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ウィザードは機兵を駆る  作者: 本間□□
機神の卵編
4/50

少年と機兵

 高さが10mもある機兵、その搬入が可能な格納庫に隣接する研究室の中。作業台の上に寝かされた青年はうなされていた。兎が、兎が、と兎にトラウマを植え付けられたノーサスを、獣人が不憫に見ていた。

 

そんな様子を一切気にする気もない諸悪の根源たる兎は、ノーサスに取り付けられた機材から得たデータを記録していた。


「……ここは、うさぎ――――」

 

目を覚ましたノーサスの視界に兎の後ろ姿が映った。恐怖にかられ逃げ出そうとするが、四肢を拘束され動けなかった。


「落ち着け、後輩」


 獅子の獣人がノーサスに柔らかな口調で語りかけた。大きな手がノーサスの頭に優しく触れ、ゆっくりと頭を下げさせた。


ノーサスは兎の獣人以外に人がいることに少し安堵し、暴れるのをやめた。そして警戒と共に男のほうを見たが、すぐにその警戒を解いた。


 その獅子はまさに百獣の王という風格を持っていた。鍛え抜かれた肉体、強い理性と意思を感じさせる眼、何より困ったように苦笑する姿に、ノーサスは彼が味方であることを理解した。


「落ち着いたな? 外してやれ、リリナリエ」

 

リリナリエと呼ばれた兎の獣人はやり切った表情で、ノーサスの拘束を外していった。


「協力ご苦労様、おかげで面白いデータが集まったよ」

 

悪びれた様子もなく彼女はスキップしながら、データの束を持って別の作業台に向かっていった。本来、内気で臆病な兎の獣人とは思えないほどの図々しさだ。


「自己紹介くらいしたらどうだ……。私はソウジ=タケミ、機兵科の三年だ。あっちのバカはリリナリエ=ダ・ヴィンチ、魔導科機兵専攻の四年だ。未知である黒のマナに浮かれて、口調もおかしくなっているが普段はもう少しマシなはずだ」


「君とは長い付き合いになるだろうからよろしくね。あと専攻は機兵だけど魔導に関わる事なら大抵はなんとかなるから」

 

ソウジの挨拶にリリナリエは背中を向けたまま、栗色の髪と耳をぴょこぴょこさせ投げやりに答えた。


「申し訳ないが、あれの言う通りだ。君の担当メカニックはあれになる。あれでも飛び級していてな……、ダ・ヴィンチの名に負けない程には腕がいい」


 ダ・ヴィンチは王国最高の発明家一族。知の探求心を認められればどんな種族でも受け入れ、教育を施し、新たな知識を生み出す。その頭脳で未来を切り開いてきた誇りある一族だ。


 歴代のダヴィンチが生み出してきたものは魔導車や魔導船、果ては通信技術もダヴィンチが生み出した。しかし、かの一族の最も大きな偉業は機兵であろう。


「チェンジで―――」

「できませーん、しませーん、きこえませーん。ダヴィンチちゃん以外に黒のマナを使った兵器なんて作れないよ? 作れたとしても何年先になると思うの? そもそも君がのる機兵はダヴィンチちゃんの新型だよ? あれあれ!」

 

ノーサスの拒絶を遮り、リリナリエは立ち上がり研究室の窓ガラスを指さした。

 

窓ガラスから見えたのはカラスのように黒い機兵だった。


クレーンで持ち上げられた機兵のコックピットには縦に二つの操縦席が存在する。所々剥き出しになったフレームに、よくわからない機材にケーブルで接続されているその姿が未完成だとノーサスにも理解できた。その不完全な機兵の二つの目がノーサスを見つめる。


「その子は第四世代機兵の実験機『複座式並列型機兵NAI-41 デュナイト』、私の自信作だよ」


 リリナリエは窓ガラスに近づき誇らしげに見上げた。


「この子は二つのAIコアに二人のパイロットを乗せる! だから君にも乗れる、いや君じゃないとだめなんだ。なんたって、この子には機神AIを積む予定なんだもの」


 黒の適性しかノーサスは持っていない。それゆえに機兵に乗れるはずがないと憂鬱としていた。ノーサスはようやく、なぜ自分が機兵科に入れられたのか理解する。


「――機神AIってどういう事ですか!」


 リリナリエの最後の一言を理解し、我に返ったノーサスは彼女に詰め寄った。


「せっかく黒の適正者が現れて、その専用機を作るんだよ? 黒の魔術の使用を前提にした機兵を作るつもりだし、そうなるとAIだって最高のモノを使うよ。ちょうど一個余ってるし」

「機神AIなんて実績もない候補生がつかえるんですか? そもそも、そんなに機神AIが存在するのですか?」


 ノーサスはリリナリエのやる気に気圧され、適当な椅子に頭を抱えて座る。


「大丈夫じゃない? だれも使ってないし、機神十家のモノでもないし。稼働という意味なら君次第だね。数? ウチにもあるよ。正確には機神操縦適性の低い高性能AIだけど」

「まさかツクヨミか!」


 今まで静観していたソウジが突然、大きな声を上げる。リリナリエは大正解だと言うように満面の笑みで頷いている

「ツクヨミ?」

「建国の女王が使った機神のAIだ」


 事情を知らないノーサスは、その答えに思わず固まった。数瞬の間で再び動き出し、ギギギと首をリリナリエの方へ回す。

「王家じゃねえか!」


 十家の所有しているモノより上だったことに大きな声でツッコミ、ノーサスは床に四つん這いになった。


「勝算はあるのか」

「あるにきまってるじゃん。そうじゃないならまだ言わないよ」

「――――ヒメか。私達が決める前から動いているようだな」

「機神パイロットが揃う事を望む。国防を考えれば当然だけど、別の意図もあるような気がするなー」


 四つん這いのままブツブツと現実逃避するノーサスの横で、ソウジはリリナリエの話を聞く。


「時が来れば教えてくれる。それが私達と彼らの信頼だ」

「まっ、私達とレオも同じだからなんとも言えないね」


 どちらの一族もAIと共に生きてきた。その関係を信じて二人は何も聞かないことにする。


 パイロットとメカニックの顔合わせは無事? に終えた。自分はもう必要ないだろうと、ソウジはレミリエのいる格納庫に向かうことにした。



 しばらくして、まさか大氾濫より王家が不在とはいえ、女王の機神AIを使う許可が出るはずがないとノーサスは立ち直った。「これがフラグにならないよな?」と不穏なことを考えながら。


 再起動したノーサスは、作業台でデータと睨めっこしているリリナリエのもとに戻る。


「ソウジは君がパニックを起こしてる間に機兵格納庫に行っちゃったよ。レミリエには代わりに報告しておいてくれるから、今日はそのまま帰っていいよ――」


 リリナリエはもう用はないとばかりに手を振りノーサスを追い払おうとする。その時、大きな音を立てて研究室の扉が開いた。


「ノーサス君は無事!? 危ないことしてないよね! リリちゃん!」


 扉を開けたのは銀髪の美少女だった。 




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