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ウィザードは機兵を駆る  作者: 本間□□
機神の卵編
7/50

二人の一刀

 学園の訓練場では機兵科の学生達が基礎訓練を終え、マナで作られた疑似的な魔物を用いて戦闘訓練を行っていた。


 魔物との戦いは銃型の魔導具が主流となる。もちろん歩兵用アーマーの身体強化を活かして近接戦を行う者もいる。それは冒険者に多い傾向だ。


 これが機兵となると話は変わる。歩兵のように遠距離からのゴリ押しは、現在の機兵の仕様上難しい。それもリリナリエの機兵と世代交代が進めば話は違うのだが、それはあと4,5年先のことだ。



 一年生達が教官の監督の中で素振りを行う。スズネのように武器の扱いを知っているものは半分といったところだろうか。その大半が十家に連なる人間であることから、どれだけ十家の一族が軍家としての色が濃いか分かる。


「そこまで! 集合しろ」


 ある程度慣れた所で素振りを中断し、教官は学生達を訓練場の真ん中に集合をかける。まだまだ不格好な者も多いが、機兵に達人のような技術は求められていない。あくまで武器を振り回すことに慣れることが重要なのだ。


「これから疑似魔物を相手に訓練してもらう。その前に私が見本を見せる」


 学生達が駆け足で集まったことを確認して、アルベルトは地面に置いていた大剣を拾う。


「リー、魔導具の操作を頼む」


 リーと呼ばれた男性教官は魔導具の端末の前に立ち、狼型の魔物を映し出した。この装置はただ光で形作られた立体映像を動かしているだけだ。


「ふん!」


 アルベルトは掛け声とともに疑似魔物を袈裟切りに一閃する。光を切り裂くよ

 うに二つに分かれたあと、すぐ元の姿に戻る。

 

「こんな感じだ。難しく考える必要はない。体が振り回されないようにだけ気を付けるように。最初はエルクからいくか」


 初心者な学生達がアルベルトの型をイメージとして目に焼き付ける。機兵を動かすのに必要なモノはイメージだ。どういう風に機兵を動かすかAIにイメージを伝え、AIがそれを演算して形にする。機兵パイロットにとって体の動かし方を理解することは、機兵を精密に動かすことに繋がる。




「そこまで! 次はスズネだ」


 教官の終了の合図で、エルクは二本の短剣に付いたマナを慣れた様子で払い鞘に戻す。武器にマナを流す必要はないのだが、いつもの癖だろう。


 エルクが離れるのと入れ替わりにスズネが木刀を手に前へ出る。 


「十家だと近接訓練もするのか?」

「家によって違いますね。武術を学ぶのは個人次第、獣人系や武人系の家はそういう人も多いですが。けれど、魔力の扱い方はほとんどが学びます」

「なになにー? うちの訓練の話? リーグがへっぴり腰で剣振ってた頃の話する?」


 体育座りでノーサスとリーグが話していると、戻ってきたエルクが二人の隣に座る。


 リーグは武術より魔術を好むが、武術もやらされていた。これはアルジュナの一族が魔術も武術も嗜む者が多い事もあるが、それ以上にダンジョンに飛び込もうとするスズネに巻き込まれたのが大きい。


「なんだ、お前がスズネにちょっかい掛けてパンツ一丁に剥ぎ取られた話するか?」

「おーけー、この話はやめよう。傷跡を抉るだけだ、あの剣術バカめ……」


 遠い目をするエルクを放置し、リーグはノーサスのほうに話を戻す。


「武器の扱い方を学んだとは言いましても、機兵に必要な技術なんて正しく振るう事くらいです。魔物相手に技術がどうこうなんて意味はありません。普通の魔物は技術なんて持っていないのですから」


 リーグはノーサスだけではなく、聞き耳を立てていた初心者のクラスメイトにも聞こえるように言う。ところが一転、スズネを見て困った顔をする。


「ただ、イズミは別。あれは剣術じゃなくて魔法の領域に届いちゃった流派だから」


 エルクは呆れたように言うが、面白いという感情が見え隠れする。


 この機兵に必要な技術についてリーグが話してる中、スズネは眼を閉じ刀を上段に構える。


 ただ構えるだけで周囲の空気が変わった。持っているのは刃の無い木刀、それにもかかわらず首筋が冷たくなる威圧を感じる。見学の必要がなく、素振りをしている者も思わずスズネを見てしまう。


 スズネは掛け声と共に剣を振るい、かろうじて見えた剣筋が標的を断つ。


「……あれ、壊しちゃった?」 


 切り裂かれた疑似魔物は元に戻らない。不具合を起こしたノイズが映像に映り、音声にも混ざるノイズの不気味さにスズネも後ずさる。彼女もちょっとした好奇心でやらかした惨状に、明後日の方を見て汗をかいた。


 見た目的にも音声的にもホラーさながらといった状況。教官達も初めて見る現象に苦笑しつつも感嘆を漏らす。


「形無くも、剣が届くなら斬って見せよう

 真理至らずも、剣に至るなら斬って見せよう

 概念されど、剣を以って斬って魅せよう

 此れ、剣禅一如 三振之太刀」


 リーグがイズミの魔法を謳う。機神の力を借りて魔法を使う十家において、個人の力だけで魔法を行使するのがイズミだ。それがどれだけふざけているか、AI達すら理解不能と匙を投げる。


 その魔法の入口を齢一六で使う天才。しかしそれが才能だけではないことを二人は知っている。


「よっ。さすがイズミの剣鬼。化け物染みてる!」

「ちょっとエルク、女の子に化け物って何! それに、それって姫じゃなくて鬼のほうでしょ!」

「残心忘れてるぞ、姫様」

「ぐぬぬ」


 仲の良い三人のやり取りを嫉妬と羨望、尊敬の入り混じった複雑な感情でノーサスは見ていた。


 魔法、それはマナが起こす奇跡の代名詞。現在判明している魔法は4つしかない。剣術魔法『三振之太刀』、異界魔法『ダンジョン創造』、機神魔法『体現者』、そして存在するとだけ伝わる死者蘇生。


 壱之太刀はその中でも最も簡易で容易な魔法とはいえ、魔法を使える者は特別だ。魔術師なら誰でも一度は魔法に憧れる。ノーサスも例外ではない。


「見学も素振りも自由だといったが遊んでいいとは言ってないぞ。罰として素振り100回だ」

「「教官! 遊んでいるのはエルクだけでしょう!」」

「はははは、連帯責任だよ!」


 アルベルトに叱られた二人はしぶしぶ訓練場の端に向かっていく。いやスズネは特に苦痛に感じないのだろう。日課と変わらない素振りを始める。


「イズミの剣は良い意味で異常だ。あれは真似しようとしてできるものではない。本来は長年の修行の先でたどり着く領域だ。上を目指すのは良いが基本を蔑ろにするなよ? さあ、次いくぞ」


 アルベルトはイズミの剣術に憧れる少年達に忠告し、授業の続きを再開する。経験者の流れ作業といえる確認も終えノーサスの順番がやって来た。


 ノーサスは剣を持って疑似魔物と対峙する。頭には先ほどの一刀が浮かぶ。だが、自身にあのような剣術は無い。なれば今できることをするだけである。


 ノーサスは敵を見据える、腕輪型の魔術触媒を通して黒のマナを増幅させる。


「何をする気だ」


 アルベルトはトランス状態にあるノーサスに危機感をつのらせた。同じく警戒する周囲の教官に目配せする。


 ノーサスは増幅させたマナを剣に通す。剣術は無くとも、彼には幼き頃から血の汗を流しながら鍛え上げた魔術がある。


 剣から重さが消失し、ノーサスはタイミングを図る。


「はああぁっ」


 気迫の篭った剣を振り下ろす。その振りは不器用なもので、スズネとは雲泥の差がある。だが、鍛え上げられた魔術は魔物とぶつかる直前、剣に重さを加える技を見せた。


「ノーサス!」

「えっ」


 黒の魔術が乗った重い一撃が魔物を切り裂き、勢い余って地面に剣を叩きつける。それと同時に、ノーサスは首根っこを掴まれ後ろに引っ張られた。


 引っ張った犯人、アルベルトはノーサスの前に出て魔術で障壁を張る。叩きつけられた剣は半ばで折れ、折れた剣先が明後日の方へ飛んでいった。


「怪我はないか?」


  よく考えなくとも当たり前だが、重力操作による最大火力を地面に叩きこめば剣が折れる可能性があるのは当然だ。もっともそれが耐久性に優れたアダマン合金でなければの話だが。


 その二点に気が付かなかったノーサスは恥ずかしさのあまりに痺れる手で頭を抱える。


「……そうなるよな」


 アルベルトは頭を抱えるノーサスを気にする様子もなく、額に手を当てて高笑いをする。


「はははははは、訓練用とはいえアダマン合金で出来た剣を叩き折るか。ダヴィンチの天才に、タケミの獣王候補、イズミの剣姫、他の奴らも面白い奴も多い。新しい時代が来てるじゃねえか」


 嬉しそうにアルベルトはノーサスの背中を力任せに叩く。その顔はうまくできた子供を褒める親のようである。


「教官、痛いです!」

「知るか! ちゃんと手は避けてやってるだろうが。さっさと医務室へ行ってこい,そのまま昼休みに行っていいぞ」


 ノーサスはにやける顔を抑えて、アルベルトから逃げるようにその場を離れた

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