あ~…そうだっ!!エリートのお前なら、きっと上手く育ててくれ……」
「Σ何の話か知らんが、俺の元に来たガキは間違いなく、滅するぞ」
『…だろうな…継ぎ目ですら、壊した奴だからな…』
そう、ガタガタと魔方陣の中で話す仲良しぶり(笑)
同年の魔族が出逢う事は稀である上、これ程近い環境に居るのも珍しい。
魔界では、
喰うか喰われるか、そんな生活なんだが……
『静粛にっっ!!…エリートになったお前なら、今がどんな状況か、察してくれると思ったんだがな…』
大悪魔の大きな溜め息である。
「ん~…じゃあ、やっぱりお前に預けるしか無いんだよな~…」
『断…』
「落ちこぼれの継ぎ目、めちゃくちゃ可愛いがってる癖に…」
『Σなっ…』
やはり仲良し三人、大悪魔を前に状況考えず(笑)
しかし…
「落ちこぼれだしさ。本当に…ゆっくり暮らしたいんだよ、俺……」
「…ま、端から夢魔向きでは無いから…仕方ないが…」
『…本気、は変えられない…と?』
少し寂しい顔に、本気を浮かべた夢魔が、
悪友達に「うん。」と頷き真意を見せれば、
それ以上の言葉を紡ぐ事は叶わない…。
無言の承諾…。
『…では…。お前の一番身近…我が継ぎ目に夢魔の制裁を下して貰う…と言うことになるが…』
言葉を濁す大悪魔…。
魔界の掟、
いくつもの魔族に制裁を下して来たとは思えぬ程情に厚かったりするのは、
今までずっと親身になって来た者だから…か。
「…うん。良いよ、痛いのは平気。」
『…グッ…仕方あるまい…。』
血の香漂う魔方陣に、また…新たな血の契約が刻まれる。
金目の悪魔の爪が…………その背に宿る片翼を切り裂くッ!!!
「グアァァッッ!!!」
『まだ、倒れるには早いッ!!』
吹き出す血飛沫をその身を浴びて倒れ込む夢魔の肩を掴むと、更なる制裁を下す。
「ヒ…ッギャァァッッッ!!!!」
片目を抉れば、悲鳴に似た断末魔が響き渡る!!!
「…落ちこぼれの最期の苦痛、か……」
紅目の夢魔の言葉は、重く……心に響く。
「ハァ…ハァ…あとは、任せた…」
『…我は知らん。……お前の継ぎ目がどうなっても、な…。』
血にまみれた二人の、最後の絆……。
フラフラと去っていく片翼の夢魔の背を、無言で見送りながら……。
・
・
・
『おい、夢魔。今日からここが、お前の生きる場所だ……』
「Σ何で、悪魔…血塗れなんだよ?…てか、親父はどうしたんだ?!」
幼き夢魔を連れて、自らの生活空間へと誘う。
『…アレは、我が手に抉られ……遠くへ行った…。短命なアレは、自らの道を選んだのだ。』
血にまみれた体を抱き…。
切なく、
そして小さく呟く様に落ちた言葉は、幼い夢魔にはあまり解らないけど…。
「…?…俺は悪魔、嫌いじゃねぇぞ。」
背中越しにそっと触れた幼い夢魔の熱…。
小声で紬いだその言葉が……後々まで響く源になった、とかは内緒(笑)
~いつか、この腕をすり抜けてしまうまで……我が腕の中納めておこう……~
小さき夢魔は、その想いに気付かぬままに……。