3.妖精
知ってるみんな?貴族って学校行かないんだって!
いやこの言い方だと語弊が出るな。
大学とかになると貴族でも学校に行くんだってさ。
あとは高名な学校で、社会性を育むために放り込むんだってよ。
だから妹のシンシアは通ってるみたい。
あ?俺ですか??
激くそ身体弱いんでね……学校行っても仕方ないんだと。
前は通っていたらしいけどほら、俺ってば病気がちだったしな。
自主退学して自宅学習へと切り替えたんだよね。
でもさ学校っていいじゃん?
あれだけの同世代の人間が集まって同じ方向向いて勉強するのって。
俺も学校からしばらく離れたら思ったわけ。
貴重な時間だったんだなって。
友達はいなかったけどな、いいもんよ?
知人は多い方だったし友達じゃなくても関係は出来るのよ。
でだ。両親に交渉してみたんだが俺様撃沈☆
先日のデビュー戦でのこともあり、無理はさせられないからと拒否られた。
「でもさ、暇じゃん?」
俺の世界は屋敷の中だけで~す~か~?
暇すぎて脳蕩けそう。
別にさぁ長時間じゃなかったら外出は許可しても良くない?
あまりにも過保護なのはどうかと思う。
って感じは俺はこの数日、親に絶賛反抗期中ですわ。
せめて外出、もしくは野外学習を所望。
先生が俺の屋敷に通うのではなく、俺がお宅訪問を希望。
それぐらいなら良いでしょと交渉するがダメ、ダメ、ダメ。
流石の俺も切れたね。
あっそ。だったら俺は学習をサボるわ。
ということで、教師の前で俺は平気でお絵かきを始めましたとさ。
目の前の女教師が青筋を立てているのよ。
いやぁすまん。これも俺の自由を獲得するためなんや。
「ミミ先生できました。チューリップです」
ビキッビキッと数学の先生は血管がはち切れそう。
しかし俺のこのチューリップはクオリティが高い。
元花屋の店長。細部まで書き込めるのだ。
ほれほーれとミミ女史に絵を掲げる。
「フリージア様。今はなんの時間でしょうか」
「お絵かきの時間です」
「……違います。数学の時間ですよ」
俺はちらりと数列が並ぶ用紙を眺めた。
さすがに7歳が教わる数学ぐらい教わらなくても解けるし。
中身大人ですから。
しかしそれを解こうとは思わん。
これで教わってもいないのに出来たりしてみろ?
天才だー!秀才だー!っとなるだろ。
馬鹿か。逆じゃボケ。普通の脳みそじゃこっちは。
俺は勉強する才能は持ち合わせてない。
しかもフリージアちゃんも勉強お嫌いなレディなのよ。
それでどーして頭が良くなるのか。知りたいものだ。
流石に俺も底抜けの馬鹿じゃないから出来ないフリをする。
「解けませんもの。だから絵を描いてます」
「それを教えて差し上げる時間ですわ」
「いいえ。結構ですの。
今は両親とどちらが折れるのか勝負中なので」
「は?」
先生は悪くはありませんが、付き合ってもらいます。
「私の自由がかかった戦い……その犠牲になったのです」
ということで
「できました先生!!大作ですっじゃーんバラ♪」
いい加減にしろー!!っと屋敷中に響き渡るミミ女史の声。
ひと暴れしそうなほど興奮した様子で、駆け付けた警備員に連れていかれました。
チーン。犠牲になったのだ。犠牲の犠牲ににな……。
えぇ当然、俺はママンに呼び出しをくらいました。
「何が不満なのですフリージア」
「外に出たい」
「……お願いよ。家で大人しくしていてちょうだい」
「嫌です。私はもう大丈夫です。
それにお医者さまだって普通の生活をする分には支障はないと言ってるわ」
そう、お医者さんの太鼓判もあるのだよ。
「籠の鳥はもう十分堪能したわ。これ以上、私から自由を奪わないで!」
「フリージア……でも、母は心配なのです」
いや知らねぇよ。いや理解はできるけど。
けれどその感情の押し付けは、お互いに遺恨を生むだけだぜ。
「お母さまのお気持ちはわかっているつもりです。
ですが、私はこのままの方が辛いのです」
世界のすべてが屋敷の中で終わる人生なんて真っ平。
折角、こうして何の因果か俺は目覚めたのだから人生を楽しみたい。
人生の目標もあるわけだし、俺は男としての生活も諦めてはいない。
ちなみに俺が生きていた時代から300年経っているのだ。
いや一番度肝を抜いたのは俺の生まれ育った魔法大国が消滅してたことよ。
俺は足を滑らせて後頭部を強打して死んだと思ったが違ったらしい。
その時代、その時。
大国は一夜にして更地になったのだ。
良くわからん高次元の魔法の研究の結果、力が暴走しボーン。チーン。
……うっかりで死んだわけじゃないらしいよ。
だからさ我思う。
一瞬を大事にし、人生の目標を持ち(男になる夢)万進することが大事だと。
「お願いですお母さま。
私から可能性を取り上げないで……」
ここで娘の懇願だ!!
弱弱しい声で祈るように母を見上げるのだ。
そしたら母はうっと胸を押さえた。効いてる効いてる。
「でも、でも……」
麗しの母は思い悩むように俯いた。
母の中で葛藤しているのだろう。俺は固唾を飲んで見守った。
「……えぇ。そう、そうね。この母も子供の頃はお転婆だったわ」
あ、それは何となくわります。
「私の遺伝ね。そうよね私の子だもの……自由を尊ぶ意思はこうして引き継がれるのね」
母の瞳はしっかりと強い意志を宿していた。
「わかったわフリージア。貴方の外出を許可しましょう」
ぱあぁあっと世界が明るく照らされたようだ。
「お母さまありがとう!」
「でも約束して。無茶はしないって」
「はい!」
「あと家での学習も怠らないこと」
「はい!もちろんです」
娘の無邪気な返事に母はクスクスと笑う。
そうねぇっと母は呟きながら視線は天井へ向けられた。
「先生はどうしましょ。フリージア。外で何を学びたいの??」
「魔法の勉強がしたいわ」
「……。魔法?」
変わり者を見るような目で娘を見るなよ。
いやわかってるよ?俺も勉強したからね特に歴史は。
魔法大国が消滅し、魔法の技術は何世紀も後退してしまったことを。
特にこの国は元々魔法とあまり縁がなく、一部の人間のみが独占的に使用しているだけだった。
かの建国の王を支えた12人しか魔法を扱えなかったらしいし。
魔法の技術は今や300年前よりもぐっと遅れている。
当たり前だった知識が、この国では未知の領域であったのは驚愕したものだ。
だからジークフリードはオッドアイの原因が魔力であることを知らなかったのだ。
彼の親は教えなかったのではない。マジでその知識がなかったんだ。
よかった。まだ口の堅そうなジークフリード君で。
ペラペラと喋ったのが一人の少年でよかった。
これを大人に喋ったらどうなるのか……こわっ。
俺が想像するよりも恐ろしいことになりそうで、怖くて誰にも言えねぇよ。
しかし庶民が持つ魔法の知識など大したものじゃない。専門職に比べればゴミ。基礎知識のさらに底辺なのだよ。
少数であったとしてもこの国にも魔法はあるのだし専門家さんの話を聞きたいのだ。
俺の男に戻るという夢のため!失ったモノを取り戻すために!
「私すごく魔法に興味があるの。
だからお願いお母さま!私に魔法使いの先生をつけてほしいの!」
うるうると瞳を濡らし母に訴えかける俺。
俺の夢の為、そして自由の為に必要なのだ。
「わかったわ。先生はこちらで探しておくからそれまで大人しくしてちょうだい」
「はい!お母さまっありがとうございます」
よっしゃー!!!!
こうして俺と両親との冷戦は終わり。
今日から普通に家庭教師を暴徒にクラスチェンジさせることもなくなった。
日々の生活は魔法を教われると言う希望があったので人生が少し楽しくなってきた。
そしてついにママンから「先生が見つかったわ……変人だけど」っと聞かされたのだ!
いいよいいよ!魔法使いなんて変人ばっかりだから気にしないよ!
先生は第1階位フィッシャー家前当主ウィリアム様。
隠居中で且つ、魔法に精通した御仁らしい。
俺の熱意を聞いたウィリアム様は興味を持ってくれたみたいで、先生に立候補してくれたらしい。
さすが第9階位のご令嬢。
時の12階位から先生を付けてくれるとは……すご。
ということで。俺は今その第1階位フィッシャー家にお邪魔していた。
ママンが現当主の奥様と会談中、俺は屋敷の中を散策しても良いと許可を頂き探索中である。
ウィリアム様の別宅は本家から少し離れているらしい。
ママン会談が終われば俺はそっちに移動し、念願の魔法のお勉強が待っていた。
しっかし流石フィッシャー家だ。
「全然人いねぇ」
そうこの屋敷、無人なんじゃね?とか思うほど使用人も全然いない。
フィッシャー家は自国に留まっていられる性分ではないらしい。
職人気質で魔法道具を作るのを生業にしている。
ポーションの独占的な販売及び製造を行っているのも有名だ。
時の12階位では一番位が低いがとんでもない。
経済を回しているのは第5~1階位の方たちなのだ。
位の高さ=地位の高さであるのは違いないが根本的な上下関係は存在しない。
「にしても……お化け屋敷?」
フィッシャー家夫人が面白がって散策を許可するはずだわ。
古びた屋敷は手入れはされているものの、薄暗く雰囲気がお化け屋敷のような不気味さがあった。
「良い趣味してんな」
それでもこうして手入れし、新しく建て替えないのだから想いが詰まっている。
放浪癖があるフィッシャー家の人たちにとってここは帰るべき場所なのだろう。
俺はお化け屋敷を散策して一つの扉の前で立ち止まった。
シャランシャランと甲高い楽器の旋律のような音が聞こえてきた。
「ん?」
聞き覚えるあるような音に俺は誘われるが如く扉を開いた。
古い扉はギシギシと音を立てながら開かれた。
俺は音のする方へ歩き出しこっそりと部屋に入る。
シャランシャランと音は続き、近寄るとその音は大きくなる。
部屋の奥に続く別部屋があり俺はお邪魔しまーすと顔を覗かせた。
するとそこにはソファーで眠る妖精がいたのだ。
背中まで流れる白く七色に光る髪が窓からの光で照らされていた。
伏せた睫毛が影を作り、日に焼けていない肌は滑らかであった。
しかし着ている服を見て、この御仁が男性であると理解した。
そして妖精の髪はふわふわと宙を浮いていたのだ。
「……あー」
俺はすかさず魔眼を展開。
妖精の周りには低級の妖精が3人ほど群がっていた。
小さな羽と人型の影がありその全貌は見ることは出来ないが光妖精だろうと思った。
光妖精はシャランと澄んだ音を出しながら一人が俺のところにきた。
「こんにちは」
挨拶をしてみるがまぁ俺も相手の言っていることはわからんし光妖精もわからん。
意思疎通は無理だったが、光妖精が俺の服を掴んで引っ張るので来いと言われてるのだろう。
「なんでしょう」
まぁ来いと言われてるのなら行きますけどね。
未だ大きな妖精さんの美しい髪は宙に浮いているというか、他の光妖精に摘ままれていると言うか。
何してんのこの光妖精たん。
俺を引っ張る光妖精さんは大きな妖精さんの前に連れ出された。
いやぁ近くで見ても美しい。男なのに綺麗だねぇ~。
ここまでの美貌だと俺の中のフリージアちゃんも大人しい。
芸術作品みたい完璧な美を体現する妖精さんは深く眠っているのか近寄っても起きはしない。
「……あ、そゆこと?」
その美が崩れている箇所があるならばそれは髪だろう。
悪戯なのか、それとも治そうと頑張った結果なのか美しい白い髪はぐちゃぐちゃよ。
三つ編みされていた髪は髪留めが解け……いや切れてしまっていた。
あらあらと千切れた髪留めを拾いこりゃ駄目だと戻した。
俺は自分の髪飾りであるリボンを引き抜いた。
「私がやってあげるわ」
妖精さんにとりあえず言ってみた。
すると宙を浮いていた大きい妖精さんの髪はぺたりと元の位置に戻った。
俺は失礼します~って心の中で断りを入れながらその美しい髪に触れた。
さら~さら~っと指から髪の毛が抜けていく。
うわっ結びずらい……幼女の手は器用じゃないんだぜ勘弁してくれ。
俺は四苦八苦しながら眠る妖精さんの為に俺は三つ編みをがんばった。
近くを飛ぶ光妖精たちは興味深そうに漂っていた。
「これでいいかしら?」
三つ編みを完成させた俺はドヤ顔で光妖精を見た。
彼女達は嬉しそうにクルクルと宙をかけていて俺は達成感を感じた。
さてと謎も解けたし俺は帰ろうかね。
ギシッと体を反転させ俺は一歩踏み出そうとしていた。
それを大きな手が俺の手首を掴むまで俺はそのつもりだったんだ。
驚いた俺は振り返って眠っていた妖精さんを見た。
その輝かしいほどの金の両目を見つめ言葉を失った。
なんて美しいのだろうか。
「君は、だれ?」
声も鈴のように綺麗で勝手に体が震えた。
息を飲む俺に妖精さんは厳しい目つきで俺を見ていた。
「どこから入ってきた」
「わ、わたし、」
ギリギリとした強い殺気さえ立ち込めた瞳。
全てを拒絶する目はそりゃもう恐ろしく俺は……。
「ふぇ」
「!」
ポロポロと泣いてしまったのでした。
自らの流れる涙は止まることを知らず、大の大人な俺は泣いたのでした。
こ、こえ~こぇ~よ。
マジ失禁しなかったことを褒めろや妖精さん!
そうなったら大惨事だったぞ!褒めろっそして俺を慰めんか!!
キィキィと不快な音が周りから聞こえていたが俺は泣くのが忙しい!!
「ひっく、ふぇ、ぇん」
「……ぁ」
絶句する美しの妖精さんはオロオロとするばかりで慰めもしねぇ!
「やぁ……な、にもひっく悪い事、ふぇしてない」
未だ放してくれない手首だって痛いのだ。
もう俺は混乱と痛みでなんで俺がこんな目にと泣く。
そりゃ勝手に部屋に入ったのは悪かったと今なら思います。
それでも俺はすぐに出ていくつもりだったんだ。
でもそこにいる光妖精さんに連れられて出ていけなかったのだ。
そんな俺を脅かすとは……許しまじっこの馬鹿っ馬鹿っ馬鹿妖精さんっ
「き、らい……ひっふぇ」
「!」
ハッとした妖精さんが漸くきつく握っていた手首を開放してくれた。
俺はそれを見るや否やその場から駆け出した。
「あっ」
後ろで間抜け声を出した妖精さんを背に俺は逃げ出したのでした。
びぇ~っと泣きながら俺は元来た道を辿りママンの元へ帰ったのだ。
「ふ、フリージアどうしたの!?」
「……なんでもありません」
泣きはらした顔のままの俺にママンは驚愕し我が子を抱きしめる。
しかし泣いて逃げてきたとは男のプライドとして言えぬ。
涙は止まっていたが膨らんだ瞼は誤魔化せなかった。
ムスッとする俺にフィッシャー夫人が俺と目を合わすように屈んだ。
「誰かに会ったのかしら?」
「いいえ。誰とも会ってません」
キリっと間髪入れず俺は言い切った。
そう俺は今日誰とも会ってはいません。
「転んでしまったの」
「……そう?」
疑いの眼差しを向けられつつも俺は視線を泳がすこともなく頷いた。
ここで目でも逸らしてみろ?妖精さんに会った事がバレるじゃないか。
「でもこんな顔じゃ先生に会えないよね」
そう母に言えばもちろんそうであった。
泣きはらしたままで先生と初対面とは失礼にも程がある。
「ごめんなさいお母さま……」
俺は意気消沈しながら帰路に立つこととなってしまった。
心配性な母が俺をこのまま学習に付けるはずもなく……後日と流れてしまった。
楽しみにしてたのに……ぜってぇ許さねぇあの妖精クソ野郎。
俺は美しの妖精を思い出し苦々しく思うのであった。
「母上」
「……あら、珍しい貴方がこっちにくるなんて」
15歳の息子がいるとは思えぬ母が驚いたように目を丸くした。
私は応接間を横目で見ながら小さな女の子がいないことを確認した。
「女の子が来ていませんでした?」
「えぇ第9階位エディフィールド家の長女フリージアちゃんよ。可哀そうに目を真っ赤にして瞼も腫れてね今日は帰って行ったわ」
「……」
ちく、ちくっと母は責めるように言う。
「なぁんにも言わなかったわよフリージアちゃん」
「え?」
「ただ転んで泣いたのって言ってたわ」
はぁっと大きなため息をついて母は私を呆れを含んだ目で見た。
「幼い女の子に何をしているの」
「それは……」
私も流石にそう思っています……。
彼女の紫の瞳から涙が零れる様はズキズキと胸を痛めた。
「本当に珍しいわ。貴方が反省してるの?」
「私だって人の子ですよ母上」
冷血であると自覚はしていますがね。
しかし幼い女の子を泣かすつもりはなく……。
謝りたかったのだが帰ってしまったか。
「心配せずとも彼女ならまた来るわよ」
「……なぜ?」
フィッシャー家に用があるなどと珍しい。
政治には一切関与しない我が家に第9階位のお嬢様がなんの用だ。
「魔法に興味を持っているそうでね。
おじい様に魔法を習うからしばらくこっちに通うのよ」
「魔法に?それは変わっている」
一部の才能ある者だけが扱える神秘の力。
才能がないものには無用の長物であるし、ただの時間の無駄だ。
「彼女には魔法の才能が?」
「いいえ。本人からそれはないっと聞いたわ。
それでも知りたいのですって。目をキラキラして言っていたわよ」
クスクスと笑い母は微笑ましそう顏を綻ばせた。
私は少しだけホッし自身の髪を留めている赤いリボンを見た。
先ほど光妖精たちからこっぴどく怒られた。
『年端もいかぬおなごを泣かすなど!』
『あのおなごは我らの願いをきき手伝ってくれたのだぞ!』
『愛し子よ、謝ってきなさい!!』
キィキィっと光妖精は激怒していた。
不快な音を出しながら言いだけ言って何処かへ行ったけど。
普段は私に近づく不穏な影から守ってくれるのだが……。
「あの子が来たら教えてください」
「……えぇわかったわ」
私は自室へと戻る中、涙を流す彼女を思い出す。
そう言えば彼女は私を見て怖がっていたが嫌悪はなかったなと。
「変な子供……」
第1階位フィッシャー家 次男キール・フィッシャーはくすっと笑みを一つ落とした。
これがフリージア・エディーフィールドとの出会いであった。