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ウィザードは機兵を駆る  作者: 本間□□
機神の卵編
6/50

魔力測定と警告

初めてのブクマ登録をしていただきました。感謝と小ネタを活動報告に投稿しましたので、よろしければどうぞ。

 時間は戻り、ノーサスは研究室の前で立ち尽くしていた。気分は獅子の前に捧げられる兎のようだ。


 ウサギショックの後遺症がノーサスの覚悟を揺らがす。ノーサスがドアノブに手をかけたまま固まっていると、中から女性の説教が聞こえてきた。


「デモンストレーションはいいけどあれはやりすぎだと思うよ! ただでさえジャンプはあぶないのにスラスターまで吹かして、破片が新入生のところまで飛んでたらどうするの?」

「教官もいたし、ちゃんと防ぐ準備もしてあったんだよ?」

「それとこれは別です。ちゃんと教官から内容の指定はあったよね? わざわざ

 新入生を危ない目に――――」


 ノーサスが扉の隙間から中を覗くと、ミコトがレミリエを叱っているところだった。


 床に正座し何度も頷きながら反省していますと態度で示すレミリエは、隙間から覗くノーサスと目が合う。


「――あ、後輩君。いらっしゃい! もう説教はいいよね、ミコト!」


 パイロットスーツ姿のレミリエは立ち上がろうとして、顔面を床に叩きつけた。痛みと足の痺れの狭間で悶絶し、声にならない悲鳴を上げている。


「ひぃん! ぎゃ――」

「何してるの……」


 レミリエは涙目で顔を両手で押さえて両足が動かないようにジタバタしている。その姿にミコトは呆れてため息が出た。怒る気も削がれて、仕方なく説教を切り上げてノーサスの方を見た。


「こんにちは、ノーサス君。怒ってるところばっかり見られて恥ずかしいな」


 顔に手を当てて恥ずかしがっているミコトにノーサスは愛想笑いを見せて中に入った


「こんにちは、ミコト先輩。どうしてここに?」

「前があれでしょ? 今回から私が監視することにしたの。というわけで、これ

 私の連絡先。リリちゃんに呼ばれたらできれば私も呼んでね」


 ミコトはリリナリエの凶行を止めることを諦め、監視することにしたようだ。ノーサスに携帯端末の連絡先を渡すと、ソファーで仮眠をとるリリナリエの方へ向かっていった。


「リリちゃん、ノーサス君が来たよ」


 リリナリエは新しい研究対象に大興奮して、徹夜を続けていたようでミコトの説教の間もずっと寝ていた。


「こんにちは! 前の引率の時に居た子だよね?」


 足と顔それに精神的なダメージから回復したレミリエは慎重に体を起こし、近くの椅子に座った。


「はい、はじまして、ノーサス=アマミヤです。あの時は突然いなくなってすみません」

「あはは、リリに見つかったなら仕方ないよ。私達は幼馴染でね、こうなるのはわかってたし。――ひぃ」


 軽率なレミリエはいつもの癖で無意識に足をぶらぶらさせ、再びダメージを受けている。奇声を出して痺れに耐える仕草をする彼女にノーサスもどうすればいいのかわからず見守るしかない。


「ん、バカかお前は。小人でももう少し落ち着きを持ったらどうだ」

「それをリリが言うの……」

「普段の私は落ち着いているだろ?」


 のそのそとのびをしてリリナリエが起床した。研究続きでぼさぼさな髪を掻きながら、シワだらけの白衣を羽織る。。


「それじゃあ、モr……黒の適正者君。早速測定を始めようか」


 目の下の隈を残したまま、リリナリエは用意してある道具を取りに行った。あまりに不健康な姿に、ミコトはこれが終わったらしっかり休ませようと心に決める。


「さて、魔力測定だが。適性に関しては前に済ませたし、操作の意味はない。出力と持久力だけだ」


 初対面の時とは全く違う口調のリリナリエ。あの時は興奮のせいで色々とおかしかったのだ。

 あまりの印象の違いに同一人物か怪しいが、ノーサスの兎恐怖症は内に引っ込む。


「適性と操作はマナの色に関わる能力。どの色を作るのが得意か、決まった色を作る能力だね」


 リリナリエの機兵科の一年生には言葉足らずな説明をミコトが補足する。


「今日はマナの瞬間出力と、マナを作り続ける持久力を測ります」


 ミコトが説明をしていると、リリナリエが魔術の力を借りて50㎝ほどの透明感のある魔石を持ってきた。


「これがギガント級魔石、コアといわれるもの。それに測定用の魔術回路を刻んだコアがこれだ。両手でも片手でも良い、やりやすい方で測定器にマナを流してくれ」


 球体の測定器をクッションの上に乗せ機材の設置を済ませると、リリナリエはモニターの前に座る。


「大丈夫ですか?」


 ノーサスは疑うようにコアを見た後、ミコトに確認をとる。彼女が大丈夫だと頷くのを見てノーサスは手首から補助具を外し、コアに手を乗せた。


「マナの流し方は家庭用の物と同じで良い、最初は全力でやれ」


 ノーサスはリリナリエの指示に従い、全力でマナを流す。ひんやりとした測定用のコアは真っ黒に染まり、ケーブルを通してバッテリー用のコアに流れていく。


「ほう、優秀だな」


 モニターを眺めるリリナリエが、測定の経過に驚きの声を出す。ノーサスは休憩を挟みつつ何度か全力でマナを込めた。モニターを見ながらリリナリエは書類に測定結果を記載していく。


「ねぇ、ワタシも見ていい?」


 退屈しているレミリエが、リリナリエの後ろから興味津々に確認を取る。ノー

サスは少し不安に思いながらも許可を出した。


「え、まじこれ。一年の頃のソウジと変わらないじゃん」

「うそ、本当に? 見てもいいかな? ノーサス君」


 驚くレミリエにミコトも気になったようで彼女の隣に並ぶ。そこに記される数値はタケミの次期当主であり、機神パイロットにもっとも近いと言われるソウジと変わらない数値であった。


「随分無茶したね。使ってた魔石が小さいだろうから良かったけどD級以上の魔石使ってたらどうなっていたかわからないよ」

「どういう事?」


 ミコトは珍しい諭す口調のリリナリエに首をかしげる。


「おそらくこいつは小さいころから魔道具で魔術を使い込んでいたのさ。コンプレックス故だろうがな」


 ミコトは悲しげな表情で沈黙する。それはノーサスのコンプレックスを憐れんでいるわけではない、どこか宝物を見るような顔にも思える。


 魔力の訓練は十家でも当然行われる。だがそれはあくまで何重にも安全策を講じてだ。決して子供が単独でやっていいことではないし、一般家庭では行われない。専門の施設で行うのが自然だ。


「全くもってその通りです」


 ノーサスは幼いゆえの過ちに気まずそうに顔を反らす。自分でも今考えると随分危険なことをしていたと反省していた。


「むー」


 ミコトは顔を反らすノーサスの頬に触れ、正面を向かせる。小さいころの話であり、本人が反省している以上ミコトも叱るつもりはない。だがらといって納得できるわけではなく、口で不満を示し何の迫力も無くノーサスを睨む。


 そんな可愛らしいミコトにノーサスは真っ赤になって逃げ出そうとする。

 レミリエは二人の初心なやり取りをミコトの後ろからニヤニヤと眺める。あとでミコトを弄るネタにするつもりなのだろう。


「ミコト、後ろ」


 バカらしい、アホかと言いたげにリリナリエはミコトを呼び、背後のレミリエを指さす。


「きゃあ!」


 可愛い悲鳴を上げミコトはソファーに飛び込んでいった。



「さすがに今更事故を起こすようなことはないと思うが、一点だけ注意しておく。黒の魔術を使うときには気を付けろ。黒のマナが重力を司るのは経験から理解しているな。一定以上の出力の重力場を起こすなよ? 何らかの理由で爆発するからな」


 リリナリエは念入りに忠告をする。ノーサスからマナを奪ってすぐ爆発させた彼女の言葉には十分な説得力がある。


 その後ろでは毛布で顔を隠すミコトを弄るレミリエの姿がある。


「さあ、休憩はここまでだ。最後に持久力の測定を行って、今後のメカニックとしての相談といこうじゃないか」


 彼女はにんまりと笑い、測定の続きへ戻った。当然、今まで無茶してきた以上効率も入学時点の十家トップと変わらない。


 測定後、当然のように日が暮れるまで黒の魔術の検証に付き合わされたノーサス。これはリリナリエが機兵の開発を進めるため、教官に根回しという名の脅迫があったりなかったりしたためだ。


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