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サナの人類救済の旅  作者: あおば
第一章 第一節 新たな世界
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第二話 お試しの魔法



「あ、水の音……」


 森に入ってから二時間ぐらい歩いていると、前方から水の流れる音が聞こえた。

 行ってみると、これから川になっていくのだろう、小さな水の流れがあった。


 喉が渇いているわけではなかったけれど、木漏れ日が反射してきらきらと輝く水面を見ていたら、手の平で水を(すく)って飲んでいた。


「冷たい……」


 なんとなく、気力が回復したような感じがする。

 よし、まだまだ進んで行くことにしよう。


 私の左斜め後方から、右斜め前に進んでいくように、水は流れている。

 気づかなかったけれど、ここの辺りはちょっとした山になっているのだろう。

 ちょうど川の下流の方に、レベルが高い存在が集まっているようだ。


「もしかしたら、人が集まるような場所があるのかも」


 人が生きていくために、水は必要不可欠だ。

 元の世界でも、文明は川の近くで発生してきたのだったと、学校の授業で習った気がする。


「人間がいたら、万々歳ね」


 魔物でも、話が通じるならば当たりだろう。

 話が通じない、私を見たら襲いかかってくるような魔物ならば……うーん、それでもいいかもしれないな。


 とにかく、私は何かしらの刺激が欲しいのだった。


「まあ、行ってみるしかないかな」


 私はさらさらと流れる小川に沿って、また歩き始めた。






 それから、川の幅がだんだんと広がっていくにつれて、じわじわと空が暗くなっていった。

 私が初めてサーチを使用したとき、どれほど遠くの存在を感じ取ったというのだろう。

 最初の段階からは近づいているが、まだまだ距離があるみたいだ。


「今日中には、着かないな……」


 これ以上進むのは諦めて、ここの辺りで寝床を確保するようにしよう。

 疲れないなら走ったりしようかな、とも思ったが、どんな危険があるかもわからない。

 それに、別に急いでいるわけでもないから、普通に歩いていたのだ。


 辺りを散策してみると、元の世界では見たことのない、ふかふかの葉っぱを持つ植物が生えていたので、それを地面に敷いて即席のベッドにした。

 そして、そこら辺に落ちている枝を組み上げて、ベッドの上に屋根を作る。


「おお、なんかいい感じ」


 見栄えはあまりよくないけれども、寝るという行為に問題は生じないだろう寝床ができた。


「あとは……たき火かな」


 キャンプみたいなのだと、だいたい火を起こしたりしているよね。

 でも、あれって、寒かったり、獣除(けものよ)けのためとかの火なのかな。

 いまは別に寒くもないし、この世界の私は熊がでてきたときに、のんきに寝ていても大丈夫な存在だ、おそらく。

 たき火は、必要ないかもしれない。

 しかし、火を起こす魔法が使えるならば使ってみたいが……うーん、森の中で失敗したら、大変なことになるし。


 そんなことを考えていたら、森の中はすっかり暗くなっていた。


「……暗いから、夜です。夜になったから、寝ます」


 私は、誰にともなく宣言して、作った寝床にぼふんと寝転ぶ。

 体力的にはまったく疲れていないが、気持ちの方は……どうだろう、わからない。


「今日は、いろいろあったからなぁ……」


 気付いたら女神の部屋にいて、異世界の森を歩いて。

 今日の出来事を思い返しながら目を閉じると、私はすぐに夢の世界に入っていってしまったのだった。






 目覚めると、まだ薄暗かったけれども、木々の葉の間から夜明けの紫がかった空が見えていた。


「……空の色は、同じなのね」


 私は早起きが得意な人間――部活の朝練にも遅刻したことがないのだ。えっへん――なので、さっそく出発するための準備を始める。

 とりあえず、立つ鳥跡を濁さずだろう、昨夜作ったベッドは、できるだけ解体してきれいにしておいた。

 次に、着替え――といっても服はひとつしかないのだから、そのまま着ていくしかない。


「この服……なにか特別なものなのかしら」


 アイリに授かったワンピースは、昨日、草原や森の中を歩き通したにも関わらず、ひとつの汚れもついていない。

 下着も同様である。


「まあ……あれでも女神様なんだから、神のご加護みたいなものがあるのかな」


 私は深く考えずに、ただ、なんとなく下着は洗いたかったので川でじゃぶじゃぶとしてから、そこら辺の枝に干しておいた。


 そして、ワンピースも脱いで裸になった私は、ついでに川で水浴びをして、ゆらゆらと漂うことにした。

 綺麗な(あか)く長い髪が川面に広がり、(かす)かに届く朝の光を反射してきらきらと輝く。


 ちなみにサーチを使っているので、周囲に誰もいないことは確認している。

 しかし、外で裸になるのはなんとなく抵抗があるな。


 ……これ、アイリは見ているのだろうか?

 なんとなく身体を手で隠して、空を見上げる。

 紫色から(あけぼの)色に染まりゆく、綺麗なキャンバスが広がっていた。


「見てるのかな……」


 つぶやいて、私は水の中にぶくぶくと隠れる。

 次に水面に顔を出したとき、空の色はすっかり曙色に変わっていた。

 しばらくしたら、真っ青な絵の具で塗り替えられていくのだろう。


「たき火しておけば、よかったかも」


 濡れた髪を乾かしたり、下着が乾くのを待たずに済んだかもしれなかった。


「もう明るいし、川もあるから……大丈夫かな」


 もし火事になったとしても、すぐにわかるし、水も近くにある。

 私は、火の魔法が使えるかどうかを試してみることにした。


 川縁(かわべり)に立って、なんとなく川の流心(りゅうしん)に向かって手をかざす。

 これ、何も起こらなかったら滑稽(こっけい)の極みじゃないかしら。

 すっぽんぽんで、かっこよさげなポーズを構えている女子高生が、ここにいる。


「ファイア」


 なにか言った方が魔法使ってる感じが出るなぁ、と思って私はつぶやいた。

 すると、私が手をかざしていた方向の川の水が、大きな音を立てて爆発した。


 静謐(せいひつ)だった森の空気を、私が起こした水蒸気爆発の轟音が切り裂いていく。

 静かな朝を迎えようとしていた小鳥などの小動物が、一斉に動き出したのがわかる。


「……それもそうか」


 弾け飛ばされた大量の水が辺りにばらばらと落ちていく中で、私はひとりごちた。


 物理現象は、元の世界と同じようだ。

 私が発生させた火が川の水に触れたことで、一瞬で気化したのだろう。

 魔法なんていうファンタジーが存在するのに、おかしな話だ。


 幸いにも、森の木々に燃え移っているようなことはなさそうだ。

 不幸にも、別に濡れていなかったワンピースがびしょびしょになってしまったけれど。


 しかし、一度その魔法を使うと、頭の中で回路が繋がるかのようだ。

 私は、自分の周りに火球をいくつか発生させる。

 それをぐるぐると回しながら、徐々にそれらを合流させて、最後は龍のように炎を形作る。


「おお、自由自在ね」


 サーカスで活躍できそうと思いつつ、私はファイア――火の魔法の呼び方だ。わかりやすいのがいいでしょ――を使用して、ワンピースとパンツを乾かす。


 すっぽんぽんで乾燥機の役割を(にな)いながら、服が乾くまで、私は魔法について考えてみることにする。


 先ほどの水蒸気爆発によって、ひとつの仮説を立てることができた。

 それは、魔法を使用するときにイメージの具現化が行われているのではないか、ということだ。


 試しに、ぽんっと火球をひとつ生み出して、川に飛び込ませてみる。

 それは放物線を描きながら水面に到達し、じゅっと音を立てて消えていった。


 おそらく最初にファイアを使用したときは、私が、火は熱いもの、という想像を強く持っていたから、かなり高温の炎が発生して爆発したのではないだろうか。

 現に、いまの火球は水に触れても爆発するほどの熱量ではなかった。


 ただ、イメージすれば何でもできる、というわけではなさそうだ。

 濡れた服を一瞬で乾かすことも、寂しいから目の前に誰か出てこいという願いも、どちらも叶うことはなく、不発だった。


 まあ、これから少しずつ試していくことにしよう。

 それに、街に着いたら、魔法について知っている人――魔物でも可――がいるかもしれないのだ。


 そんなことを考えていたら、十分(じゅっぷん)も経たないうちに、私は乾いた服を着ることができた。


「よし! 行こう」


 まだ木々に隠れて太陽も見えていない時間だったが、私はさっそく出発することにする。

 今日中に、誰かに会うことができればいいなと思うからだ。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔法強すぎ(笑)魔王様の数倍のレベルは伊達ではありませんね…。本気で構築した魔法とかどうなっちゃうんだろ۳( ̥O▵O ̥)!!気になります!
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