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ウィザードは機兵を駆る  作者: 本間□□
機神の卵編
2/50

使えない魔術師

よろしくお願いします。

 朝日が昇るかどうかという時間帯。パイロットスーツを着た男が双眼鏡を覗く。


 双眼鏡の先には10匹の狼が寝ていた。どこもおかしくない光景だろう。その狼のサイズが7m近くある事と、男の立つ場所が10mの鋼鉄の巨人の手の上でなければ。


「こちらガルム1。本部、応答を求む」


 男はインカムに話しかける。鋼鉄の巨人――機兵頭部のツインアンテナが離れた司令部へ通信を繋ぐ。


「こちら司令部。状況の確認を」

「ターゲットを確認。情報の差異はなし、休眠状態だ」


 司令部の女性オペレーターが男の通信に答えた。

 軍のレーダーが捉えたギガントがそこにいる。八機の機兵がギガントから数キロ離れた森に紛れて草原を監視する。


「了解。それでは準備が整い次第、作戦に取り掛かってください」

「ガルム1、了解」


 ガルム1――――機兵小隊の小隊長は、機兵の手からコックピットに戻る。


「こちらガルム1。全機聞いていたな? とっとと支度を済ませろ、朝飯前の仕事だ」


「ガーディ班いつでもいけるぜー」

 大型の盾を持つ青い機兵達の班長が軽い調子で応える。


「ブレイド同じく」

 巨大な大剣を背負う赤い機兵のパイロットは寡黙に返事する。


「ガルム班もいいな? よし、全機確認した」

 銃を持つ緑の機兵に搭乗した小隊長は、AIに本部への回線を再び繋ぐよう命じる。


「西方方面軍第03小隊、作戦行動に移る」

「こちら本部、〇六・〇〇行動確認。健闘を祈ります」

「全機、作戦開始。狩りの時間だ、しくじるなよ」


 隊長の声を切っ掛けに八機の機兵が一斉に立ち上がり、駆け出した。




 大陸統一国家アルマテサ王国建国から315年。今尚、人々とギガントの戦いは続いていた。


 魔境と呼ばれる場所で生まれるギガント、ダンジョンやマナの過剰集中で生まれる魔物。人材はまだまだ不足している。


 建国の女王と共に戦った戦友達、機神十家がそれを支えていた。大氾濫前より人類の版図は減っているが、平和を維持するだけの力を取り戻していた。


 その平和を支えてきた一つ、アルマテサ魔導学園。学園では優秀な人材を輩出し続けてきた。魔術師、魔導技術者、医療従事者、そして機兵パイロットだ。


 学園は魔術科、魔導科、医学科、機兵科の4つから成り立っている。その中で魔術科と機兵科は魔術適性によって合否が決まる。加速を司る赤、減速を司る青、念力を司る緑、電子を司る黄。この四つすべてに高い適正を求められる機兵科は最難関と言われた。


 そんな厳しい審査を突破した生徒の中に、その四色の適性を一切持たない機兵パイロット候補生がいた。




 四月。新しい風が吹く季節。新入生たちが新生活に浮き立ち、若い活気の溢れる時期だろう。


 雲一つない青空の下、心地のいい春風が少年の頬を撫でていく。遠くから、巨大な何かが歩き始めた音が聞こえる。行事中であるが好奇心に負けて、少年は音のする方へ振り向いた。


 重い足音を響かせ、フレームを軋ませ、力強く地べたを駆ける巨人の姿を少年は見る。遠くに見えるモノアイの巨人――機兵は真っ赤な塗装がされた装甲にランドセルのようなのバックパックを背負っていた。


 走る機兵は砂埃を巻き上げ、大地に傷を残しながら急停止。バックパックの横にマウントされた訓練用らしき銃を外し構える。


 銃口の先にはギガントを模した的があり、それを撃つ。機兵のメイン武器、ビームの特徴的な甲高い音が響く。訓練用の銃は音だけで弾は発射されず、発砲音だけが響いていた。


 射撃音が止むとエンジン――――魔導炉がうなりを上げる。脚部と背部のエアスラスターから空気が流動する。その中には緑と赤の粒子が混ざり、空気の勢いが増していく。その直後、機兵は後ろに飛び跳ね、高速でその場を後退した。


 大きな着地音が響き、新入生の体を揺らす。機兵は胴体の排出口からマナの粒子を吐き出しながら銃を元の場所にもどした。


「かっけぇ」


 新入生達は測定の最中であることを忘れ――あるものは走るのも止めて――目を輝かせて機兵に魅入っていた。


 新入生の士気をあげるためのサプライズであろうそれの成功に、教官達は慣れた様子の苦笑いを浮かべ測定の再開を促す。その後張り切りすぎて、測定後に地面にへばりつくのは学園の恒例行事ともいえる。




「体力測定はこれで終わりだ。休憩の終わった者から魔力測定にいけ」

「あー、きっつ……」


 持久走を終えた機兵科の一年達に、獣人の教官が測定の半分が終わった事を告げる。クラスメイト達と共に、少年は息を切らしてグラウンドに倒れ込んだ。黒い髪は汗にぬれて、黒い瞳は開けるのも億劫だと閉じている。


 校庭には機兵科の三学年、80人ほどの生徒達が各場所に散らばり測定を行っていた。測定は一般的な運動適性テストと魔力適性テストが行われ、魔術科も体育館で魔力適性テストから行っていた


「ノーサス、生きてる?」

「なんとか……」


 しばらくして息を整えると、少年は上半身を起こす。傍にはニヤニヤといかにも悪巧みを考えています、という顔をした中学生くらいの子供がいた。高校生くらいの黒髪の少年と比べても、彼はとても幼い容姿をしている。


「なんだ、もう起きちゃったんだ」

「小人は無駄に元気だよな」


 小人の少年――エルク=シツナは少し残念そうな顔をしたが、すぐに気を取り直した。エメラルドの眼を子供のように輝かせ、明るい若葉色の髪を揺らしながら他のクラスメイトを見渡す。そして、すぐ次のターゲットに目を付ける。


 そんな様子を黒髪の少年は整った顔で見ていた。少し前まで一緒に暮らしていた、孤児院の弟妹分たちが彼の脳裏によみがえる。悪戯好きでいつも騒いでいる子供達と目の前の小人が重なった。


 少年、ノーサスは孤児である。この大陸において孤児はそう珍しいものではない。技術が進み、軍備が充実してきたとはいえ、死者が無くなることはない。そして、それは孤児も同じ。彼はその数多く存在する孤児達の一人だ。


 ノーサスが拾われた孤児院は機神十家によって運営される施設だった。当然、ある程度の年齢になると孤児院を出なくてはいけないが、魔力適性次第で学園に十家の支援で入ることができる。


 黒の適正しかないノーサスは魔術科、あるいは魔導科に入ろうと考えていた。しかし、ノーサスは半ば強制で機兵科に来ることになった。――魔導具を自力で動かせない彼がである。


 ノーサスが魔導具を動かせない原因はマナ適性にあった。魔導具は魔石やコア――ギガントの魔石に魔術回路が刻まれた物であるが、適切な4色のマナを流さなくては起動しない。当然、黒のマナでは動かすことはできない。


 コンプレックスからか、どこか陰のあるノーサスにエルクは頻繁にちょっかいをかけていた。小人にとって悪戯は挨拶であり、厚意であるからだ。


「エルク、遊んでいる余裕があるならさっさと次の測定へ行け」

「了解であります! アルベルト教官殿!」


 真面目な顔でエルクは答えるが、わかりやすいほどに薄っぺらい敬礼だ。

 教官も小人の陽気な性格をよく知っている。注意が無駄な事もだ。それでも教官としては注意しないわけにもいかない。小人という生き物はかくも面倒な種族だった。


「ほらほらリーグ。寝てないで次の測定に行くよ」


 エルクのターゲットになったエルフは何も答えない。否、答えられない。測定中、エルクが煽って全力疾走させられた彼は話す余力もなく倒れていた。


「なに? 立ち上がる元気もない? 仕方ないなぁ。僕が運んであげよう!」


 何もするなと手でアピールするエルフを無視して、エルクは死体を引きずりながらクラスメイト達と体育館へ向かっていった。


「リーグ、強く生きろ……」

 

 遠くから聞こえる死体の呻き声に黙祷し、ノーサスも彼らの後に続こうとする。


「ノーサス、黒の魔力測定は場所が違う。魔導科のリリナリエの研究室へ行け」


 ノーサスは足を止め、不穏な指示に驚いて振り向く。しかし、教官は逃げるように校舎へ小走りで去っていった。

 

 リリナリエに苦手意識しかない少年もといモルモットは嫌そうに空を見上げて呟く。


「……一人であれと戦えと?」



スーパー系よりリアル系が好き。


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