~夢魔と最上級夢魔~
夢魔の卵~夢魔と最上級夢魔~
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悪夢を与えられる夢魔。
その悪夢を餌に、成長するばく。
お互いが対極にいるのに、出逢ってしまったら気になる存在…。
夢魔は、あの日の事が忘れられず……
今日も悪夢のお仕事に出掛けます。
「さて。今日も上質な悪夢をお届けだよ~♪」
相変わらず、某島国の片隅で、
楽しそうに悪夢をばら蒔き始める夢魔。
黒い翼をはためかせて、沢山の人間に悪夢を見せて行くのです。
「…この間の奴のせいで、新人の中でも成績悪かったんだよなぁ…。もっと広い範囲で仕事したいのにさぁ~!!!」
…何やら夢魔の世界も、色々と大変そうな呟きですが;
夢魔の頭の中に、この間の『ばく』の姿が蘇ります。
「ばく…ってなんなんだ?」
『……。』
悪魔に聞いても、口を嗣ぐんでしまい答えてくれなかったのです。
…知識は勿論ありませんし。
白い服の、天然な子供。
夢魔の作り出した悪夢を美味しそうに食べ……
『♪ふふんふ~ん夢食いば~くの子~成長期~♪』
こんな鼻歌を歌っていた…。
「Σって!!また出たッッ!!」
「んにゅ?…あっ!こんにちわぁ~♪」
無邪気な笑顔いっぱいに夢魔にご挨拶するばく。
…しかし、夢魔の作り出した悪夢をパクリと食べながら、ですが。
「あーっ!!またお前っ!!俺の悪夢食べやがったっ!!」
わなわなと、拳に力が入る夢魔ですが、
「ばくの子は悪夢を沢山食べるの~☆んで、立派なばくになるんだよ?」
にへらっと笑って、また悪夢を求めて移動を始めるばくちゃんです。
「Σちょ…待てっ!!待てってばっ!!俺の話聞けってっ!!!」
「ん~…お腹空いた~(>_<)」
急いでばくの前に立ちはだかる夢魔。
子供のばくは、今にも地団駄を踏みそうな勢いですが…。
「なぁ…ばくってなんだよ? 」
「にゅ~っ!!何って…ばくはばくだよ~!!もうっ!!ご飯の邪魔しないでねっ!!」
OTZ
聞いた夢魔がバカだった…。
「って、違っ!!はぁ…なぁ、悪夢って旨いのか?」
「んっ☆むまって、美味しい悪夢作るの、上手だね~♪幸せ~(*^^*)」
「あっ…たり前だろっ///Σって、また食ってるっ!!!」
誉められた事に少々気を良くした夢魔ですが、
また一つ、ばくの口に入って行く悪夢についつい突っ込みを入れずには居られないのです。
と。
「オイッッ!!そこのばくのガキッッ!!!…命が惜しけりゃさっさと帰りな…」
ばくと夢魔の頭上から、ハスキーボイスが聞こえて来ました。
「んにゅ…?」
「ッッ!!Σ最上級夢魔ッッ!?」
その声の主は…
滅多に他の地区へは出てこない、最上級夢魔でした…。
「チッ…あの野郎…過保護にも…程があるって;…まぁ良い。ばくのガキ、失せろ。…俺の極上の夢に、取り込まれたくなければ…な…。」
「嫌ぁッッ!!おぢさんこわいですぅ~(>_<)」
夢魔ですらゾクリとする程の負のオーラを覗かせた最上級夢魔の前に、
あの天然ばくが、尻尾を撒いて逃げ出して行くのですっ!!!
「ちょ…待…ッッ!!」
「…追っても無駄だ。あいつ位の小さなばくじゃ、何を聞いても解らねぇよ…」
大きな漆黒の翼をはためかせ、夢魔の肩を掴む最上級夢魔…。
その赤い瞳は夢魔と同じなのに、力の差は歴然。
「ッッ!!…あんた、何でこんな小さな領地に…?」
「Σあんたって…。はぁ…このくそガキめがッッ。『お前の悪魔様』に聞けよ…」
「Σイテッ!!!」
やれやれと肩を竦め、夢魔のデコにデコピン一つすると、
また大空へ高く舞い上がり、大きな翼を動かすのだ!!
「忠告だ。ばくに肩入れするな。あれは我等夢魔の敵だ。」
天高くから、ハスキーボイスが降り注いだ瞬間……
最上級夢魔の姿はそこには無かった。
「…速ぇ…」
最上級夢魔の居た空を呆然と見つめ、
自分との力の違いを目の当たりにした夢魔でした。
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『…なんだ?一段とぶすくれた顔をして…』
魔界に帰った夢魔がゴロンと寝そべったその上から、
悪魔が呆れた様子で覗き込む。
「…なんで最上級夢魔が俺の領地に来るんだよ…」
大きな赤い瞳で、最大限に金の目を睨む。
『さて、な…。』
「Σふざけんなっ!!あいつ、『お前の悪魔様に聞け』って言ってたっ!!…あんたが差し向けたんだろっ?!」
『ククッ…お前の悪魔様が我とは…。まだお前のモノになった記憶は無いが…?』
金の瞳を一瞬だけ嬉しそうに細めたのも気のせいかと思う程、
今度はゾクリとする程妖艶な輝きを放ち、長い爪で夢魔の髪を鋤く……。
「ッッ!!ふざけんなっ!!質問に答えろよッッ!!!」
『…アレが行けば、大抵のばくは逃げる。お前は、あの一族と関わらない方が良いと判断したからだ。…質問には、答えたぞ…』
ふいに視線を反らした悪魔が穏やかに紡ぎ出す言葉……。
反らした顔はそのまま、いつもの自分の場所へと戻って行く、
その背中は何だかいつもの悪魔とは違う気がして……。
「ちょ…何だよッッ!!…何だか俺が悪いみたいじゃんか……」
聞きたいことも沢山あった筈なのに、それすら出来ず。
寝転んだまま、空をきる手が何だか虚しくて……。
「…………すぅ……」
無言のまま過ぎ去る長い時を、ふて寝して過ごすのであった。
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『…夢魔の運命は、どちらに転ぶのだろうか…出来れば、永遠に我が元に……』
寂しそうな悪魔の呟きは、永遠に夢魔に届かないまま……。