一、
大河
雲の薄くかかった月。
ジンワリと滲んだ光が霜の様に降り積もるアスファルト。
不意に水音が私の耳を行き過ぎる。
ザワザワ……
香ばしいお湯の匂いが雲をどこかに追いやった。
月が光を放つのだ。
光がアスファルトに突き刺さる。
アスファルトの下には河があった。
女神
奇妙な事にその女神は肋骨のすき間から子供を産んだ
子供達は皆女神の体のあちこちで生まれ、溶けた黄金と酸とコールタールの流れる血管を泳いで、女神の胸の皮を突き破って現れた。
すると女神はあまりの痛みと喜びにのたうち、唸り、暴れ回るのだった
そして子供達一人一人の様子を見て、出来の悪い子は食べてしまう。
それから女神は子供達を想ってないた
うじ虫草
枯草色に伸びた細長い茎の先の、奇妙なほが私の目にとまりました
その穂はあたかも枯れた猫じゃらしの実を喰らい尽くし、それでも足りないと蠢いている八匹の黒い幼虫の様でした
今にもまるでオイデオイデをする様に八匹のうじ虫が、不キソクに、てんでバラバラにお辞儀を始めそうに見えました。
しかし、その様な事は何も起こらなかったのです
私はそれをうじ虫草と呼びました
真実
どこからともなく飛ンできた石が私の胸を引き裂いた
ジクジク傷が痛んだ
胸の内側から真実があふれて止まらない
動く度に傷が広がってゆく
真実が、ほんとうの事があふれて止まらない
いたくないいたくない
光の中の幻
スッて一本の線みたいになって本を読む君を橙色のおひさまがキラキラ照らしてる
おっきな背中をちょっと曲げて、君は真剣な顔して読んでたよね
真っ白い肌をちょっとピンクに染めて、高い鼻に光を受けて。
そんな君の横顔をしばらく見ていたよ
きれいだなって見ていたよ
空の天井
閉じて、それでいて広く、剥き出しのコンクリートに塗れたこの部屋で、私は今日もただ椅子に座っていた
沈黙と寒気とが一緒くたになって私におおい被さり、無味無臭の苦痛だけが私を内側から引き裂こうとするかの様に膨れ上がる
それは瞬く間に胸の中を満杯にし、肋骨のが限界を超えてみしみしと音を立てるかに思われた
その時、私のほほをピシャリと一粒の水滴がうった
キラキラとまばゆい光と供に舞い降りたこの雫は一体どこから?
それに気がついた時、私の頭上を一羽の大ワシが飛び過ぎた
巨大な翼が羽ばたき、巻き起こされた突風が私を痛みのない苦しみから、胸にポッカリと空いた穴に溜まった汚水からすくい出す。
私はたまらず椅子を蹴倒して立ち上がると、わき目も振らずに駆け出し飛び上がる
大ワシの足首をむんずとつかみ、大ワシと供に空虚に塗れた部屋を飛び出した
大ワシはどこまでも遠く高く私を運んでくれる
そんな気がしていた