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ウィザードは機兵を駆る  作者: 本間□□
機神の卵編
5/50

新入生と美少女

 突然、研究室の扉が開け放たれた。そこに居たのは人形のように整った顔立ちの美少女だった。


 彼女はここまで急いで走ってきた。そのせいで腰まである銀髪を乱したまま研究室を見渡す。ノーサスと目が合うと顔を赤く染め、すぐに扉を閉めてしまう。


 扉の外から何か小さな声が聞こえ、コホンという咳払いのあと再び扉が開いた。


「リリナリエさん! 新入生に暴力沙汰とはどういう事でしょう!」


 どうやら銀の少女は先ほどの醜態をなかったことにしたいようだ。彼女が扉の前で髪を直している間に、リリナリエはウキウキで格納庫経由に機材を抱えて逃げ出していた。ノーサスが呆けている短い時間にである。彼女は最初から逃げ出すつもりだった。


「あれ? リリちゃんどこ? えっ、いない? また逃げられたの?」


 少女の化けの皮は簡単に剥がれた。被っていた淑女淑女とした態度はあっさり剥がれ、年相応の幼さがある少女が出てきてしまっている。


 彼女は何度もリリナリエに説教をしているが、効果は見ての通りである。リリナリエは反省しても後悔はしない。次にどう活かせばいいのか考えるだけで、自らの探究心に従う確信犯である彼女に説教は効果が薄い。


「君が拉致された新入生だよね? 初めまして、機兵科2年のミコト=タケミです」


 銀髪のヒューマン――ミコトは傷一つないきれいな手をノーサスに差し出した。


「機兵科一年、ノーサス=アマミヤです。俺の事、知っているんですか?」


 ノーサスは緊張しつつもミコトの手を取る。


「ソウジ君から聞きました。――リリちゃんの暴走に巻き込まれたみたいでごめ

 んなさいね。あの子はシツナの子たちと並ぶ問題児なの……」

「ダヴィンチの一族もああなんですか」


 ミコトは申し訳なさそうに謝罪する。身内の恥を恥ずかしそうに話す彼女は、リリナリエと親しい事が伺える。


 問題児である小人の一族と並べられるリリナリエ。ノーサスはダヴィンチの一族全員、彼女のようなマッドな人間ばかりなのかと考えてしまい恐れた。


「いや、リリちゃんほど暴走する人は少ない……かな?」

「自信はないですか」


 ミコトは語尾まで自分を騙しきれなかった。歴代のダヴィンチも、特に天才肌な人間の語り継がれる悪行を知っている彼女は自信を持てなかった。


 これ以上話していると、墓穴を掘ってしまいそうだと思ったミコトは話を替えることにする。


「担当メカニックについても聞いてるけど、本当は良い子でね。できれば仲良くしてあげてくれるとうれしいな」

「あの兎の悪魔が良い子ですか――――」


 ノーサスはとてもそうとは思えず、訝しげにミコトを見た。デュナイトを見た以上才能を疑うつもりはない。けれど人格に問題が大ありではないかと思わずにはいられない。


「そうなの! 私とソウジ君くらいしかしらないけど、あの子本当は――――」

 ミコトがリリナリエをフォローしようとすると、突然外から爆音がした。

「あの子はまた! ごめんなさいね、鍵は開けたままでいいから」


 ミコトは騒ぎの起こった現場に向かうため、リリナリエと同じ扉から飛び出していった。


「そういえば、ここってどこだ?」


 ノーサスが途方に暮れていると、最初からいたのか仮眠用と思われるソファーから一匹の白い猫が寄ってきた。おそらく、野良ではない。手入れされた綺麗な毛並みに、人慣れした仕草をしている。


 猫は「にゃあ」と鳴きノーサスの顔を見ると、そのままミコトが最初に入ってきた扉へ向かってゆっくりと歩いていく。閉まっている扉の前で振り返り、またノーサスの顔を見る。


「開けろってことか?」


 ノーサスが扉を開けると、猫は案内してやるという風に何度も振り返りながら道を進む。疑惑を感じながら猫について行くと、なんとか彼が見知った道に戻ってこれた。


 それと同時に疑惑が確信に変わった。。


「なあ、おまえってもしかして機神AIか?」


 立ち去ろうとしていた猫は固まったように動きを止める。その顔はとても猫のものとは思えない、人間のような猫。その顔に滝のような汗が見える。


「にゃ、にゃあー」


 フリーズしていた猫は突如再起動し、鳴き声を発する。それは本物の鳴き声ではない。焦っているからか中途半端な猫の鳴き声を真似る何か。


 諦めろと言うノーサスのジト目に耐えられず、一度も振り返らないで走り去っていった。


「機神AIって随分、人間臭いんだな」


 ノーサスはコントみたいな猫に腹を抱えて笑い、帰路に就いた。




 ゴーグルを付けたリリナリエは魔導科の実験場で爆発をおこしていた。彼女にとって今日、黒のマナを入手することは決定事項であり、あらかじめ実験場の予約を取っていた。


「レオの言う通り黒のマナは重力を司るマナなのかな。それにしては彼が黒の適性以外ない理由にはならないと思うけど。そもそも既存のマナとは形式が違うのかな」


 リリナリエはノーサスから強奪――提供された黒のマナを込めた魔石で実験を行っていた。さきほどの爆発はその実験の結果であった。


「重力場の発生に時空の歪み――――黄のマナと――――、けどあの爆発のタイミング――――もしかして安全装置?――――」


 リリナリエはぶつぶつと自らの考えをまとめていた。その様子を三人の幼馴染が見ていた。


「あの子は変わらないね」

 ミコトは懐かしむように。


「成長しないの間違いだろ」

 ソウジは苦虫を噛み潰したように。


「ソウジは変わりすぎだと思う」

 レミリエは複雑そうにリリナリエを見る。


「タケミの次期当主が子供のままで居られるはずがなかろう。それよりも計画はどうするつもりだ」

「レミちゃんのはそういう意味じゃないと思うけど。計画は進めていいと思う」


 ソウジの勘違いを、ミコトは正そうとするが彼には伝わらない。ミコトは歯がゆさにため息が出る。


「へえ、ミコトは乗り気なんだ。彼に一目惚れでもした?」

「そういうわけじゃないけど、彼には機兵じゃ足りないと思う。機神が必要になると思うの、きっと」


 レミリエは軽い感想を期待してミコトを茶化す。彼女が幼馴染以外の異性に興味を持つなんて稀だ。ノーサスとミコトの()()を知らないレミリエは、さらに深く聞こうと彼女の方を見た。頬を少し染めるミコトの顔を見たレミリエは、意外な好感に思わず茶化す口が止まる。


「それで機神に乗れるならば、私も苦労しないのだがな」


 機神パイロットは簡単になれるものではない。高い魔力適性に、機神AIの感情に呑まれない確固たる意志。ソウジもその条件を満たしているはずだが、最後の一歩が足りないと彼は感じていた。


 四人は機神AIの思惑に乗ることにした。四人目の共謀者はノーサスとミコトが出会うために今回のバカ騒ぎを仕組んだリリナリエだ。


「あははははははは、なるほど黒のマナならあれができるかなー」


 新しい未知――――おもちゃで遊ぶバカの高笑いが学園に響く

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